第66話 屋台飯
太陽が砂浜を照らしている。
時刻はそろそろ昼頃だろう。気温はより高くなっている様に思う。
「…………」
俺と篠森はパラソル出来た日陰に座っていた。少しの間の休憩だ。
「そろそろお昼にしようよ!」
海から戻ってきた先輩が濡れた髪を右手で掻き上げ、軽く水気を払い「わたし、ここで待ってるから美味しそうなの何か買ってきてよ」と砂浜に敷かれたレジャーシートの上、俺の右隣に座り込む。
そして、持ってきていたタオルで身体を拭き始めた。
「あ、焼きそばが良いかな。ソースのやつ!」
先輩の注文を聞き、俺が鞄から財布を取り出し立ち上がると、近くに座っていた篠森も立ち上がる。
「あ、私も行きます」
篠森が財布を持ったのを確認して砂浜を歩き始める。
「二人ともいってらっしゃーい、よろしくねー」
先輩の声が後ろから聞こえた。
「篠森、楽しんでるか?」
俺はラッシュガードを羽織ったままの篠森に尋ねる。
「うん」
特に気にした素振りもなく、当たり前のように頷いた。
「そうか」
篠森が金谷先輩と遊んでいるのを見ていたが、純粋に楽しめていたかと言うのは俺にはわからなかった。
「甲斐谷は?」
笑いながら答える。
「俺も楽しんでる」
テレビではなく自分の目で海を見て、こうして遊ぶのも楽しいと思えている。ビーチバレーをするのも、水の掛け合いも。
こうして海に実際に来て、悪くないと感じている。
「そっか」
「さっきのビーチバレーもな……」
俺がそう話し始めると篠森も「全然続かなかったよね」と笑う。俺たちの中にバレー経験者は居なかったから明後日の方向にボールが飛んでいってしまったり、ボールを顔面で受けたりと。
いや、顔面で受けたのは先輩が突然スパイクを打って、俺がそれに反応できなかったからだ。
「顔、大丈夫だった?」
純粋な心配かどうか。
いや、篠森は笑っている様な気がする。
「ボール、別にそんなに硬くなかったからな」
鼻血が出るほどの威力があった訳でもない。
「凄かったよ」
と、篠森が笑う。
「あ。ほら、甲斐谷。お昼ご飯……買お?」
立ち並ぶ屋台を見て俺は目的を思い出す。先輩から注文された焼きそばの売ってる店を探す。時間が昼ということもあってか、店のあたりは人で混み始めている。
「甲斐谷、あっち」
俺は篠森が指差した方向を見る。確かに焼きそばと書いてあるのが見えた。
「篠森はなんか食べたいのとかあるか」
焼きそば以外で。
先輩は焼きそばだが、俺たちは別に決まっていない。別に探しても良いが。
「金谷さん待たせても悪いし、焼きそば、私も食べたくなった」
と、篠森は先に向かってしまう。
俺は置いていかれない様にと追いかける。確かにこれだけ並んでしまっていると他の屋台に並べば余計に時間がかかるか。
「甲斐谷は?」
俺が追い付いたのを見て篠森が振り返る。
「俺も」
少し、喉が渇いてきてる。
飲み物の一つは欲しくなって来る。
「ああ、後、コーラ買ってけば良いんじゃないか」
先輩はコーラ好きだろうし。
俺たちは焼きそば屋に並びメニューを見る。どうにもコーラも売ってるらしい。
「すみません。焼きそば三つと、コーラ三つ」
俺が注文すると店員は手早く鉄板の上の焼きそばを三つ分プラ容器に移し、袋に入れる。俺が支払いを済ませると袋が差し出される。俺はそれとコーラを三本受け取る、
「早く先輩の所に戻るか」
お腹空かせて待ってるだろう。
「うん」
篠森に焼きそばの入った袋を持ってもらい、俺はコーラを両手に持ちながら先輩のいるパラソルの元に戻る。
「先輩、戻りましたよ」
俺が先輩に声をかけると先輩は「待ってました!」と笑う。
「焼きそば、焼きそば〜」
まるで子供の様に笑っていて、本当に楽しみにしているのだと感じられる。篠森が三人分を袋から取り出し、先輩と俺に一つずつ手渡す。
「おお! 美味しそ〜……!」
先輩が割り箸を割って「いただきます」と食べ始める。
「ん〜っ! カップ焼きそばとは決定的に違うんだよね」
俺と篠森も先輩が食べ始めたのを見て。
「いただきます」
と、食べ始める。
先輩の言葉に納得する。カップ焼きそばとは確かに別物だ。
「焼きそばって言えばさ」
先輩が焼きそばをレジャーシートの上に置く。
「何かさ、目玉焼き乗ってるやつあったよね?」
先輩が焼きそばを食べる手を止めてコーラのキャップを開けながら、俺たちに聞いてくる。
「ありましたね、そう言えば」
俺の言葉に続けて、篠森が「横手焼きそばの事、ですか?」と首を傾げながら言う。
「そうそう! それも食べてみたいんだよね」
「自分でも作れませんか?」
「そう言うのは屋台で買って食べるのが良いんだよ、優希くん」
コーラを口内に流し込む。
「ぷはぁーっ……にしても、最高! いやぁ、海来れて良かった〜」
先輩はコーラの蓋を閉めて、俺達の顔を見て「あ、いや、まだ帰らないけどね?」と笑う。
「ま、後半戦も楽しもー!」
とは言っても、やる事は午前と基本変わらない筈だ。やる事、というのもおかしいか。
「……先輩、スパイク打たないでくださいよ」
俺は二度目の悲劇が起きない様に釘を刺しておく。




