表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/192

第76話 Reason

 

 玄関の扉を開き、外に出ようとする。

 母さんも父さんも既に仕事に向かった後、学校に通うよりも遅い時間。

 

「…………」

 

 俺が扉を開いて左足を一歩踏み出す。俺の上半身が外に出る。

 倉世の家の扉が開く。制服を着た倉世が出てくるのが見えた。半分ほど外に出かけていた身体を家の中に引っ込めて、扉を閉めた。

 

「別に話しかけても、な」

 

 扉が完全に閉まった音がしてから、ドアノブを掴んでいた右手を離す。

 篠森に話しかけたとして、現状の何かが変わる訳でも、何かを得られる訳でもないだろう。

 共通の趣味のゲームの話だって出来なかったのだから。そんな俺が倉世と何を話すと言うんだ。

 嫌われている俺が話しかけた所で、良い事はないだろう。


「…………」


 それに、だ。

 別に、目の前にある倉世との会話に縋らなくとも問題はない筈だ。


「ちょっと、待つか」

 

 長く息を吐いて、玄関の壁に寄りかかる。

 スマホを見て篠森とのチャットを開く。今日の一〇時から図書館で勉強をすると言う約束だ。

 画面の右上に小さく表示される時刻を見る。

 

「九時半か」

 

 五分待てば、流石に大丈夫だろう。


「そういや……ちゃんと持ったよな」


 俺は忘れ物がないかと鞄の中身を確かめる。夏休みの課題はしっかりと入ってある。筆箱も、ある。

 財布も、入ってる。


「大丈夫だな」


 鞄のチャックを閉めて、右肩に掛け直す。

 

「……そろそろ良いだろ」

 

 俺は小さく扉を開いて外を見る。近くに倉世の姿は見当たらない。溜息を零して、外に出てから扉の鍵を閉めて、図書館に向かう道を歩き始める。

 

「よし」

 

 日差しに照らされる中を歩き始める。


「行くか」


 全てを元通りにする。

 その為に金谷先輩の作戦を形にする。

 

「……はあ」

 

 そんな事を歩きながら考える。

 そして、俺はやはり一つの壁にぶち当たる。ここ最近はこの壁に悩まされるのが、いつも通りになりつつある。

 この暑さのせいで頭を回す事が出来ていないから、と言う理由だけではない。

 そもそもで冷房を効かせた部屋でも答えが出てきていないんだ。

 

「本当に」

 

 まだ、余裕はある。

 だが、確かに時間は迫ってくる。


「……どうするんだよ、俺」


 頼るのなら早い方が良い。それは分かっているんだ、俺も。

 

「────甲斐谷」

 

 考え事をして歩いていれば、いつの間にか図書館の近くに着いていた。既に図書館前にいたらしい篠森が俺を見つけて駆け寄って来る。

 

「ああ、篠森」

「おはよ」

 

 俺はポケットからスマホを取り出して画面を見た。

 時刻はまだ一〇時前。

 

「ん、おはよ。悪い、待たせたか?」

 

 篠森は集合時間よりも早く着いている。

 今日も変わらなかった。そして今回は俺はギリギリに着いたもので、いつもより待たせたのではないかと心配になる。

 それもこんな天気が良い中で。

 

「ううん、大丈夫」

 

 篠森の額から汗が垂れるのが見えた。

 

「早いとこ図書館入るか」

 

 図書館内なら冷房は効いていて涼しいだろう。

 俺が図書館の入り口を一瞥してから、篠森に言う。

 

「うん、そうだね」

 

 俺と篠森は図書館に入る。外よりも当然、涼しい。

 

「なあ、篠森」


 廊下を歩きながら、小さい声で名前を呼ぶ。


「うん?」

「今日中に宿題終わらせたいな」

 

 俺も手を付けている。だから、今日の間にでも終わる範囲内かもしれない。無理な話ではない。

 

「…………」

 

 篠森は数秒黙り込んで。

 ようやく「そうだね」と薄く笑いながら口にした。

 

「甲斐谷、何が残ってるの?」

 

 俺は残っている課題を言葉にしていく。

 英語と漢文、世界史、化学。

 英語と世界史は半分程、化学も少しではあるが手を付けた。だから、何から何まで丸々残ってる訳ではない。

 

「じゃあ、今日で終わりそうだね」

 

 篠森の方はどうかと聞けば、どうにもほとんど終わっているようで、俺よりも残りが少ない。

 

「…………」

 

 俺達は図書館で空いてる机を見つけ、腰を下ろす。

 

「取り敢えず、始めよっか」

 

 篠森は机に課題を出して、筆箱を開き早速と取り掛かる。俺も同じように準備をして勉強を始める。

 会話は特にない。

 ただ、シャーペンが文字を記していく。その音だけが響いて。

 時折に篠森を見るが、彼女が集中しているのが見えて、俺も何かを話しかけるのも憚られて視線を手元に戻す。

 

「……ああ……と」

 

 所々で詰まりながらも、俺は世界史の課題を終えて鞄の中に仕舞う。次に英語の課題に着手する。

 時刻は一一時を過ぎていた。

 午前の間に英語は全て終わりそうにないが、出来る限りは進めよう。

 

「ふぅ」

 

 集中し直して、俺は一目では意味を理解できない異国の言語を読み込む。課題は単語を覚えると言う物と、長文読解が何問か。

 

「ねえ、甲斐谷」

 

 三分の二程進んだ辺りで篠森が声をかけてきた。

 

「ん?」

 

 次の長文に取り掛かろうと言う所で、だ。俺は篠森の方に顔を向ければ篠森がスマホの画面を見せてきた。

 

「もう、お昼だよ」

 

 俺はシャーペンを机の上に置く。

 

「ご飯にしよ」

 

 篠森の机の周りは片付いていて、俺が「あれ、終わったのか?」と自然と尋ねれば「あとちょっとだけ。残りは午後かな」と篠森は答える。

 

「甲斐谷、宿題……終わりそう?」

「多分、な」

 

 今日には終わるだろう。残りの課題の量を考えれば。

 篠森は「そっか」と。

 

「じゃあ、勉強会」

 

 今日で終わりだね。

 囁くような声で言う。


「そう、だな」


 篠森の表情は相変わらずに笑みを湛えている。

 

「ありがとな、篠森」

 

 俺が感謝を伝えると、篠森は大丈夫だと言うように。

 

「ううん……ほら、午後も頑張ろ」

 

 リュックを背負って立ち上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ