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第86話 以心伝心

「お、優希くーん!」

 

 呼ぶ声のした方向に顔を向ける。

 

「金谷先輩」

 

 学校に着いたのは一二時を過ぎたあたりだ。俺が階段を上り終え、二階の廊下に出た所に先輩が駆け寄ってくる。

 

「よ……っ!」

 

 先輩が軽く右腕を立てた。俺はそれに対して「こんにちは」と挨拶を返す。

 

「今日はどうしたの?」

「クラスの集まりです」

 

 学園祭の準備で集まってほしいと言われたのだと答えれば、先輩が「成る程ね〜」と納得したのかウンウンと首を縦に振る。

 

「あれ、楓ちゃんは?」

 

 俺と篠森が一緒にいない事を不思議に思ったのか。

 

「別に常に一緒に居るわけじゃないですよ」

 

 大体は帰る時くらいで、学校に来る時はバラバラだ。

 

「それもそっか」

「そうですよ」

 

 どの道、教室には居るんだろう。

 その教室では倉世が居るから、話す事はまず出来ないだろうが。

 

「先輩は相変わらず今日も補講ですよね」

「そうそう。ま、あと数日の辛抱だし。お盆来るし」

 

 先輩がスマホを取り出す。

 多分、時間を確認したいんだろう。

 

「今は一二時過ぎですよ」

 

 俺が先を読んで今の時間を伝えれば「お、ありがとね。以心伝心ってやつ?」と先輩がケラケラと笑う。

 

「では、問題です。今わたしの考えてる事は分かるかね?」

「いや……ちょっと分かるってだけで、そこまで精度良くないんですけど」

 

 俺は少し考えてみて「お腹空いた、とかですか」と確認すれば、先輩はやれやれと態とらしく溜息を吐く。

 

「わたしと優希くんはまだそこまで分かり合えてないみたいだね」

「そうですか」


 別にそれは何だって良い。

 少しばかり感じるところはあるが。

 そんな事より、だ。


「というか、金谷先輩は時間大丈夫なんですか?」

 

 俺も教室に向かわなければ時間になってしまうが、先輩だって午後からの補講がある筈で俺と話している余裕と言うのがあるとは思えない。

 

「よし、答え合わせね! そう、土曜日空けといて! 楓ちゃんにもよろしく!」

 

 一〇日、という事はお盆に入るギリギリ前という事か。

 

「息抜き、ですか?」

「うん、そういう事〜」

 

 先輩は教室に向かって行ってしまった。

 

「……大丈夫、か?」

 

 正直、お盆前だからまだ問題はないんだろうが、若干の不安がある。父さんと母さんに一応聞いておくか。

 

「てか、何するか聞いてなかったな」

 

 諸々確認して、先輩の息抜きが何かを聞いて。いや、今は教室に行かないと。時間も……いや、多少は余裕があるか。

 とは言え、学校で何かをするのも思いつかない。

 

「甲斐谷くんじゃん!」

 

 俺は背後から聞こえた声に肩を震わせてから振り返る。

 

「やっ」

 

 今回、学園祭の準備に集まってほしいと呼びかけた実行委員女子。

 

「おう」

「甲斐谷くん、返信なかったから来るか来ないか分かんなかったんだよね」

 

 前回もだけど。

 自然と俺と彼女は一緒に歩いていく様な流れになり、俺は質問する。

 

「そういや、準備ってのはどこまで」

 

 俺がそう口にすると困った様な顔をして「いやぁ、あんまり……ね」と言う。

 

「なんて言うか……その、力になれなくて悪い」

「いやいや、そんな気にしないでよ。どうせ他のクラスもこんなもんだし……。今日はこっちで勝手に探してきた射的台の確認とかで終わるだろうし」

 

 そう言うものらしい。

 俺には細かい事は分からないけど、彼女が言うにはそうなのだと。

 

「本格的になるのなんて夏休み明けからだし」

「そんなもんか……?」

 

 俺が呟けば「そうだよ」と彼女は答えながら扉を開いて教室の中に入っていく。その後ろから入って、俺は扉を閉める。


「………っと」


 既に教室には倉世や篠森を含めて一〇人程度が居て、俺が入ってからしばらく経つとまた人数が増える。

 

「────じゃ、とりあえず始めまーす」

 

 クラス全員が集まっているわけでもないが、待っていても仕方がないだろう。いつも通りに教壇に立った彼女が宣言する。今回も男子の学園祭実行委員は少しだけ後ろに立っているだけだ。

 

「まず、初めにこっちで一応射的台を探してみました」

 

 その台を使うとすると予算が残りどれほどかと言う話になり、そこから銃の料金なども考えればと。

 今日の話し合いは彼女の言う通り、殆どが報告会の様な物で解散となる。

 

「悪い。先に」

 

 俺がそう言って教室を出ようとして「あ、うん。じゃあね、甲斐谷くん」と言う声が返ってくる。

 

「……仕方ない、か」

 

 買い出しなんかも夏休みが明けてからだ。廊下に出れば随分と静かで人通りも少ない。階段に向かう背中がいくつか。

 

「甲斐谷」

 

 俺が出てくるのを待っていたのか。

 

「帰るか」

 

 篠森に尋ねた。


「うん」


 下駄箱から靴を取り出して履き替えて、扉を開けながら俺は篠森の方に顔を向ける。


「先輩が」

「どうしたの?」

「一〇日は空けておけってよ」


 俺が言われた通りに篠森にも伝えれば「息抜き?」と確認してくる。


「ま、そう言う事だ」


 何をするかは聞いてないけどな、と俺は溜息混じりに言う。


「何するか分かったら、篠森にも教えるから」

「うん、分かった」


 生徒玄関の扉を押さえて、篠森が出た事を確認してから手を離す。

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