第43話 日常に浸る
一人で帰ると言うのはここ最近であまりなかった様な気がする。大体が篠森が居たもので、そんな日常に慣れていた。
元々から倉世と一緒に帰っていたのだから、一人でというのは少なかったか。
「…………」
それに何より、今日は目的がない。
今までだって一人で帰るには理由があった。そうしたいから、だとか、倉世の誕生日プレゼントを買うからだとか。
今更、三谷光正は追いかけられない。既に篠森は帰ってしまっただろう。
「はあ」
寂しい。
と言うのもあるのかもしれない。金谷先輩と遊んだ後だが、今日は篠森とあまり話せてなかった。教室では話せなかったから。自分で言っておきながら、求めてしまうとは。
どの道、来週にも会えるのだから気にしすぎだ。
図書館前まで来て、俺は立ち止まる。
「…………」
来週だ。
今日は金曜日で、来週になれば。それまでの二日間を考えると少し待ち遠しい様な気もしてくる。
「──甲斐谷」
などと考えていると、呼びかける声が聞こえた。声を掛けてきたのが誰なのか、振り返るまでもなく分かった。俺は少し頰が緩むのを感じながら、振り返る。
「……何してんだ、篠森」
倉世と一緒に帰ったと思っていた。だと言うのに、何故こんな所に居るのか。篠森は制服を着ていて、リュックを背負っている。家にはまだ帰っていないのだろう。
「いや……別に、偶然」
篠森の癖なのだろう。首裏に手を当てながら言う。
「ほら、帰ろ」
俺は息を吐いてから「おう」と答える。篠森と一緒に帰ると言う日常が、途方もなくありがたい物の様な気がしてならない。
「テスト、今日で全部返ってきたじゃん」
歩きながら篠森が尋ねる。
向かう先は篠森の家の前まで。
「どうだった?」
「悪くなかった。理数系がいつもより点取れてたな」
篠森が「そっか、良かった」と呟く。
「本当、篠森先生様々だな」
俺の言葉に篠森が笑う。
「じゃあ期末の時も、やる?」
夏休み前、期末テストがある。学園祭の準備も近づきつつあるが、その前にまたテストがあるのだと思い出す。
「いいのか? テストの点数下がったりとか……」
俺に教えていたせいでテストで本来の成績を維持できていなかったなら、それは問題だ。俺の勉強に付き合わせる事になってはならない。
そんな俺の心配に対して、彼女は首を横に振り、否定を示す。
「してないから。寧ろ点数は上がったから」
テストの点数を思い返してみたのか、篠森はそう言った。
「私は全然良いけど」
篠森にとってもプラスになっている、かもしれない。
「なら、頼んでも良いか?」
篠森が困らないのなら、などと思ったが、こうして誘ってくれたのだから困る困らないという話でもないだろう。
「……うん」
俺の頼みに篠森は少しだけ嬉しそうな顔をして頷く。
「そう言えば、さ」
篠森が話を変える様に切り出す。
「こんな時間まで何してたの?」
俺の帰りが少し遅くなったのが疑問だったのだろうか。
「ああ。金谷先輩に呼び出されて」
カードゲームをしていたのだと、伝えると篠森は疑問を覚えたのか。
「どこで?」
と、聞いてくる。
「生徒会室」
「え、生徒会室……? 大丈夫なの?」
大丈夫なのかと聞かれても。
「分からん」
俺はあの人に付き合わされただけ。
そもそも生徒会室以外でも、学校内でのカードゲームは許可されているように思えないが。
「てか、そっちだって倉世と帰って今の時間まで何してたんだ?」
俺としても、篠森がまだ帰っていない事への疑問がある。
流石にもう自分の家に着いててもおかしくない時間だ。
「それは……ほら。ハンバーガー屋で限定のメニューが出たから」
篠森は既に後ろになったバーガーショップの看板を指差す。
そういえばそんな時期だったか。
まだ出ていないとこの前に言ってたような気もするが、六月になったから出たのだろうか。
「食べてみたくてさ」
「……成る程な」
それでこんな時間に。
だが、篠森がバーガーショップに入った事で、この偶然が起きたなら感謝するべきだと思う。こうして話せる機会を得られたと言う事を。
「美味かったか?」
「……うん」
「なら、今度食べてみようかな」
俺が言うと、篠森は「来週、食べよ?」と誘ってくる。
「来週、か」
少しだけ考えてみる。
「ダメ……?」
別に予定はない。
それに態々、土日にハンバーガーを食べる為だけに出かけるのも面倒だ。
「分かった、来週な」
なら、こうして学校からの帰り道に寄り道して食べるのが丁度いい。
「おすすめのとかあるか?」
俺が聞くと篠森はスマホを取り出して確認しているのか。
「えーと、三種類あるんだけど……」
今日、篠森が食べたのは何だったんだろうか。そんな事を思いながらメニューを読み上げる彼女の声を聞いていた。
「全部、美味そうだな」
アボカドは食べた事がないが。不味いという事もないだろう。
「そうだね」
篠森がスマホをしまい込む。
「じゃあ、また来週」
もう篠森の家まで着いていたらしい。もう少し話していたかったが、仕方ない。
「ああ、また」
篠森が家に入るのを見送り、俺もまた家に帰る為に足を動かす。




