第68話 銭湯から
銭湯の暖簾を潜りエントランスに出る。
「──お、優希くん」
俺が出てきたのを見て先輩が呼びかけてきた。
「随分と長風呂だったね」
既に先輩と篠森は上がっていた様で右手にアイスキャンディーを握りながら待っていた。
「あ、お待たせしました」
先輩の握っているアイスキャンディーは半分まで減っている。
「すみません。中々気持ち良くて」
俺の答えに先輩と篠森が仕方ないと言う様に笑う。
「サッパリしたよね。ま、時間通りだし……さて、ささっとお土産買って、ご飯食べて帰ろっか」
先輩は一気にアイスキャンディーを食べ尽くして目を閉じた。
「うぁっ……頭キーンってする〜っ」
一気に食べるからだろうに。
別にそこまで急かしてはいないのだ。篠森も少しだけ急いだ様に食べ進める。
「そんな急がなくても良いからな、篠森」
「うん……ぅぅ」
急いだ為か篠森はこめかみの辺りを右手で抑える。言わんこっちゃない、と思い俺はふと笑う。
「で、お土産って何あるんです?」
ようやく頭痛から解放された先輩の方を向いて俺が聞けば「んー?」と漏らしながらスマホを弄り始めた。
「お、洋菓子屋とかあるらしいよ。地元じゃ有名なんだって」
先輩がスマホを見せてくる。
俺は先輩の示した場所を見て自分のスマホでも確認する。駅からの距離を考える必要もあるかも知れない。もう五時も近いのだから。
「……結構、駅に近いみたいですね」
食事もこの近くで考えましょう。
俺が言うと「オッケー。じゃ、ゴミ捨ててくるから。ほら、楓ちゃん」と先輩は篠森からもアイスキャンディーのゴミを回収してゴミ箱に向かう。
「甲斐谷はアイス要らなかった?」
篠森が聞いてくる。
「まあ」
要らないという訳ではない。
ただ、篠森たちをアイスを食べ終えるまで待たせるつもりもない。
「今は良いんだよ」
俺の答えに篠森は「そっか」と呟いた。
直ぐに先輩が戻ってくる。
「お待たせ」
銭湯を出て歩き始める。
まだ明るい空を見上げる。
「いやー、まだ明るいね。もう少し海に居ても良かったかな」
先輩の言葉に確かにと思ったが、今日中に帰る予定なのだから、あの時間で丁度良かったのかもしれないとも思う。
「でも楽しかったなぁ」
先輩の言葉に俺も「そうですね」と返し、篠森に目を向ける。彼女も笑ってる。
「二人とも」
先輩が振り返った。
「帰るまで気を抜かない様に!」
歩行者信号は赤。
先輩の後ろを大型トラックが横切った。
「帰るまでが遠足だよ」
金谷先輩が笑う。
「なんてね」
冗談だと言う様に、いつもと同じ様に。
信号が青になったのを見て篠森は先輩に「信号、変わりましたよ」と伝える。
「お、本当だ」
先輩が再び歩き出した。
俺と篠森は先輩の背を追いかける。




