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第67話 海帰り

「ふー、遊んだ遊んだーっ!」


 先輩がレジャーシートに倒れ込む様に座った。


「金谷先輩」


 俺と篠森がレジャーシートの近くに着く。俺は脇にビーチバレーのボールを抱えながら、座り込んだ先輩を見下ろす。


「俺、昼食べてる時にスパイク打つなって言いましたよね……?」


 俺の注意に先輩は特に反省している様には見えない言葉ばかりの謝罪を吐き出す。


「ごめんごめん。いやー、でも優希くんの焦った顔面白かったよ?」


 ゲラゲラと大笑いしながら、癖になったのか俺に何回もスパイクを打って楽しんでいたのだ、この人は。


「ね、楓ちゃんも面白かったでしょ?」


 突然に話を振られた篠森が「あ……はい」と少しばかり遠慮が感じられる様な声で返す。ただ、僅かに笑っているのが見えた。


「……はあ」


 仕方ない。

 先輩も、篠森も楽しんでいる。

 それに、俺だって楽しくない訳ではない。だから、強く責めるのは違うだろう。


「んんー……っ」


 先輩が軽く身体を伸ばす。


「はあ〜……っし」


 ゆったりとした姿勢になって俺と篠森を見上げる。


「そろそろ海水浴、終わりにしよっか」


 先輩が座ったまま動き出す。


「よいしょっ、よいしょ……と」


 四つん這いで移動してパラソルの撤去にかかる。


「はい、優希くん。ごめんだけど、パラソル返してきて」

 

 折り畳んだパラソルを先輩から受け取って俺は海の家に向かう。海の家のカウンターに立っている男性にパラソルを返却する。

 俺が戻って来ると、先輩と篠森はレジャーシートを片付け、荷物をまとめ終えていた。

 

「お、ありがとね」

 

 言いながら、先輩が砂浜から立ち上がり、足に付いた砂を右手で軽く払い落とす。

 俺たちの荷物は見た所、全て先輩か篠森が持っている様だ。

 

「忘れ物とか大丈夫ですか?」

 

 俺が確認すると先輩は「わたしは大丈夫。楓ちゃんは?」と、隣を見る。

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

 篠森は周囲を見回してから先輩に答える。

 

「甲斐谷。はい、これ」

 

 荷物を持って、俺に差し出して来る。

 俺の荷物は篠森が持っていたのは確認できていた。

 

「ああ、ありがとな。篠森」

 

 荷物を受け取る。


「ちょっと待ってください」


 改めて俺は砂浜の上を確認する。


「ん、大丈夫です」


 俺が問題無い事を告げると、更衣室に向かい三人で歩き始める。

 

「じゃあ、次どこ行く?」

 

 先輩が俺たちの方を振り向いて笑顔で問いかけて来る。

 

「え、次って……」

 

 篠森がスマホを取り出して時間を確認する。俺もスマホを見るが時刻は三時を過ぎたばかり。確かにまだ遊べるような時間はあるが、海水浴で満足しており他の遊びを考えられない。

 

「あはは、冗談だって」

 

 先輩がそう言う。と言うか、きっと先輩も俺たちと同じ状態だろう。

 ただ、篠森は「あ、でも」と呟く。

 

「ん? 楓ちゃん、どこか行きたい所あるの?」

 

 金谷先輩と俺は篠森の方に目を向けた。

 

「お風呂とか、どうですか……?」

 

 海で遊んだからか、確かに身体がベタついてる。今直ぐにでもサッパリしたいという気持ちが湧いてきて、俺も篠森に賛同する。

 

「俺も入りたいです」

 

 そう言って先輩の方を向くと「お、良いじゃん! お風呂ね、お風呂」と乗り気な様子が見て取れた。


「行こうよ、お風呂」


 満場一致で風呂に行く事が決定する。

 

「じゃ、着替えたら海の家の横に集合ね」

 

 更衣室近くに着き、先輩は俺にそう告げて篠森と一緒に女子更衣室に向かった。

 俺は身体をタオルで拭き、さっさと着替えて更衣室を出る。

 

「……流石に俺のが早いか」

 

 着替え終えて更衣室を出て海の家の近くまで来るが、どうにも先輩も篠森も見当たらない。女子の方が着替えには時間がかかるというのは当然か。俺はスマホを取り出して、特に何をするでもなく画面を見つめていた。


「どうしたもんか……」


 充電は六割程。

 ビーチバレーやらで遊んでいた時間がほとんどで、特にスマホをいじっていた覚えは無かったが、それでも充電は減るらしい。

 

「お待たせー」

 

 声が聞こえて、俺はスマホをポケットに入れて顔を上げる。

 俺は先輩と篠森のいる所に合流する。

 

「よし、行こっか。お風呂」


 俺が来たのを確認して、先輩が言う。

 

「あ、そうだ優希くん」

 

 何かを思い出したかの様だ。

 

「この後だけどさ。お風呂入ったら、お土産買って、ご飯食べて帰る……で良いかな?」

 

 先輩が俺だけに言ったということは、着替えの際、既に篠森には話したということだろう。

 

「はい、大丈夫です」


 俺は母さんにご飯を食べて帰れと言われていたから、それが丁度いい。


「よし」


 先輩は笑みを浮かべる。


「じゃあ、これからの動きも決まったことだし、改めてしゅっぱーつ!」

 

 篠森がスマホをいじり始める。

 先頭を歩いていた先輩が直ぐに振り返る。

 

「あ、楓ちゃん。案内お願いします」


 意気揚々と宣言したは良いが、先輩は道を知らないのか。とは言え、スマホを見てる篠森も分かってないんだろう。


「はい」

 

 篠森に少し先を譲り、俺たちはゆっくりと歩き始める。


「篠森。足元とか周り気をつけろよ?」


 俺が言う。


「うん。ありがと」


 篠森は頷いた。

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