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第85話 八月の予定

 

 喫茶店を出た後は特に息抜きに向かうと言うこともなく、解散となった。

 と言うのは先輩が「今日は解散!」と喫茶店を出て宣言したから。また、今度に誘うと笑って帰って行ってしまった。

 そんなこんなで、いつも通りに篠森と帰り道を歩き、家の前まで。


「ただいま」

 

 俺が家に帰ると既に母さんの靴があった。ただ、父さんはまだ帰ってきてない様だ。

 

「おかえり〜。どこ行ってたの?」


 リビングに入った俺の方を一瞥して、母さんが尋ねる。


「ちょっと遊びに」

 

 母さんは既に着替え終えていて、アイスを齧りながらテレビを見ていた。

 何を観ているのだろうか、と画面を一度見れば、まだ五時を過ぎたばかりだからかいつも通りにニュースが流れている。

 

「そ」

 

 どこに行ったのかと言うのは特に聞かずに母さんの顔はテレビの方を向いたまま。俺が椅子に座ろうとして「あ、優希」と止める。

 俺は椅子を引いた状態で止まって、母さんの方に目を向ける。

 

「肩」

 

 たった一言と一つの動作で母さんが俺に何をして欲しいのかを理解して、後ろに回る。

 

「ありがと」

 

 俺が母さんの肩を揉んでいると母さんは「あ、そうだ」と俺に話しかけてくる。

 

「ん?」

 

 肩を揉む手を止めずに俺は相槌を打つ。

 

「一三とあと一応、一四は予定空けといてね」

 

 十三と一四と言えば、と何があるかと思い出す。八月の話だ。となれば、大体何の事かは分かる。

 母さんは俺の方に振り向かず理由を説明する。

 

「お盆でしょ。お墓参りするから」

「分かったよ」

 

 そこには予定が入る事はないだろう。篠森だって、いつでも大丈夫とは言った物の流石にお盆となればあっちにも事情があるだろうし。先輩にだって配慮という物もあるだろう。

 

「じゃ、そう言う事だから」

 

 凝り固まった母さんの肩を揉む力が少しだけ緩んでいた。俺は気を取り直して指に力を込める。

 

「あと五分くらいよろしくね」

 

 俺は時計を見て時間を確認する。

 もうそろそろ父さんも帰ってくる時間だ。流石にその前に肩揉みは終わるだろう。

 

「そうそう。あとこれ終わったら……」

「まだ何かあるの?」


 二秒程、沈黙。

 考えているのだろうか。


「ま、お風呂掃除ね。適当で良いから」

 

 母さんがそう言ってテレビのチャンネルを変える。特に目ぼしいものはなかったのかニュースに戻ってくる。

 

「はい、お疲れ。じゃ、お風呂掃除よろしく」

 

 俺は言われた通りに浴室に向かい、いつも通りに風呂掃除に取り掛かる。泡を洗い流し、濡れた足をさっとタオルで拭って脱衣所を出る。

 

「────終わった……って、居ないし」

 

 リビングに戻ってみれば母さんは部屋に向かったのか姿がない。母さんに風呂掃除を終えた事の報告をし、部屋に戻ろう。リビングを出て階段を上ろうとしたところで、玄関の扉が開いた。

 

「お、優希。ただいま」

 

 タイミング良く、というのか。父さんが帰ってきた所に出くわした。

 

「父さん、おかえり」

 

 父さんが額の汗を袖で拭ってから「暑いな」と呟き、靴を脱ぐ。

 

「父さん、アイス食べる?」

 

 俺は特に返答も聞かずに踵を返してリビングに向かう。遅れて父さんも入ってくる。俺が冷蔵庫の下段にある冷凍庫を開いて中を確認する。

 

「優希も食べるか?」

 

 父さんが近くに来て、冷凍庫内を探す為に屈んだ状態の俺に声をかける。

 俺が箱の中に手を突っ込んでみても、手に触れるのは一本分。

 

「あ……これ、最後だ」

 

 父さんは「じゃあ、俺はいいや」と断ろうとするが、無理矢理渡す。

 

「俺、食べたし」

 

 父さんは「ん、そうか」と渋々と言った様子でアイスを受け取って階段を上っていく。俺も空になった箱を片付けてから、部屋に向かう。

 

「そうだ、父さん」

 

 部屋に入って行こうとする父さんを呼んで「風呂掃除終わったって、母さんに」と伝えれば、それに了承の返事は特にせずに部屋の中に入っていってしまう。

 

「…………」

 

 若干気になるが、まあ伝えてくれるだろうと自分の部屋に入り、財布を机の上に置いて俺はベッドに腰を下ろす。

 

「ん……」

 

 風呂掃除をしていた間にメッセージが入っていたらしい。俺がアプリを開いて確認すれば、どうにもクラスのグループチャットからだ。来週にもう一度、お盆に入る前にまた集まって確認したいとの事。


「特に何かあったわけでもないんだよな」


 それに続いて何人かの返信もある。

 俺は特に返信もせずにアプリを落として、溜息を吐き出す。

 

「優希〜、料理手伝う?」

 

 部屋の外から聞こえた母さんの声に俺はまた立ち上がって、扉を開ける。

 

「お、手伝ってくれるの」

 

 声をかけておきながら予想外だった様で母さんが僅かに目を見開く。

 

「ま、特にやる事ないし」

 

 母さんが「じゃあ、何やっても貰おっか」と考えながら階段を降りる。俺もその後ろについていく。

 

「今日、何作るの?」

「親子丼。あ、玉葱切ってちょうだい」

 

 俺に頼む事を思いついたと言った風に。


「お母さんに成長を見せなさい」

「成長って……」


 母さんがリビングに入って直ぐ、冷蔵庫の扉を開く。中から親子丼の材料になる鶏肉と玉ねぎ、卵と白い椀を取り出した。

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