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第51話 Goodbye

 

 金谷先輩の考えた作戦を行うとして。

 目標は俺が三谷光正と二人きりで話せる場を設けること。その為に消化しなければならないタスクは先輩が上げた二つ。

 まず、他の誰かがその空間に近づかない様にする事。もう一つが、倉世と三谷光正を引き離す事。

 

「…………」

 

 他の誰かを近づけないと言う点については先輩が生徒会役員であり、学園祭の教室の利用状況を把握可能である為、特に問題はないだろう。しかし、金谷先輩が倉世と三谷光正を完全に引き離す事は出来ないと思う。

 

「これで……」

 

 焦る必要はない。

 三谷光正と倉世の動向を気にして、機会を常に窺う必要もない。意味がないと分かっていながら無理に行動しようとする必要もない。

 それで少しだけ頭の中がスッキリとする。焦り、不安が僅かに解消された。行動しなければ、という義務感が解けていく。

 漸く、目的に向けてのコースが見えた。

 

「フゥー……」

 

 金谷先輩に感謝するばかりだ。

 受験生で勉強も大変だろうに、生徒会の仕事もあるだろうに、わざわざ俺と三谷光正が二人で会う為の方法を考えてくれたのだから。

 

「上手くやる」

 

 これを逃す訳にはいかない。

 このチャンスを、絶対に。

 

「……首洗って待ってろ」

 

 とは言え、俺が出来る事はほとんど無い。場が整うのを待っているだけになってしまう。何せ、俺が倉世を引き離す事はできないから。

 

「三谷光正」

 

 俺は俺に許された全てに頼って三谷光正に迫る。全てを吐き出させる。

 

「優希ー! ご飯出来たよー!」

 

 母さんの声が響く。

 溜息を一つ吐いてから、俺は返事をする。

 

「はーい……!」

 

 俺は階段を駆け降りる。

 いつもよりも気が楽だ。

 

「優希、なんか良い事あったか?」

 

 俺がリビングに入ると父さんが俺の顔を見て聞いてくる。

 

「何で?」

「いつもより嬉しそうだからな」

 

 ああ、そう言う。

 

「ん、まあ。ちょっと」

 

 ようやく前に進めそうだからか。

 少しずつ、目標に向かって明確に意識しながら、俺は行動出来る。意味があるのかと考えなくとも良い。

 

「そりゃ良かったな」

 

 父さんが笑う。

 

「…………うん」

 

 俺が頷くと母さんが味噌汁を装ってテーブルに置く。夕飯を食べてから、また考えていこう。

 

「いただきます」

 

 俺が手を合わせて言う。

 

「どうぞ〜」

 

 椅子に座った母さんの言葉を聞いて食事に手をつける。今日のメニューは焼き魚、漬物、味噌汁。

 

「食べたら、さっさとお風呂入っちゃいな」

 

 既に準備は出来ている、というか風呂掃除をしたのは俺だから分かってる。ご飯を食べたら風呂に入って……今日は気持ちよく眠れるだろう。

 

「そうする」

 

 夕飯を食べ終えて部屋に戻りスマホを見る。一つの通知がある。だが、誰かは分からない。二つのメッセージだ。『わたしだ』という物と、『これを見たら連絡してくれ』と。

 表示名はk。

 俺はベッドに腰を下ろした。

 

「…………」

 

 送られてきたのは夕飯を食べ始めてから。まあ、ざっくりと一時間くらい前。相手は誰かわからない。確定していない。察しはつくが、そんな状態で受け答えするのも、と思っていると新たなメッセージが送られてきた。

 

『金谷瑠璃です』

 

 一時間もの間、応答が無かった事で流石に自己紹介はしておくべきだと思ったのだろうか。

 俺は通話を入れる。

 

「……もしもし?」

『あ、優希くん? 待ってたんだよ?』

「すみません、食事中で。と言うか、kて何ですか」

 

 怪しすぎて連絡を入れる気がなくなってしまう様な名前だし、メッセージだ。

 

『正体不明の協力者とか、こんな感じかなと』

 

 金谷先輩の悪ふざけらしい。

 何となく分かってはいたが。

 

「……で、何の為だったんですか?」

『学園祭でもいつも通りスマホは使用禁止。生徒会も例外なくね。それで、これは買い替え前に使ってた奴』

 

 先輩はスマホの説明を終えてから続きを伝えてくる。

 

『学園祭中も連絡できた方が互いに動きやすいからね。当日はこれ使うからさ』

 

 それは俺もスマホを持ち歩く必要があるという事。別にそんなのはどうだって良いのだ。

 

「あの、金谷先輩……先輩がそれ見つかったらどうするんですか?」

『その時はその時だね』


 先輩は特に気にした素振りも見せない。


「内申とか……」

『そう言うのは優希くんが気にしなくて良いんだよ。わたしがやりたくてやってるんだから』

 

 だから精々ありがたがることだね、と金谷先輩が茶化す様に言って『まあ、わたしがバレたら自動的に優希くんもバレるんだけどね』と続け、笑う。

 

「……ありがとうございます」

 

 別にこれは金谷先輩に言われたからではない。これ以上、大丈夫なのかと聞くのも違う気がした。

 だから、俺は学校でも伝えた様に感謝を告げる。

 

『なら、これからもわたしの息抜きに付き合う事だね』

 

 さらばだ、優希くん。

 金谷先輩が咳払いをしてから、少し低い声で演じる様に発した。


「はい、さよなら……k」


 俺の言葉に最後、笑う音が聞こえた。

 そうしてkとの通話が切れた。kは金谷先輩のkか。協力者のkか。まあなんだって良いか。

 

「優希〜、お風呂は〜?」

 

 そろそろ風呂に入らなければ。

 俺はベッドから立ち上がり着替えとタオルを持って階段を降りていく。

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