第47話 グループワークの齎すモノ
「…………」
俺と倉世が対面している。
この状況になっても仕方がない状況だった。授業内のグループワークにより、俺と倉世が同じグループに振り分けられた。
他のメンバーは必要な物を受け取りに行った。直ぐに戻ってくるだろうが、少しだけのこの時間ですら気不味さを覚える。
「倉世」
反応は返ってこない。
意図的に、だろう。俺に関わってこないでと言ったことを、倉世は自ら守っているんだろう。
何と言われたところで俺はきっと話しかけてしまう。それを無視して、倉世は無関係であろうとする。
「…………」
それが嫌だ。
「え、と……これ、何するんだっけ」
グループワークをする上で当然に生じる会話をするだけでも良い。
「……話聞いてなかったの」
そんな風に軽蔑する様な声で倉世は言う。そこに優しさなどと言う物はなかった。
「悪い。ちょっと確認したかっただけで」
俺だって、これから授業で何をするのかは分かっていて、ただ話の種が欲しいと。そう思って持ち出しただけだ。
今までは記憶の事、三谷光正の事ばかりで。俺の感情をぶつける様な事ばかりだった様な気がする。
「実験でしょ」
だから、倉世とこうして普通の感情的にならないままの会話をできたのが、少しだけ嬉しく思えた。ここでは三谷光正に邪魔される事がない。
「実験って……」
どんな事するのか。
などと俺が話を膨らませようとして、倉世が溜息を吐いた。
「甲斐谷くん」
ああ、またか。
「ちょっとは自分で考えたら?」
倉世はそう打ち切った。
「……倉世」
俺の言葉に彼女は耳を傾けない。
それは先輩の言ってた様に、所詮、俺の言葉に価値はないと倉世は思っていて、聞き流して良い事だと判断しているのかもしれない。
「そうだ。倉世、まだゲームとかやってるか? 最近、さ……」
シリーズ物で新しいのが出るのだと、そんな事を言って興味を惹こうと思った。倉世は少しだけ反応した様に見えて、ただ直ぐに何もない風を装った。
「……そんなに俺と話したくないのか」
思わず、吐くつもりもなかった言葉が口から漏れた。少し、感情的になってしまったかもしれない。
「……関わらないでって言った」
俺に釣られる様に、倉世も口を開いた。
「何で、俺と関わりたくない」
お前を殴ったからか。
それを謝罪しても、受け入れないだろう。誠意なんて物を見ようとも思っていなかっただろう。
「────三谷先輩の事を悪く言うから」
三谷光正を悪く言ったから、関わりたくない。そんなのが、俺を遠ざける理由だと言うのなら、より一層、三谷光正を排する必要が出来た。
「自分の好きな人を酷く言われて、疑いをかけられて平気で居られる訳ないじゃん!」
倉世が俺を睨みつけながら叫ぶ。
尻上がりに声が大きくなっていった。
教室の目が俺たちに集まる。そして、その殆どが俺を原因だと思っているのだろう。
倉世は周囲の視線など気にせずに叫ぶ。
「甲斐谷くんはそれでも平気なの!?」
それは。
それ、は。
「…………っ」
それが、出来ないから。
俺はこうして苦しんでいるんだ。
「倉世」
お前を悪いと思いたくないから、お前の記憶がないのは三谷光正が原因だからと。そうやってお前を被害者だと置いてるんだ。
「落ち着け」
俺は目の前の声を荒げた倉世に言う。
それは俺の中で暴れ回る感情にも言い聞かせている。このまま俺が思いを吐き出したならヒートアップしていって、留まる事がない。ここでブレーキを掛けなければ、俺も耐えられなくなるだろう。
「甲斐谷君、ちょっと来なさい」
化学教師の先生に呼ばれて、俺は教卓に向かう。実験用の器具を持ってきた同じグループのメンバーとすれ違って先生の下に。
「みんな、ちょっと待っててください」
俺のせいで。
俺が原因で。
授業が止まるのだと。
俺が悪いのだと。それはもう埋め込まれている。
廊下に連れ出されて、壁際に立たされる。先生の顔は歪んでいる。
「どうして────」
そこからは俺の行動に対する苦言が続く。冷静になるまで廊下で待って、頭が冷えたら戻って来なさいと、彼女は言う。
「…………」
俺は先生が教室に入って直ぐに、時間を空けず扉を開く。先生の呆れた様な顔が目に入って「まだでしょ」と言われている様な気がして、仕方なく廊下に戻った。
「……はあ」
俺は冷静だと思ってる。
まだ、感情的になり過ぎていない範囲だ。だから、問題ないのだと思った。
扉が開く音がした。
「大丈夫?」
篠森が現れる。
「何してんだ」
授業中だ。
なんだって篠森は廊下に出たのか。
「ちょっとね……」
先生にはちゃんと理由を言ったんだろう。それが本当の事なのかは知らないが。
「倉世、落ち着いたって」
「……そうか」
原因の俺が居なくなれば確かに問題なかった様だ。そもそも、俺が話しかけなければこんな事にはならなかったのだろう。
「俺、だったか」
結局は、そうなのか。
「甲斐谷」
名前を呼び、篠森は俺の頬を抓る。
「暗い顔してるよ」
俺の頬を上に持ち上げて、篠森は小さく噴き出した。
「ぷっ……」
篠森が笑うのを見て、心が晴れる様な気がした。




