第84話 推察
時刻は午後四時を回る。メッセージが俺のスマホに一つ。画面を見れば金谷先輩からの物だと分かる。篠森はテレビ画面に向けていた顔を俺の方に向けた。
「ん……やっぱり、か」
先輩からは学校近くの喫茶店に来るようにとの呼び出し。
「篠森?」
通知音が聞こえたからかゲームをセーブして、慣れた様にホーム画面に戻り終了する。
「行くでしょ……?」
「まあ、呼ばれたから」
「私も行く」
リュックを手繰り寄せて立ち上がる。俺はテレビの電源を落とす。
「時間も時間だから」
五時を過ぎれば母さんが帰ってくる。となれば、篠森が帰るにはいつも通りの時間であるわけだ。
「ちょっと待っててくれ」
流石に玄関で待たせるのは申し訳ない。俺はエアコンを消し、財布と家の鍵を手に取り「よし。まあ、これで大丈夫か」と持ち物を確認しながら部屋の扉に向かって進む。
「篠森、忘れ物ないか?」
リュックを背負いながら立ち上がる篠森が周りを見てから「大丈夫」と。特に荷物を広げていないのだから、それもそうか。
「ゲーム、大丈夫だったか?」
中途半端なところで止めてしまったかもしれない。階段の手前で俺が聞けば、降りながらに「大丈夫」と篠森は言う。
「キリが良いっちゃ良いのか……」
俺が見ていた分にはボスの目の前まで進めていた筈だ。倒してた方がちょうど良かったのかもしれないが、ボスの前となれば一区切りでも良いのかもしれない。
「もう少し待てば良かったかもな」
俺は玄関の扉を押さえ、篠森に続いて外に出る。
「そうなの?」
鍵を閉める。
「あー」
少し考えてみる。
「…………いや、どうだろう」
篠森はゲームの区切りという物をまだ余り分かっていないのなら、今回はあそこまでで良かったのか。
「続きやったら、さ」
どうか分かるんじゃない、と。
篠森が笑みを浮かべながら、俺を見上げる。見つめてくる。
「それもそうか」
続きをやれば、そこまででキリが良かったかは分かる。やらなければキリが良いかの判断はできない。それに、決めるのは俺じゃないか。
「うん」
篠森が俺の隣を歩く。
「金谷さんにはどこに呼び出されたの?」
まだ篠森には伝えていなかった。
「学校近くに喫茶店があるのは分かるか?」
学校近く、と篠森が小声を漏らしながら考える。
「あ、あそこか」
篠森も覚えはあるらしい。
学校近くだから見る事もあるんだろう。俺も同じ様な物だった。
「そう、そこ。待ってんのか、待たされんのかは知らないけどな」
先輩が既に今日の分の補講を終えてるのは分かるが、喫茶店に来るまでに何をしてくるかは分からない。
「あはは、そうだね」
何かしらで俺らよりも到着が遅いかもしれない。まあ、その辺りは喫茶店に着いてみなければ分からない話だ。
「…………」
で、着いてからの事だ。
先輩への説明をどうまとめるか。
「いや」
別に考えなくても良いか。普通に話せば、それで良いんだから。
「甲斐谷?」
「ああ……悪い。何でもない」
今回は本当に。
篠森は俺の顔を見て納得したのか笑う。いつも誤魔化した時とは違う。篠森には分かっているんだろう、と改めて理解する。
「────金谷さん、居るかな?」
喫茶店前で篠森がキョロキョロと周りを見る。俺も探してみるが目につく範囲には居ない。メッセージを送れば分かるだろう。『着きました』と入力し、送信。
直ぐに返答がくる。
「ん……篠森」
先輩とのチャット画面を篠森に見せる。
「まだ、だってよ」
ただ、他の場所で時間を潰すにも先輩が到着する時間は分からないから、離れる訳にもいかない。
「中、入ってる?」
篠森に言われて「入るか?」と返そうとして、背後から「優希くーん!」と呼ぶ声が聞こえる。
「先輩」
「ふぅ、お待たせ。お……楓ちゃんも? もしかして、遊んでた?」
俺の隣にいる篠森を見て先輩が申し訳なさげに眉を顰める。
「ごめんね」
後ろを確認して邪魔になるのはいけないと考えてか、金谷先輩は押し込む様に俺と篠森の背中を押す。
「取り敢えず、入ろっか」
店員の確認に先輩が答えてテーブル席に向かう。俺と篠森は並んで座り、対面に先輩が腰を下ろす。
「それで……昼の事だけど」
先輩が早速と切り出そうとして「あ、先に注文してからの方が良いかも」とメニューに目を下ろす。
「すみませーん」
先輩と同じように俺と篠森も注文を終えると、話を再開する。
「昼の事、なんだけどね? いやー、何のことだろって思ったんだけど……学校で智世ちゃん見てさ」
学園祭の事で何かあった。
金谷先輩の確認に首を横に振る。
「生徒会の用事って、篠森は聞いたらしいんですけど」
「それだったら副会長のわたしにも連絡あるでしょ?」
先輩が肩をすくめる。
確実に生徒会の仕事でも、学園祭関連でもないだろう。それに生徒会と篠森に嘘を吐いた事からも。
「ま、何となく分かったよ」
先輩も俺たちの言葉から事情は推測できたらしい。先輩が背もたれに体重を預けて、息を吐いた。
「金谷さん?」
篠森が心配してか声をかける。
「月曜日の補講が、ね」
砕ける様に笑う。
「今日はどうしますか?」




