表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/192

第56話 夏休みの予定

「なあ、篠森。ここを教えて欲しいんだけど」


 俺はノートの上をシャーペンの先で示して篠森に教えを乞う。


「そこは────」

 

 テスト前という事で俺と篠森は図書館に来ていた。前回の中間試験と変わらず篠森が俺の分からない所を色々と教えてくれる。

 

「ああ、こう言う事か」

 

 理解があやふやだった所が補われる。


「これで大丈夫か?」


 一問だけ解いてみて、篠森に確認する。

 篠森は髪を右耳に掛けながら俺のノートを覗き込む。


「うん、合ってる」

「ありがとな」


 この解き方であっているなら、と。

 問題を幾つか解き終えて、俺はシャーペンを机に置く。篠森が教えてくれたやり方を試験でも出来れば問題ない。


「ふぅ……こんな感じか」


 答えを確かめて見る。

 問題なく解けている様だ。

 俺が隣を見れば篠森もシャーペンを置いていて、目があった。

 

「そろそろお昼にする?」

 

 テスト前の休日、と言うのも前回と変わっていない。俺たちは図書館を出る。テストが終われば。

 

「────夏休み、か」

 

 ここ最近、よく来る様になった図書館近くのファミレスに入りメニューを注文する。結局、高校生の懐的にも図書館からの距離的にもここが丁度良いのだ。

 店員が戻っていったのを確認し、俺は視線を窓の外に移して呟いた。

 

「予定とか、決まった?」

 

 篠森に言われて夏休みの事を思い浮かべる。今までの夏休みは倉世と遊んだりしていた覚えしかない。予定らしい予定も家族ぐるみでのバーベキューだとか、夏休み終わり頃にある祭りくらいだったのだが。

 

「全然だな」

 

 予定がない。

 する事もこれと言ってない。というのは、金谷先輩の案のお陰だ。

 

「そうだ、篠森。祭り一緒に行くか?」

 

 暇ならで良いんだが。

 俺がそう誘うと篠森は「え」と驚いた様な顔をしてみせる。

 

「……良いの?」

「良いのも何も。俺、予定ないから」

 

 寧ろ、篠森の方が大丈夫なのかが気になる。俺は誰とも予定が無いから、こうやって誘っているのだ。

 

「お祭り……」

 

 篠森は考え込む様にして、それから頷いた。

 

「うん」

 

 予定が一つ埋まる。

 祭りがあるのは八月。それまでは例年通りに、と思ったが、例年が参考にならないか。

 

「篠森」

 

 俺はまた呼びかける。

 

「ゲームしに来るか?」

 

 元々、篠森とは前にそんな話をした覚えがある。

 

「そうだね」

 

 篠森も思い出したのか笑った。

 

「甲斐谷、寂しいだろうから」

 

 それで以前に自分が何と言ったのかも思い出した様で、同じ事を口にする。

 

「さっきも言ったけど夏休みの予定は空いてるからな」

 

 タイミングが合わないと言う事も基本は無いと思う。俺は部活に参加していないから平日も家にいる。篠森は恐らく平日にしか家に来ないだろうが。

 

「篠森は、夏休みどっか行くのか?」

 

 俺が聞けば篠森は「特に無いかな」と言う。父も母も仕事がある上に、高校生になった自分にそこまで構わなくても良くなったからとの事。

 何となく、それは理解できた。

 子供の時ほど遠出する事が無くなったのは俺も同じだからだ。

 

「ん……」

 

 グループチャットにメッセージが送られてくる。

 

「金谷先輩からか」

 

 『夏休みなったら』と一言。次に『海行こう!』と来て、サムズアップのスタンプが表示された。

 

「唐突だな」

 

 何がどうして、と思いながら俺は前に座る篠森を見る。篠森は未だスマホを確認している。

 このグループに参加しているのは俺と先輩と篠森の三人。所謂、倉世の記憶を取り戻そうと言うグループだ。

 

「篠森?」

 

 短いメッセージの筈だ。

 俺が声をかけると「な、何……?」と少しばかり焦った様な声が返ってくる。

 

「ああ、いや……別に何だって訳でもないけど」

 

 篠森はふうと息を吐いた。

 

「甲斐谷……行く?」

 

 行くと言うのは海に行くか、と言う話だろう。

 

「まあ、そうだな」

 

 これも先輩の息抜きだ。

 それが先輩が俺に求めた事。

 グループチャットで『分かりました』と送る。直ぐに既読が二つ付く。篠森も俺が送って十秒ほどで『はい』と送信する。

 

「金谷先輩からの誘いだからな」

 

 断る事はあり得ない。

 

「篠森は良かったのか?」

 

 わざわざ付き合う事もないだろうに。金谷先輩の息抜きに付き合う必要があるのは俺だけだ。

 

「それは……海に行きたい気分だったから」

 

 篠森は首裏に手を当てて言う。顔も斜め下を向いてよく見えない。


「……ん」


 自信がない時の癖、なのだろうか。

 

「そうか。じゃあちょうど良かったか」

 

 ただ、そこに踏み込む事は躊躇った。

 

「うん」

 

 俺は彼女が頷くのを見て、これで良いのだと思った。

 

「……って……い、……ら」

 

 目の前にいる篠森は何かを口にした。

 それを聞き逃した。きっと篠森も届けるつもりもなかったんだろう。だから、これで良いのだ。俺は聞こえなくて良い。


「篠森」


 俺が名前を呼べば、小さく肩を震わせて顔を上げた。

 

「ドリンクバー持ってくるな」


 俺は机に右手をつきながら立ち上がる。


「コーラでいいか?」

 

 瞬間にスマホが震えて通知が入る。

 『日程は後で連絡します』と金谷先輩から。確認してスマホをポケットにしまい込んだ。


「海、か」


 テレビで見る様な印象しかない。

 俺は実際の海をもう覚えていない。海に出かける事もないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ