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第57話 Approach

 

 テストが始まり三日目。

 つつがなく今日のテストは終わり、部活動もない為にぞろぞろと生徒たちは教室から出ていく。

 

「甲斐谷」

 

 教室内で篠森に呼びかけられ、倉世の姿が無いかと確認する。こうして篠森が話しかけてきてる時点で居ないのだろうと分かるが、それでもだ。

 見回した教室には俺と篠森以外の姿がない。再度、直ぐ近くにいる篠森の顔を見上げる。

 

「帰ろ?」


 いつも通りの確認に俺は短く返答する。


「……おう」

 

 鞄を持って立ち上がる。

 教室を出て扉を閉め、階段を降りる。

 靴を履き替えて、学校の外に出て俺は篠森に思い出した事を一つ口にする。

 

「そう言えば、金谷先輩から連絡来たな」

 

 昨日の夜ごろに先輩からグループにチャットが一つ。

 海に行くと言う事だったが、日取りが決まったらしく、先輩からは夏休みが始まって直ぐに行こうと連絡が来た。日取りとしては海の日と丁度被る事となる。

 

「そうだね」

 

 篠森がスマホを取り出して確認する。

 

「再来週だよな」

 

 来週に終業式があり、直ぐとは言ったが夏休みが始まり数日を待つ事になる。流石に準備する物があるのかもしれない。

 

「それまでどうする?」

 

 俺は別にやる事がある訳でもない。強いて言えば宿題を少しやるくらいだ。後はゲームでもして過ごすことになる。学校がなければそんな堕落しきった生活になる。

 謹慎中も似たような物だった。

 

「どっか出かけるか?」

 

 海に行く前に、二人だけで。

 この前のように。

 夏休みと言っても休日は結局父さんも母さんも家に居るだろう。篠森と会うとするならば家の外ということになる。

 それは結局、篠森の都合が合えばと言う話な訳だが。

 

「ごめん……」

 

 篠森が思い悩んだ様な顔をして断る。

 

「ん、無理なら全然良いんだけど」

 

 別にどうしてもと言う訳でもない。無理なら無理で構わない。

 

「悪いな、突然」

「ううん……誘ってくれたのは嬉しかったから」

 

 篠森が笑う。

 

「因みに、どんな予定?」

「それは……」

 

 断られた理由が気になって俺が聞けば篠森は少しだけ考え込んで「秘密」と言ってはにかみ笑いを浮かべる。

 

「そっか」

 

 多分、悪い事ではないんだろう。

 それは俺にとっても。だから彼女は笑ったのだと思う。俺にとって悪い事なら、こんな顔をしないだろう。

 

「ま、取り敢えずテスト残り二日。頑張るか」

 

 俺が言うと、篠森も「そうだね」と頷く。夏休みが近づいて浮かれてばかりでも居られないか。


「あ」


 篠森の声に振り向く。

 

「そう言えば、さ」

 

 篠森が思い出した事を話し始める。僅かばかりに申し訳なさそうな顔をしているように思う。

 

「ん?」

 

 俺は篠森の方に振り向く。

 

「テスト終わったら、夏休みだけど……学園祭もじゃん」

「確かに」

 

 そうだった。

 夏休み一週間前になれば学園祭の話も出始める。夏休みと九月中には準備が行われ、九月の中旬に入る頃には本格化していく。

 

「…………」

 

 近づきつつある。

 少しずつ。

 確かに。

 自らの手のひらを見つめる。

 そのまま右手を胸の前で握りしめてから、前を向く。


「甲斐谷」


 そこには篠森が立っている。


「大丈夫だよ」

 

 きっと上手くいくと、篠森は……笑っている。また、俺は引っ掛かった。あの日と同じ様に。

 

「…………」

 

 あの日と同じで。

 篠森の笑顔に引っ掛かった。

 

「学園祭、何やるんだろ……?」

 

 少しだけ話し始めが早口に聞こえた。

 それは俺の反応がなかったからなのかもしれない。


「甲斐谷はやりたい事とかある?」

「……そうだな」

 

 全部、錯覚だ。

 俺は篠森の友達だと思っていても、彼女の何から何までを知っている訳ではない。


「お化け屋敷とか、か?」

 

 思いついたのはその程度だ。

 俺の言葉に「人気だから、他のクラスと取り合いになるかも」と篠森は笑う。いつも通りに、気がつけば戻っていく。

 

「お化け屋敷なら、甲斐谷は何やりたいの?」

 

 そんな質問に俺は少しだけ悩んだ。


「あー……」


 思い浮かんだ物をそのまま口にした。

 

「……ジャック・オ・ランタン」

 

 金谷先輩に被らされたジャック・オ・ランタンが俺の想像以上に印象に残っていた。

 お化け屋敷で何がやりたいかと言う話であったが、俺は本当にアレを被るかもしれない。それはお化け屋敷だとかは関係なしに。

 

「カボチャの……?」

 

 篠森の言葉に生徒会室で見たカボチャ頭がより鮮明に思い浮かぶ。俺は自分がどうなっているのかを知らないが、金谷先輩にはどう見えていたのだろうか。

 

「似合う似合わない関係ないじゃん」


 確かにその通りだ。

 俺の顔は見えなくなるから、中身が誰であっても関係ない。似合う似合わないもありはしない。


「なら、俺は何が似合うと思う?」

 

 俺が聞けば篠森は考える間も無く「フランケンシュタイン」と直ぐに答えて。

 

「甲斐谷、背高いから」

 

 自らの背と比べるように右手を上げた。


「背、ね」


 篠森だって女子の中では身長が低い方ではない。倉世より少し高いか。それでも俺とは十数センチの差がある。


「……そうか」


 別にそんなに大きくもないが、とは口に出さずに俺は僅かな笑みだけを浮かべて、ふと息を短く漏らす。



 


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