第83話 Unrelated
篠森はゆっくりと食事をしている。どことなく意識的に遅く食べている様に思う。
「そう言えば」
ラーメンの待ち時間三分が経ち、俺が蓋を剥がして開くと、篠森は思い出した様に言う。
「ん?」
俺はどうしたと篠森の方に顔を向ける。
「今日、来る途中で倉世に会ったんだけど」
篠森は左手に弁当箱を持ち上げたまま、食事の手を一度止める。
「倉世に……?」
と言う事は、どこかに出掛けたのか。俺の言葉に「そう」と篠森は頷く。
「会った時、制服でさ」
つい最近も制服で何処かに出掛けるのを見た気がする。
「何しに行くのか聞いたら、ちょっと用事が……って」
用事。
まあ、察しは付いてる。倉世の言う用事というのは、どうせ三谷光正絡みの事だろう。
三年生の補講は午後まである。どうして朝にはもう篠森が家を出たのか。
「そうか」
俺は考えながらカップ麺を啜る。
「……どんな用事かは聞いたのか?」
俺は口の中にある物を全て飲み込んでから質問する。
「生徒会のって聞いたら、うんって」
「生徒会、ね」
これが嘘だとして先輩に確認すれば分かる話だ。倉世は三谷光正との関係にばかり気を取られているのか。誰と誰がどんな関係を持っているのかを余り理解できていない。
特に俺に関しては理解しようとすらしていないんだろうと思う。
関わりたくないと言うのはそう言う事だ。だから俺が篠森と関わっている事にも、金谷先輩と協力している事にも気がついた様子がない。
「金谷先輩に聞いてみるか?」
今の倉世が俺に関わりたくない、興味がないと言うのは、少しだけ都合が良いのかもしれない。
「でも大丈夫かな」
篠森が心配してるのは補講の最中だと言うことだろう。
「ああ……」
俺も少しだけ迷う。
「まあ、取り敢えず送っておくか」
一先ず、メッセージを送り、返事が直ぐに来る事は期待せずに待っていよう。『今日って生徒会で何かありますか?』と送信する。
俺はスマホを横に置いてカップ麺を持ち上げようと左手を伸ばす。
ただ、直ぐに通知音が鳴る。
「何もない、ってよ」
俺は篠森にスマホの画面を見せる。
間髪入れずに『どうして?』と言うメッセージと首を傾げたキャラクターのスタンプが表示される。
「さて、と。どう説明するか」
俺と篠森が顔を見合わせて悩んでいると先輩から『後で教えて!』、『午後の補講始まるから』と送られてくる。
どうにも、この感じは。
「どっかに呼ばれそうだな。バッティングセンターか、ファミレスか」
事情をメッセージとして送れば解決するだろうに。俺が言えば、篠森も「確かに」と笑う。
「…………」
そこから篠森との会話が数秒、途切れる。
「ごめん、甲斐谷」
沈黙が篠森の謝罪によって破られる。
俺がどうして謝るのかと不思議に思っていれば、篠森は顔を下に向けて呟く。
「何か……さ。変な話しちゃって」
別におかしな話はしていない。
篠森はただ、友達とここに来る途中であったなんて、よくある話をしただけだ。俺に謝る様な事でも何でもない。
「いや、全然。気にすんな」
俺が黙ってしまったのは話題の転換に悩んだだけだ。他の話を持ち出すにしても、どうするかと。
「……ああ、と。なあ篠森」
次はどんな話題を持ち出そうか、とか。
何で考えても多少なりともさっきまでの話との関連性を意識してしまうのか。
「倉世とは他に何か話したのか?」
俺が聞けば、特に何も話していないと。倉世は少しばかり早足に思える様な速度で歩いて行ってしまったのだと。
「……悪い」
この話題も長続きしないと分かっていた筈だと言うのに。
「お互い様だ」
篠森は笑う。
「ね、他の話しよ……?」
そして多少、強引にも思えるような話題の転換を提案してくる。
「そうだな」
一度そうなれば、後は気が楽だ。たわいのない話でも始めよう。
「うん」
篠森は思案顔を見せる。
「さっきのゲームの事なんだけど」
早速と言う様に話を切り出す。
「ん?」
「新作は買うつもりあるの?」
買うつもりはある。
とは言っても、今すぐにと言う話でもない。
「まあ、追々って感じ」
「そうなんだ」
俺は笑みを浮かべる。
「ハマったか?」
篠森が笑って「キャラいっぱい居て、楽しいし」と言う。ゲームとしての難易度も高すぎると言うわけでも無いというのもあるんだろう。
「買ったら教える」
篠森がやりたいと言うなら俺が買う理由も一つ増える事になる。
「うん、ありがと」
篠森が言いながら弁当を食べ進める。俺も残りのカップ麺を口の中にかきこむようにして食べてから、立ち上がる。
「よっ……と」
スープは全て飲めなかったが、許してほしいと誰に向けたかも分からない謝罪を心の中で唱える。
「そうだ。篠森、アイス食べるか?」
片付けついでにアイスを持ってこよう。
「良いの?」
「ま、クーラーつけてるとは言え、暑いだろ?」
母さんも父さんも二つ減った所でとやかく言う事はないだろう。無くなったところで、そこまで気にしない筈だ。
「ゲーム、やってて良いからな?」
俺は篠森に一言告げてから扉を開き、階段を駆け降りていく。




