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第69話 寄り道

 電車を降りる。

 駅を出る。

 見慣れた景色というか、慣れた空気感と言った方が近い気がする。


「ふ〜、お疲れ」


 先輩が長く息を吐きながら言う。

 帰ってきたのだという実感を覚えながら、俺たちは夜道を歩き始めた。


「じゃ。わたし、こっちだからさ」


 先輩が欠伸をしてから別の道を指差して言う。

 行きの時よりも増えた荷物を持って先輩が「またね」と行ってしまった。

 七時を過ぎ、今は八時近く。流石にもう暗くなりつつある。

 電車に乗っている時には日が沈み始め、夕日に染まった海面が窓から見えていたから当然か。

 

「甲斐谷」

 

 先輩が居なくなり、篠森と二人だけになる。

 帰り道で篠森と二人だけというのも、いつも通りだ。今の状況は学校帰りや、テスト前の日曜日と大きな変わりはない。

 

「ん?」

 

 俺は篠森の呼ぶ声に振り返る。

 

「海、楽しかったね」

 

 篠森は今日の事を思い出しているのか、笑っている。


「お風呂も気持ちよかったし」

「そうだな」

 

 俺も良い日だったと思う。

 俺は先輩と篠森と居る時間が楽しいと思えたから、俺も笑って彼女の言葉に肯いた。

 

「あ、甲斐谷。コンビニ寄って良い?」

 

 篠森が俺に聞いてきて、俺は「別に良いけど」と答えれば篠森はコンビニのある方に向かって歩き始めた。

 

「何か、買いたいのとかあるのか?」

 

 俺が尋ねれば、篠森は短く答えた。

 

「うん。ちょっとね」

 

 篠森の後ろを着いて歩く。

 

「そうだ」

 

 何だろうか。

 

「甲斐谷、宿題とかやってる?」

 

 少し前を歩く篠森が速度を緩めて俺の隣でに並び、尋ねてくる。

 突然の質問に俺は思い出すまでもないと直ぐに答えを返す。

 

「いや、まだ手付けてないな」

 

 夏休みが始まってからというもののゲームやら何やらと、宿題に手をつけてない。やる時間が皆無だったとは言わない。簡単な話、俺の気力の問題だった。

 

「じゃあ、明後日一緒にやる?」

 

 篠森の提案に「良いのか?」と尋ね返す。

 

「うん。誰かと一緒に勉強する方が好きだから」

 

 誰かが頑張っているから、自分もと思えるのだろう。俺は篠森の言葉に納得する。

 

「明後日、だな」

 

 俺が篠森との勉強の日を確認の様に口にして。

 

「よろしくな、篠森」

 

 彼女の提案に乗る事を言葉に示す。

 

「うん」

 

 篠森は楽しそうな顔をしている。

 彼女と勉強出来るのは俺としても嬉しく思う。友達と、篠森と居られる時間が増えるのだから楽しい筈だ。


「あ、甲斐谷」


 暫く歩いて、一つコンビニが見えた。

 

「俺、外で待ってるな」

「ごめん。じゃ……買ってくるから」

 

 コンビニに入っていく篠森を見送った。

 

「……全然、星座とか分からないな」

 

 夜空を見上げる。

 理系で天文学に興味でもあれば星座の一つは見つけられるのかもしれないが、生憎とそんな知識がない。

 ただ、星を綺麗だと思うだけだ。

 

「…………」

 

 空から目を下ろして、俺はポケットからスマホを取り出して画面を見る。

 バッテリー残量は三割を切った。

 チャットアプリを開く。幾ら確認しようと、クラスグループからの連絡がない事に変わりない。

 

「学園祭、か」

 

 いつになったら準備が始まるのやら。

 いつ、その連絡が来るのだろうか。

 俺はスマホをポケットに戻して、また空を見上げる。吸い込まれてしまいそうだと感じる。

 

「まあ、当日には抜け出すだろうけどな」

 

 苦笑いが浮かぶ。

 俺は三谷光正と会わなければならない。三谷光正の知っている全ての情報を聞き出す為に。

 

「……情報」

 

 金谷先輩と篠森の協力があり、俺と三谷光正は二人で会える。

 そして、俺はアイツから……。

 

「────────」

 

 そこまで考えて、俺の中に疑問が一つ生じた。

 その疑問に対する答えをどうにか見つけ出そうと、深く考え込もうとした。

 思考の渦に飲み込まれていく様に。

 

「甲斐谷」

 

 首裏に冷たさを感じて「うぁっ……!?」と思わず驚いて声を上げてしまう。

 

「ほら」

 

 振り向けば買い物を終えた篠森が「ごめん」と軽く謝りながら、パッキンアイスを割って片方を俺に差し出してきていた。

 

「大丈夫だ、ちょっと驚いただけだから……ありがとな」

 

 俺は篠森の方を見てアイスを受け取る。

 

「買いたかったのって、アイスか?」

 

 確認すると篠森は「うん。ほら甲斐谷、お風呂でアイス食べれてなかったし」と答える。

 

「ああ。そう言うことか……ありがとな」

 

 俺はパッキンアイスを咥える。

 スッキリとした甘さが口の中に広がる。

 

「ん、ソーダ味か」

 

 この爽やかさを感じる味はそうだろう。

 

「夏だからね」

 

 篠森もアイスを食べながらに言う。

 俺たちは篠森の家に向かって歩き出す。

 

「コーヒーのが良かった?」

 

 彼女の質問に「いや、こっちのが良いな」と答える。

 

「夏だしな」

 

 篠森がクスクスと笑う。

 ゆっくりと歩いていても篠森の家には近づく。

 

「ありがと、甲斐谷」

 

 また明後日、と篠森が別れを告げる。


「またな、篠森」


 俺は自宅に向かい歩く。

 こうして訪れた一人の状況にまた寂しさを感じる。それはつい先程まで篠森が隣にいたからだ。

 早く明後日になれば良い。

 歩きながらに思う。

 いつもの事だ。

 いつもの様に、篠森との別れを名残惜しく思う。


「……ふぁああ」


 眠気から欠伸が漏れ出た。

 遊び疲れたと言うのが正しいんだろう。


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