第82話 ゲームプレイ
篠森からの『もう直ぐ着く』と言うメッセージに俺は部屋の中を見回す。特に散らかっている訳でもない。
ゲームも昨日の内に探し出せている。後は篠森の到着を待っているくらいだ。父さんも母さんも仕事で今は家に居ない。
「あと……昼、どうするかだよな」
篠森が家に来ると言うのはそうなのだが、特にゲームをすると言う以外は決めていないから。
「ま、篠森が着いてからでも」
別に良いだろう。
外に食べにいくとしても、家の中で食べるにしても。家の中で食べるならばカップラーメンと言うことになるだろう。
「ん、着いたか」
インターホンの音が響いて、俺は部屋を出て玄関に向かう。
「ん」
扉を開けば篠森が立っている。
白のTシャツの涼しげな格好で、家に来る前にコンビニか自販機で買ったんだろう飲みかけのペットボトルを右手に握っている。
「おはよ、篠森」
「うん」
首筋に汗をかいてるのが分かる。
流石に外で話し続けるのも、だ。
「あー、ほら」
俺は家の中に篠森を入れる。
「お邪魔します」
階段を上り、部屋まで連れて行く。
篠森は既に何度か俺の家に来てるからか、少しは慣れてるんだろう。
「今準備するから。取り敢えず、寛いでてくれ」
部屋に入って俺が言えば、篠森はベッドの上に腰を下ろす。
「あ、昨日ゲーム屋で見た奴だ」
俺がゲームの準備をしていると篠森がベッドから立ち上がって、俺の直ぐ近くに来る。
「もうちょっとで準備終わるから」
とは言っても篠森はベッドの元の位置に戻るつもりはないのか、俺の作業を見つめてくる。
「へー……思ったよりちっちゃいんだ」
俺がパッケージを開いてゲームソフトを取り出すと、篠森が驚いた様に言う。俺も出た当初は確かに驚いた様な覚えもある。
篠森の反応に、なんとなく懐かしさを感じつつ。
「ゲームには変わりないけどな」
俺は準備を終えてテレビから離れた位置に座る。篠森も今度は俺の隣に人一人分程度の間を空けて座り込む。
「ほら」
リモコンを手渡す。
「どうやるの……?」
リモコンを渡されても、操作方法がよく分かっていないんだろう。
「Aが決定で……十字キーと左スティックが。そうそう、移動」
十字キーを押し込んだのが画面で確認できた。
「まあ、一応操作確認はゲーム始めればしてくれるからな」
ゲームを起動しようとして、アカウントの選択画面が表示される。
「これ大丈夫?」
篠森が聞いてくる。
「ああ……そうだ」
そういえば、忘れていた。
「アカウント作らないと」
「アカウント……?」
「このゲーム、セーブスロット一個しかないんだよ」
流石に俺のデータを消して、始めても良いとは言えない。篠森がよく分からないと言う様な顔をしてから俺にリモコンを差し出してくる。
「え、と……はい。甲斐谷」
「悪い悪い」
俺が苦笑いして篠森からリモコンを受け取り、操作する。
「篠森、アカウント名は────」
どうにか篠森に聞きながらアカウントを作り終えて、また篠森にリモコンを渡す。
「これで大丈夫?」
リモコンを持ちながらも不安そうな顔をする篠森に問題ないと答える。
「わっ……」
ゲームのホーム画面になり、タイトルが出てくる。俺は一息ついて篠森のゲームを見守る事にする。
「この子、見た事ある」
篠森は一つ一つに反応して楽しんでいる様で、俺もクスリと笑ってしまう。
「えーと、ここはこれ使って……」
篠森は少しずつゲームのシステムに慣れて行く。今の所は順調に見える。熱中しているのか黙々とプレイしていく。
「……あ、負けちゃった」
最初の難所に辿り着いた。
「もう、昼だし。ちょっと休むか?」
篠森も俺の言葉で時間に気がついたらしく「そうだね」とベッドの脇に置いたリュックを手繰り寄せる。
「篠森、飯どうする……って」
リュックから弁当箱を取り出したのが見えた。
「持ってきたのか」
「うん」
「……じゃ、俺はカップ麺か」
篠森は「ごめんね」と言うが、別に気にすることはない。家にはカップ麺があった筈だ。「ちょっと取ってくる」と一言告げてから、階段を降りてリビングに向かう。
お湯を注いでから溢さないように慎重に階段を上り、部屋に戻る。
「先、食べてても良かったんだけどな」
弁当箱の蓋は閉じられたままで、俺が座り込んでから。
「……良いじゃん。ね、食べよ?」
篠森が弁当箱を開く。
「卵焼きとか……どう?」
篠森が弁当箱の中身を見せながら俺に聞いてくる。
「お母さんがまた間違えて、か?」
俺の謹慎中に一度、弁当を持ってきた日の事を思い出して尋ねれば。
「ううん……今回は勝手に詰めてきた」
などと篠森は悪戯っ子の様な顔をして言う。俺は小さく吹き出してしまった。
「で、貰っていいのか?」
「まあ……ほら」
篠森が弁当の蓋に卵焼きを乗せて差し出してくる。
「相変わらず、綺麗だし……」
箸で持ち上げ。
そのまま口内に。篠森は俺を見つめて、感想を待ってるのだろうか。
「うん、美味い」
今回は先生が家に訪ねてくることもない。前回よりも落ち着いて、味わって食べられるからか。錯覚かもしれないがより美味しく感じる。
「そっか」
篠森は俺の感想を聞いてから、自分の口に卵焼きを運んだ。




