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第88話 苦手な物

 カラオケボックスから出て、しばらく歩いた位置で金谷先輩が振り返る。


「二人とも。お祭り、楽しんできてね。じゃ、お盆明け!」

 

 手を振りながら、そう言う。

 先輩の姿は段々と小さくなっていく。

 

「俺たちも行くか」

 

 夏祭り前に会うのは今日が最後になるかもしれない。今の所は、お盆明けに篠森と遊ぶ予定を作っていない。

 

「うん」

 

 カラオケ前から歩き始めて、篠森は「ごめんね」と篠森が言う。

 

「どうした?」

「カラオケでさ……歌わなかったから、それが」

 

 それを俺と先輩が楽しんでいるのに水を差したような感覚がしたのか。

 

「別に、俺も先輩も気にしてないって」

 

 歌いたくないのであれば、歌わなくても全然良いのだ。そう言ったのは俺と先輩なのだし。だから、篠森が気にする必要はない。

 

「私、歌下手でさ」

 

 少し驚きだった。

 

「そうなのか?」

 

 篠森が苦手な事を俺はあまり良く分かっていない。俺の問い返しに篠森が「うん」と小声で答える。

 

「だから人前で歌いたくなくて」

 

 仕方がない。

 友達でも、気心知れた中でも笑い物にされるかも知れないと思えば恐いのは当然だから。俺がそうしないと言っても、先輩がそうしないと言っても。

 

「じゃあ、仕方ないな」

「…………」

「俺だって、学校で問題解けなくて笑い物にされたら嫌な気分なるし」

 

 誰だってそうじゃなかろうか。

 馬鹿にされて良い気分でいられる人間なんてのは中々居ないだろう。

  

「だから……さ。俺は、篠森の歌いたくないって気持ちは全然おかしくないと思う」

 

 その気持ちを否定なんてする事はない。

 

「ま、そう言う事だ」

 

 学校で音楽の授業は無いから、篠森の歌を聞くこともない。音楽に関わる様な行事もないのだから篠森の言う下手というのが、どの程度かも分からないが。

 

「……ありがと」

「別に、気にすんなって」

 

 こんな事でお礼を言われても。

 

「それに篠森の一面が新しく見れたからな」

 

 そう言う意味では、俺としては嬉しく思うところもある。篠森の事をより知れた様で、それが友達として深くなった様に思えて。

 

「…………そ」

 

 篠森が顔を横に逸らす。

 

「……どっか寄ってくか?」


 篠森が俺の方に向いて返答する。


「ううん。今日は大丈夫」

 

 そうか、と俺の口から漏れ出る。


「うん。ドリンクバーで喉渇いてないから」


 お盆に入ればまず、篠森に会う事はなくなる。そして、先輩にも。お盆の間に誰かと会う可能性があるとすれば、倉世くらいだが……恐らく、話す事はないだろう。

 

「ねえ、お祭り」

「ん?」

「楽しみだね」

 

 笑みを浮かべる篠森に、俺は「そうだな」と頷いた。


「俺も楽しみにしてる」

 

 年に一度の夏祭り。

 その日はただ篠森と楽しめたら良い。その為には金谷先輩の言う通り、倉世と三谷光正の事を考えなければならない。

 とは言え、倉世に顔を見られない様にするのは決まっていて。

 

「甲斐谷?」

 

 俺を不安そうな顔をして篠森が見上げてくる。

 

「あ……悪い悪い。ちょっと考え事を」

「倉世の事……?」

 

 分かるのか。

 いや、俺の頭を悩ませている殆どは倉世が理由なのだから。

 

「…………」

 

 何と答えようか、なんて迷えば篠森にはきっと分かるのだろう。伝わっているんだろう。

 

「まあ……そうだな」

 

 俺が肯定すると、篠森は「だよね」と笑う。

 

「……ほら、俺と篠森が一緒に居るの見られるとさ」


 今後の作戦に影響が出てくるだろう。


「うん」


 篠森も俺の言いたい事を分かっている筈だ。


「だから、それの対策を考えてて……」

 

 篠森は困った様な顔になり、俺は「大丈夫、対策は思い付いたからな」と言う。

 

「そうなの?」

「ああ。だから心配しなくて良い」

 

 何とかする。

 それは俺の役目だから。

 篠森の顔に浮かんでいた僅かな緊張が解けていく。

 

「そっか」

 

 そうして篠森の顔には笑みが浮かぶ。

 

「それで対策って言うのは?」

 

 篠森の疑問はまあ、当然だ。

 

「まあ……なんだ」

 

 少し馬鹿らしく思える様な対策で、大した物である様に語るのは流石に恥ずかしい。これは俺の事を覚えていない今の倉世だから成り立つ物だ。

 

「お面を買おうと思ってんだよ」

「お面……?」


 篠森がコテンと首を傾げる。

 俺は繰り返して答える。


「そう、お面」

 

 最低限ではあるが、不自然にならずに顔を隠す手段として使える筈だ。

 

「お面……何のお面買うの?」

「それはラインナップによるけどな……」

 

 まだ決めてないと、俺が言えば「なら、あのゲームのさ……」と、篠森からの注文が入る。

 

「じゃあ、それにするか」

「いいの?」

「篠森からの注文だしな」

 

 それに、だ。祭りで並べられるお面で他の物となると、基本は子供向けだからか中々絞られてくる。

 なら。

 

「お互い知ってるやつのが良いだろ?」

 

 それのが話のタネにもなるだろう。

 

「そうだね」

 

 篠森は「最近、ちょっとずつ分かる様なってきたんだ」と俺を見ながら言う。


「また遊びに行くから」


 それはつまり、またゲームをやらせてくれって事だろう。


「おう。待ってる」


 俺に断る理由はない。

 いつだってゲームは出来る様にして待っている。次に篠森が遊びにくるのは夏祭りの前か、後か。

 どうなんだろうか。


 

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