表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/192

第47話 グループワークの齎すモノ

 

「…………」

 

 俺と倉世が対面している。

 この状況になっても仕方がない状況だった。授業内のグループワークにより、俺と倉世が同じグループに振り分けられた。

 他のメンバーは必要な物を受け取りに行った。直ぐに戻ってくるだろうが、少しだけのこの時間ですら気不味さを覚える。

 

「倉世」

 

 反応は返ってこない。

 意図的に、だろう。俺に関わってこないでと言ったことを、倉世は自ら守っているんだろう。

 何と言われたところで俺はきっと話しかけてしまう。それを無視して、倉世は無関係であろうとする。

 

「…………」

 

 それが嫌だ。

 

「え、と……これ、何するんだっけ」

 

 グループワークをする上で当然に生じる会話をするだけでも良い。

 

「……話聞いてなかったの」

 

 そんな風に軽蔑する様な声で倉世は言う。そこに優しさなどと言う物はなかった。

 

「悪い。ちょっと確認したかっただけで」

 

 俺だって、これから授業で何をするのかは分かっていて、ただ話の種が欲しいと。そう思って持ち出しただけだ。

 今までは記憶の事、三谷光正の事ばかりで。俺の感情をぶつける様な事ばかりだった様な気がする。

 

「実験でしょ」

 

 だから、倉世とこうして普通の感情的にならないままの会話をできたのが、少しだけ嬉しく思えた。ここでは三谷光正に邪魔される事がない。

 

「実験って……」

 

 どんな事するのか。

 などと俺が話を膨らませようとして、倉世が溜息を吐いた。

 

「甲斐谷くん」

 

 ああ、またか。

 

「ちょっとは自分で考えたら?」

 

 倉世はそう打ち切った。

 

「……倉世」

 

 俺の言葉に彼女は耳を傾けない。

 それは先輩の言ってた様に、所詮、俺の言葉に価値はないと倉世は思っていて、聞き流して良い事だと判断しているのかもしれない。

 

「そうだ。倉世、まだゲームとかやってるか? 最近、さ……」

 

 シリーズ物で新しいのが出るのだと、そんな事を言って興味を惹こうと思った。倉世は少しだけ反応した様に見えて、ただ直ぐに何もない風を装った。

 

「……そんなに俺と話したくないのか」

 

 思わず、吐くつもりもなかった言葉が口から漏れた。少し、感情的になってしまったかもしれない。

 

「……関わらないでって言った」

 

 俺に釣られる様に、倉世も口を開いた。

 

「何で、俺と関わりたくない」

 

 お前を殴ったからか。

 それを謝罪しても、受け入れないだろう。誠意なんて物を見ようとも思っていなかっただろう。

 

「────三谷先輩の事を悪く言うから」

 

 三谷光正を悪く言ったから、関わりたくない。そんなのが、俺を遠ざける理由だと言うのなら、より一層、三谷光正を排する必要が出来た。

 

「自分の好きな人を酷く言われて、疑いをかけられて平気で居られる訳ないじゃん!」

 

 倉世が俺を睨みつけながら叫ぶ。

 尻上がりに声が大きくなっていった。

 教室の目が俺たちに集まる。そして、その殆どが俺を原因だと思っているのだろう。

 倉世は周囲の視線など気にせずに叫ぶ。

 

「甲斐谷くんはそれでも平気なの!?」

 

 それは。

 それ、は。

 

「…………っ」

 

 それが、出来ないから。

 俺はこうして苦しんでいるんだ。


「倉世」


 お前を悪いと思いたくないから、お前の記憶がないのは三谷光正が原因だからと。そうやってお前を被害者だと置いてるんだ。

 

「落ち着け」

 

 俺は目の前の声を荒げた倉世に言う。

 それは俺の中で暴れ回る感情にも言い聞かせている。このまま俺が思いを吐き出したならヒートアップしていって、留まる事がない。ここでブレーキを掛けなければ、俺も耐えられなくなるだろう。

 

「甲斐谷君、ちょっと来なさい」

 

 化学教師の先生に呼ばれて、俺は教卓に向かう。実験用の器具を持ってきた同じグループのメンバーとすれ違って先生の下に。

 

「みんな、ちょっと待っててください」

 

 俺のせいで。

 俺が原因で。

 授業が止まるのだと。

 俺が悪いのだと。それはもう埋め込まれている。

 廊下に連れ出されて、壁際に立たされる。先生の顔は歪んでいる。

 

「どうして────」

 

 そこからは俺の行動に対する苦言が続く。冷静になるまで廊下で待って、頭が冷えたら戻って来なさいと、彼女は言う。

 

「…………」

 

 俺は先生が教室に入って直ぐに、時間を空けず扉を開く。先生の呆れた様な顔が目に入って「まだでしょ」と言われている様な気がして、仕方なく廊下に戻った。

 

「……はあ」

 

 俺は冷静だと思ってる。

 まだ、感情的になり過ぎていない範囲だ。だから、問題ないのだと思った。

 扉が開く音がした。

 

「大丈夫?」

 

 篠森が現れる。

 

「何してんだ」

 

 授業中だ。

 なんだって篠森は廊下に出たのか。

 

「ちょっとね……」

 

 先生にはちゃんと理由を言ったんだろう。それが本当の事なのかは知らないが。

 

「倉世、落ち着いたって」

「……そうか」

 

 原因の俺が居なくなれば確かに問題なかった様だ。そもそも、俺が話しかけなければこんな事にはならなかったのだろう。

 

「俺、だったか」

 

 結局は、そうなのか。

 

「甲斐谷」

 

 名前を呼び、篠森は俺の頬を抓る。

 

「暗い顔してるよ」

 

 俺の頬を上に持ち上げて、篠森は小さく噴き出した。

 

「ぷっ……」

 

 篠森が笑うのを見て、心が晴れる様な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ