第50話 金谷作戦
俺はオズオズと申し出る。
「あの、早く帰りたいんですけど……」
金谷先輩に呼び出された。場所は相変わらずの生徒会室。先輩は何かを探しているのか、俺の方に顔を向けないままだ。
「えーっと、ねぇ……」
ガサガサと何かを除ける音がする。
頭を突っ込んで、四つん這いの様な格好になっている。金谷先輩には恥じらいはないのだろうか。
「あ〜、座ってていいよ」
先輩にそう言われるも、尻の辺りの濡れた感覚が不快で座れば一層それは感じる。だから一刻も早く帰りたい。
だが、帰らせてくれる様な雰囲気ではない。
「…………」
俺が黙って立っていると先輩はようやく何かを見つけたらしく「あった!」と喜びの声を上げて、頭を棚にぶつけた。
「ぐぅおおおおっ……!? 痛ったぁ〜……っ!!?」
先輩はそのまま棚の中に頭を入れたまま数秒蹲って、前回より大きめの段ボールを取り出して机に置いて椅子に座る。
「先輩、それは……?」
何が入っているのか。
俺は気になって先輩に尋ねる。
「ん? 学園祭で使った衣装関連」
パンパンと段ボールの側面を叩く。
「何だって……」
そんな物を。
と、口にしようとして先輩が大声を上げた。
「うわっ、懐かしーっ! ねえねえ、これ良くない!? ジャック・オ・ランタン!」
先輩はカボチャの被り物を掲げながら言う。
「持って帰っていいよ」
「いや、いいよって……」
こんな物を何に使うと言うのか。
家にあっても困る。置き場所はないし。別にハロウィンに家の周辺を回る予定もない。
「優希くん」
話し始め、金谷先輩の雰囲気が真面目なものになった様な気がする。
「わたしなりに考えてみたんだけどさ」
先輩が真剣な顔をして語り始める。
「やっぱり学園祭がピッタリなんじゃないかなって」
何を。
「何のことですか?」
ピッタリと言うのがよく分からない。何をするのに良いのか。
「会長と二人きりで会えるとしたら、そこくらいしかないかなって」
疑問が口から漏れた。
「は?」
それを考えていたと言うのか。
金谷先輩はそんな事を考えて、今日、俺を呼んだのか。
「優希くん、会長と話したいって言ってたでしょ? それでさー、考えてみました」
先輩は俺にカボチャ頭を持って近づいてきてそれを頭に被せてきた。
「学園祭ってそう言う意味だと使いやすいんだよ。わたし、これでも副会長だから」
副会長。
副……。
「副、会長……?」
金谷先輩が、副会長。
俺は思わず目を見開いた。書記とかくらいだと思っていた。
「そ。生徒会内だったら結構権限あるんだよね。で、特に学園祭だったら指示出したりとかもあるから、私は生徒会をある程度動かせる」
全員の位置をある程度までなら把握できる。彼女の生徒会としての力を最大限発揮できる。学園祭は金谷先輩の助力が最大限に得られる。
「まあ、何だかんだ言っても、結局その日の動きで色々様子見たりとかしないとね。もしかしたら智世ちゃんは会長と一緒に行動しちゃうかもしれないし」
「……先輩」
俺の声が反響する。
視界は狭いし、暗い。
きっと俺がカボチャの中にいるからだ。
「ありがとうございます」
先輩は俺への協力を積極的に考えてくれている。こうやって案も出してくれた。
「金谷先輩の」
学園祭で、三谷光正を。
「……それで考えましょう」
先輩の案を採用する。
俺にはそれ以上を考えられない。現状、これは対応力を求められるが、最も可能性のある一手だ。倉世を三谷光正から引き離す手はある。その時の行動を誘導できるなら。
「俺と三谷光正が……」
二人だけになれる。
俺が考え込んでいると、先輩が直ぐ近くに来ていた。
「あ、持って帰る?」
金谷先輩は俺を覗き込みながらコンコンと頭をノックする。
「……何の為に取り出したんですか、これ」
俺はカボチャを脱ぎ、脇に抱える。
「ん? それね。変装とかした方がやりやすいかなって。例年、お化け屋敷やるクラスもあるし……」
俺とはバレずに、学園祭を違和感なく動ける。
「……使うにしても、持ち帰りませんから」
俺は机の上にジャック・オ・ランタンの被り物を置く。
「せめて学園祭の前日にしてください」
俺が言うと、金谷先輩は「ぷっ」と笑う。
「じゃあ、前日にもっかい聞くね?」
俺は「そうしてください」と返した。
「それで帰って良いですか?」
俺が確認すると、先輩はもう用件は済んだのかいつもの様に笑顔で俺を見送った。
「うん、じゃあね。優希くん」
「失礼します」
俺は生徒会室を出て教室に戻る。
そこまで時間は取られていない筈だ。証拠にプール掃除で濡れた臀部はまだ乾いていない。
教室に戻ってくると篠森が待っていた。
「……篠森」
待っていてくれたらしい。
篠森が俺が教室に戻ってきたのを見て、リュックを背負い立ち上がる。
「甲斐谷、帰ろ?」
俺も自分の席に置いてある鞄を手に取って篠森と教室を出る。
「お尻、大丈夫?」
俺が扉を閉めると、篠森が聞いてくる。
「……微妙だな」
まだ濡れている不快感がある。
「結局、転んだね」
篠森が笑っている。
何だか、転んだのも悪くないと思える。そんな気がしてきた。




