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第81話 明日の準備

「はい、甲斐谷」

 

 プリクラの印刷が終わり、他にする事もやりたい事も特になくなり、ゲームセンターを出ると篠森が俺にプリクラで撮影した物を差し出してくる。

 

「ん、ああ。ありがとな」

 

 チラリと受け取った写真を見る。俺の口からふと笑みが溢れるのが分かった。

 

「やっぱスマホと違うな」

 

 プリクラという物を使った事がなかったからよく分からない。ただ、肌の色の写り方も普通に撮るものとは全く違う。

 

「うん」

 

 落書きは篠森に任せたが、名前を書く程度になっている。俺はしばらく見つめてからポケットに仕舞い込む。

 

「…………」

 

 俺は自然と篠森の顔を見つめていた。

 篠森は手元に写真を持ったまま、視線を下ろしながら歩いていて、ようやく大切な物を扱う様にリュックの中に仕舞い込む。

 

「今日、ありがとね」

 

 篠森は俺を見上げながら言う。

 俺が篠森に対して何かができたと言う様な感覚はほとんどない。頼りにされたゲームショップで、まともに篠森に何かが与えられたわけではなかったのだから。

 だから、俺は何となく感謝を告げられることに納得が出来ていない。

 

「…………まあ」

 

 俺は歯切れの悪い答えを返してしまう。

 

「明日待ってて。家、行くから」

 

 明日の予定を口にする篠森が楽しそうで、俺は思考を切り替える様にふうと息を吐いてから。

 

「分かってる」

 

 笑みを作った。

 

「あ、ゲームなんだけど」


 篠森が言う。


「今日ゲーム屋で見た、あれ……やってみたいかな」

 

 篠森が「持ってるんだよね?」と確認してきて、俺は短く「準備しとく」と返す。

 

「うん、ありがと」

 

 あれ、でも。

 篠森が何か気になったのか呟く。

 

「あのゲームって二人で遊べる?」


 俺は首を軽く横に振ってから答える。


「いや、一人用だな」

 

 RPGという事もあり、流石に二人でのプレイには対応していない。二人で遊ぶにはもう一台必要になるのだが。

 

「じゃあ、甲斐谷は……?」

 

 その間どうするのかと言う話だろう。

 俺としては既に一度、クリアしているゲームだ。別に見ているだけでも構わない。

 

「篠森が遊んでるの見てるだけで大丈夫だ」

 

 そうは言っても篠森も少しは気にするんだろうか。困った様な顔をして、俺を見つめてくる。

 

「ほら、ゲーム実況とかあるだろ?」

 

 だから、他の人がゲームをしてるのを見るだけでも十分に楽しめるのだと。

 

「そうなの……?」

 

 とは言っても、篠森にはあまり伝わらなかったらしい。ゲーム実況自体、篠森に馴染みのある物では無いんだろう。まあ、そもそもで篠森はゲームにほとんど触れてこなかったのだから。

 

「ま、そう言うのもあるんだ」

 

 後は感覚的な話にもなりそうだ。

 

「篠森は気にしないで、ゲームしてくれれば良いんだよ」

 

 俺が笑いながら言って、ようやく篠森が遠慮気味に頷く。

 

「……ありがと」

 

 篠森の感謝の言葉に、俺は気にしないでくれと言う様に短く返す。

 

「────じゃ、明日」

「ん、明日な」

 

 篠森の家の前で別れる。

 ここからは寄り道も特にない。後は家に帰るだけ。スマホを見ても、特に何かしらの連絡が入っている訳ではない。先輩からの呼び出しも、クラスからの連絡も、母さんからの頼まれ事もない。

 

「…………」

 

 篠森の家から少し歩いた先で、チラリと振り向けば、既に姿は見えない。俺は直ぐに前を向いて少し歩く速度を早める。

 篠森の家から離れた場所で徐に写真をポケットから取り出して見つめる。

 

「……流石に、な」

 

 持ち歩くのも、学校に持っていくのも。

 万が一にでも倉世に、俺と篠森の交友を悟られるのは困る。

 だから。

 

「流石に」

 

 俺はポケットに写真を戻す。

 折れ曲がらない様に、確かめながら。

 

「引き出しに仕舞っとくか」

 

 そこ以外は特に思いつかない。

 俺自身が忘れない、無くす可能性が薄い場所がそこであると言うだけだ。

 

「……ふう」

 

 見慣れた通り、自宅も見える範囲にある。あと少し歩けば着くという距離だ。俺は玄関前まで来て「おかえり、優希」と声をかけられて振り返る。

 

「ただいま、母さん」

 

 どうにも母さんが買い物から帰ってきたタイミングと被ったらしく、買い物袋を俺に渡してくる。

 

「リビングに持ってってちょうだい。アイスあるから食べても良いからね」

 

 母さんは俺に荷物を渡して玄関の扉を開いて階段を上っていく。リビングには誰もいない。父さんも二階にいるのか。

 

「了解」

 

 聞こえてるかは分からないが適当な返事をしてリビングに入り、冷蔵庫の中に粗方の物を仕舞い込んでからアイスの箱を開く。

 一本だけ取り出して、冷凍庫に箱を入れる。

 

「ん、部屋に行かないとな」

 

 冷凍庫を閉める。俺はポケットの中にある写真を右手に持って階段を上り、自室の扉を開く。

 

「…………」

 

 引き出しを開けば、ずっとそのままにしていたイヤホンが目に入る。俺は写真が傷つかない様に隅に置く。

 そっとイヤホンを視界の端で捉えながら引き出しを閉じる。


「ん」


 三分の一程度しか残っていないアイスを口から離して、机の前に立ち尽くす。

 

「……はあ」


 明日の準備でもしよう。

 アイスを食べ終えても、俺は棒を口に咥えたまま。

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