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第59話 学園祭の出展

 

「学園祭、何かやりたい事ある人〜」

 

 学園祭実行委員の女子が前に出て教壇の上に立ち、黒板近くに男子がチョークを持って立つ。テストが終わり少しばかり緩みのある空気感の中で、文化祭の出展を決める様にと先生が時間を与えた

 当の先生は教壇の端に置いたパイプ椅子に腰掛けて俺たちの様子を見ている。

 

「そんなに直ぐ出てこないだろ」

 

 先生は「お前ら、取り敢えず五分くらい考えろ」と告げる。俺は周囲が話し始めたのを見ながら、息を吐いて背もたれに体重を掛ける。

 

「…………」

 

 俺には話す様な相手がいない。

 篠森の席も近くない。近かったとして、倉世がいるこの教室では話せないか。

 

「おい、甲斐谷」

 

 俺に声を掛ける様な生徒は居ない筈だ。俺は声のした方に顔を向ける。

 

「……先生」

 

 いつの間にか教壇からここまで移動してきていた様だ。

 

「何かあるか、やりたい事」

「いえ、特には……」

 

 お化け屋敷もやりたいという訳でもない。俺が答えると先生は「そうか」と言って、他の生徒の所へと行ってしまう。

 

「……何だったんだ」

 

 俺の疑問に答える人はいない。

 別に理由は特になかったのかもしれない。

 先生の動きを追いかけていた目を黒板の上にある壁時計に移す。時間は未だ二分が経過した程度。

 実行委員もそれぞれの友人の元に向かったのか、教壇の上に見当たらない。

 

「何をやるか、か……」

 

 こうであれば良い。

 あれならば良い。

 と、自らの都合にとって良い物はあるが、それを決めるのは俺ではない。だから、やりたい物もない。成り行き任せてだ。

 パネル展示は都合がいいが、人気は無さそうだ。

 

「はいはーい!」

 

 一人の男子生徒が勢いよく手を上げて「メイド喫茶がいいです!」などと自信を持って言う。

 

「……メイド喫茶、か」

 

 少しだけ考える。

 シフトの問題があるだろうが、それでも恐らくほとんどの場合は友達と一緒にとなる筈だ。俺はどこかで抜け出せばいい。倉世は篠森と一緒の休憩時間に……。

 

「はい、却下でーす」

 

 クラス委員によって即座に却下された。

 

「去年の傾向で考えると、メイド喫茶できるくらいの予算は支給されないので」

 

 現実的な物ではないのだと。

 言われてみて納得した。

 

「……確かに」

 

 提案した本人も心情的な理由ではなく、論理的な理由に理解を示す。

 

「他に何かありますか?」

 

 メイド喫茶が出た事で他の生徒も少しずつ意見を出していく。どうにもお化け屋敷や脱出ゲームなどの人気が高い。パネル展示は不人気な様だ。

 

「じゃあ、この中から決めてくけど……必ずこれになる訳じゃないからね?」

 

 学園祭の出し物で被りが出ない様に、被りが出た場合は他の案を考えなければならないのだ。

 

「第一希望は脱出ゲームで、第二希望が射的という事で。どっちも被ったら、その時はその時で」

 

 そうやって対応するらしい。

 俺としては特に言うことはない。俺が何かを口出しするのも良くない事なのだと思う。俺は当日に抜け出す可能性があるから。

 

「……それでいいか? んじゃ、まあ……あー、授業時間はもうちょいか」

 

 先生は自らの左腕に目を向けてから呟く。

 

「じゃあ、これで終わりだ。お前らチャイム鳴るまで教室出るなよ?」

 

 釘を刺してから、教壇の端に置いてあるパイプ椅子の所まで戻り、畳んでから壁に立てかけた。

 

「ん。時間だな。お前ら掃除行け」

 

 先生に言われて生徒は教室から移動する。俺は割り当てられた階段に向かい、掃除用具の入っているロッカーから箒とちりとりを持って掃除を始める。

 上の階から箒で払っていく。

 同じ班の生徒の話し声が上の方、踊り場から聞こえてくる。

 

「メイド喫茶なー」

 

 先ほど提案した男子生徒らしい。

 

「やりたかったなー」

「仕方なくね?」

 

 予算が足りないんだから、と言う声。

 片方はさっきの時間にメイド喫茶を提案した男子だ。話しているよりも今は掃除をしてほしいが。

 俺は集めたゴミをちりとりに入れ、ゴミ箱に捨てる。同じ班のメンバーがゴミ箱にゴミを入れたのを確認して、それをゴミ捨て場に持っていく。

 

「お、優希くん」

 

 ゴミ捨て場に向かうと金谷先輩と出くわした。

 

「こんにちは、金谷先輩」

「こんにちは〜。学園祭、何やるか決まった?」


 俺が挨拶をすると、先輩が尋ねてくる。


「まだですよ。それに決まったら金谷先輩だって分かるでしょ?」

「現段階でって話じゃ〜ん」

「今んところ脱出ゲームらしいですけど」

 

 俺が言うと先輩は「お、良いね」と笑いながら言ってくる。

 

「脱出ゲーム、わたしも好きだよ。今回は行けるかも分からないけど」

 

 きっと俺と三谷先輩を二人きりにする為に時間を割いてくれるからだ。

 

「……すみません」

「いやいや、別に良いんだよ」

 

 先輩はゴミ箱の中からゴミ袋を取り出してゴミ捨て場に置く。

 

「ねっ……! まあ、海行くのも、わたしの息抜きの一環だしさ」

「そう、ですか」

 

 俺がゴミを捨てたのを確認して、先輩は「優希くん」と俺を呼び。

 

「楽しみにしてろよ?」

 

 と、ニッと笑みを浮かべて。


「あ、そろそろ戻らなきゃ! またね、優希くん!」


 ここに長いし過ぎるのも問題だろう。

 俺も班を待たせることになると、少しだけ歩く速度を早めて戻る。

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