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第55話 乾杯

 ファミレスに入り、先輩がメニューを注文する。

 

「えーと、このえびドリアとチキンステーキ、シーザーサラダを……」

 

 俺と隣に座る篠森は少し遠慮してポテトとドリンクバー程度にする。

 

「それだけで良いの?」

 

 先輩が聞いてくるが正直、夕飯の事もあるから、ここで食べ過ぎてもと言うものだ。むしろ、先輩は平気なのだろうか。

 

「夕飯もあるんで。先輩こそ大丈夫なんですか」

 

 俺が尋ねると先輩は「あー、大丈夫大丈夫」と言う。

 

「わたしの家、親仕事で帰って来るの遅くてさ〜。ご飯とか自分で何とかしろって感じだから」

 

 金谷先輩が寂しそうに笑いながら言う。


「もうとっくに慣れたんだけどね」


 そう付け加えた。

 

「そだ、ドリンクバー取って来るけど、何が良い?」

「俺が取ってきますので」

 

 先輩が立つ前に俺が立ち上がる。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 ニコリと微笑んだ。

 先程とは違う、笑い方。俺は少しだけ安心する。

 

「篠森、コーラで良いよな?」

「うん」

 

 それで先輩は、と顔を向ける。

 

「あ、じゃあわたしも」

 

 俺はドリンクバーの機械まで向かう。


「俺もコーラで良いか」


 元々、この親睦会は俺はあまり必要がないのだと思う。俺は篠森と友達である訳で、先輩との交流だってある。親睦を深めると言う趣旨であるなら、それは篠森と金谷先輩の為である筈だ。

 

「…………」

 

 ここに俺がいる理由は、ただ親睦会とした方が違和感がないからだろうか。


「ん」


 もしかしたら、先輩はそんな事は考えていないのかも知れない。別に考える必要は無いんだろう。

 三人分のコーラが注ぎ終わり、右手に二つ、左手に一つを持ってテーブルに戻る。

 

「お待たせしました」

 

 俺はテーブルにコーラを置いていく。

 

「ありがとね……お、優希くんもコーラか」

 

 先輩と篠森にコップを渡してから、俺は椅子に腰を下ろす。先輩は俺がテーブルに置いたコップを右手で持って、語り始める。

 

「じゃ、今後益々の活躍とご健勝を祈って〜」

 

 聞き慣れない言葉が並ぶ。

 どこで仕入れてきたのかと思いながらも口を挟まずに先輩の挨拶を聞く。

 

「乾杯の挨拶とさせていただきます」

 

 これは先輩がふざけているだけだ。

 真面目な空気を感じない。言葉だけを見れば、少しは真面目に思えるかもしれないが、全然違う。

 

「それでは、お二人ともグラスをお持ちいただいて」

 

 俺と篠森は顔を見合わせコーラが注がれたコップを右手に持つ。

 

「乾杯」

 

 軽くその場で揺らして先輩がコーラを口内に流し込んでいく。

 

「ふー……美味いっ」

 

 先輩が一息つき、コップをテーブルに置いた。


「やっぱり、夏って言ったらコーラだよね。冬もコーラだけど」

 

 そういえば。

 と、切り出してコップを脇に寄せる。

 先輩はどこから何を思い出したのだろうか。

 

「プール授業始まったんでしょ?」

 

 俺に詰め寄ってくる。

 

「ね、ね。楓ちゃんの水着どうだった?」


 水着と言っても、だ。


「……まあ、皆んな同じですし」

 

 別に目新しいだとか、そう言うのは特に無かったと答えれば「そうなんだ」と返される。

 

「じゃあ、智世ちゃんのは?」

「見てないです」

 

 倉世は未だにプール授業に参加していない。水着を見れていない。とは言え、別に見た所で何かがある訳でもないだろう。

 去年見た物と変わる筈もないのだから。

 

「あの、金谷さんはプール授業とか……」

 

 篠森が尋ねれば、金谷先輩が首を横に振る。

 

「ナイナイ。受験生だから水泳授業なしだって」


 先輩の答えに篠森が「そうなんですか」と相槌を打つ。

 それは羨ましいと少しばかり思う。

 身体が冷えるとか、寒いとか言うことはないだろうから。

 

「まあ、別にプールが楽しいとかはあんまりないからね」

 

 あってもなくても変わらないのだと。

 多くはそうなのだろう。恐らく篠森も。

 

「ただ、男子目線での意見が聞いてみたかったんだよね」

 

 金谷先輩は溜息を吐いた。

 俺のはあまり参考にならなかっただろう。


「お待たせいたしました」


 そうやって話していると、先輩が頼んだサラダとポテトが運ばれて来る。


「お、来た来た。ほら、どんどん食べよ。今日は割り勘だから」


 ファミレスに入る前にもそんな事を言っていた。


「割り勘……って」


 篠森が呟く。


「金谷さんって、色々頼んでなかった?」


 篠森が俺に確認を取ってくる。

 篠森の記憶通り、金谷先輩は色々と頼んでいる。先輩の言う通りに割り勘になれば損をするのは俺たちだ。


「ああ、確か────」


 金谷先輩が何を頼んだか思い出そうとしていると直ぐに答えが示される。

 店員が残りの品を持ってきてテーブルに並べた。


「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか?」


 それに頷くと店員が戻っていく。

 テーブルには三人分のコップにサラダとポテト、今運ばれてきたドリアとチキンステーキが乗っている。

 このテーブル内の半分以上が先輩の物だ。


「いただきます」


 先輩が食べるのを俺と篠森はじっと見つめる。


「え、なになに? どしたの?」


 これが全て割り勘。

 何も答えずに俺はテーブルの上に並べられた物を見つめる。

 金谷先輩は気がついたらしい。


「……あ、割り勘? ジョーク、冗談だって!」


 慌てた様子で言う。


 

 

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