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第44話 何をすべきか

 週明け、約束通りに俺は篠森とバーガーショップに来ていた。テーブルにはお互いの頼んだメニューが乗っている。ハンバーガーとドリンクだけ。

 篠森はコーラをストローで啜る。

 

「……来週からプール授業だってね」

 

 ストローから口を離して篠森が言う。

 

「そう言ってたな」

 

 それは今日の授業で行われた報告だった。来週からは水泳の授業だから、水着の用意を忘れずにする様にと。

 正直、少し憂鬱さを感じてる。

 俺はハンバーガーの包み紙を開けて、口に運ぶ。

 

「嬉しくないの?」

 

 俺の表情で直ぐに分かるのか。

 篠森が俺の方を見ながら尋ねてくる。

 

「嬉しいか?」

 

 俺はそうでもないが、篠森はどうか。

 

「ほら、女子とか……倉世の水着見れるじゃん」

「あのなぁ……」

 

 そういうのは一年生の頃に通った道で、最早目新しさはない。というか、毎年その手の事でドギマギしているというのは流石に慣れが無すぎる。

 

「じゃあ、アレ……?」

 

 篠森が紙を開いてハンバーガーを取り出し、右手に持つ。

 

「泳げない、とか?」

 

 篠森が小さく首を傾げた。

 俺は篠森の言葉に首を横に振って、答えを返す。

 

「違うって。普通に泳げるからな」

 

 もしこれで泳げないと言えば、篠森が泳ぎ方を教えるとでもなったのだろうか。

 

「じゃあ、何で?」

 

 流石にそんな事まで頼っては篠森におんぶに抱っこだ。不甲斐なさの極みだ。

 今でさえ、頼り切ってしまっていると言うのに。

 

「……別に大した理由じゃないけどな」

 

 篠森がハンバーガーにかぶりつく。俺もまた一口と食べ進める。

 

「どんな理由?」

 

 結局気になるのか。

 とは言っても、俺としても別に語るのが恥ずかしいとかそう言う話でもない。

 

「……身体、冷えるんだよ」

 

 プール授業は授業であるために自由に動き回れる訳でもなく、当然待たされる事もある。その間に身体が冷えてしまうのだ。それが俺は嫌だ。

 

「ああ……成る程」

 

 篠森も納得できるらしい。

 

「それはどうしようもないね」

 

 篠森が笑いながらコーラを飲む。

 

「だからって言って、休むわけにもいかないしな」

「そうだね」

 

 欠席しては成績に響く。流石にそれは避けたい。俺は確かに謹慎処分を受けたが、授業はサボった事は無い。

 

「篠森は水泳、好きなのか」

「え……と」

 

 俺が聞くと、篠森は「普通、かな」と答えて、続ける。

 

「特別好きって訳でもないけど、苦手ってほどでもないから」


 確かに。

 と、納得した。


「皆んな、そんなもんか」

 

 それから学校での話を暫く。今日の課題の話。授業についての話だとかをしていて。

 俺はふと抱いていた疑問を口にした。

 

「──倉世とは最近どうだ?」

 

 先週は仲良さげで、今日もそう見えた。

 

「悪くはない、かな」

 

 少なくとも喧嘩をしているなんて事はないようだ。


「ちょっとずつ、前に近づいてってる感じ」


 確かに篠森は前進しているらしい。

 

「そうか」


 篠森が残念そうな表情をする。


「……でも、三谷さんの事は何も聞けてない」

 

 友達と言っても話せない事があるのか。それとも、倉世はまだ篠森に距離を感じているのか。

 

「甲斐谷の方は……」

 

 どうなのか、と聞こうとしたのだと思った。ただ篠森が続けた言葉は違った。

 

「無理しないでよ」

 

 俺の事を案じる物だ。

 

「…………」

 

 俺は現状に手詰まりを感じてしまっている。何をすれば良いのかも分からない。暗中模索という奴だ。だが、何もしないのも違うと踠いてる。

 

「そうだな」

 

 篠森の言葉に俺は無理をしないとは言い切れなかった。だから濁す様に答えて、ストローを口に咥える。

 

「…………」

 

 もっと考えなければならない。

 三谷光正を潰すにはどうするか。

 俺は三谷光正を問い詰めたい。だから、一対一が望ましい。それをどうやって作るか。

 

「……どうすれば」

 

 今はまだ考えつきそうにない。

 方法や手段が思い浮かばない。

 時間は有限で、チャンスを逃すわけにはいかない。どうするべきか、俺は考えなければならない。

 

「どんな手を使ってでも……」

 

 三谷光正を。

 

「甲斐谷……」

 

 不安そうに呼ぶ声に俺は顔を上げて、篠森の顔を見る。

 

「あ、ああ……悪い」

 

 考え込みすぎていたのか。それとも、ただ三谷光正に対する感情を途切れさせぬ様に再確認していただけか。この辺りは曖昧だ。

 自分では当て嵌められない。


「あの、さ」


 篠森が小さい声で言う。


「……私も、手伝うから」


 金谷先輩も出来る限りの事はしてくれると言っていた。篠森だって何度も頼って良いのだと言ってくれている。


「悪いな」


 これだけ駄目な所ばかりを見せていると言うのに、篠森は俺の隣に居てくれている。


「まだ、頼らせてくれ」


 いつの間にか、俺たちのハンバーガーを食べ進める手は止まってしまっていた。


「篠森」


 これが、どれ程掛かるかは分からない。


「……うん」


 それを篠森も分かっている筈だろう。


「よし、ハンバーガー食べて早く帰るぞ」


 ようやく、俺達はまたハンバーガーに口をつける。俺が先に食べ終えて、篠森の完食を待つ。


「ごちそうさま……」


 数分程して篠森が食べ終わり、立ち上がった。それを見て、俺も腰を上げる。

 ポテトがなかった分、まだ余裕は感じられる。夕飯を食べるに支障はなさそうだ。


「…………」


 店を出て、空を見上げる。

 空はまだ青い。もう、夏なのだと今更に実感する。

 



 


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