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第42話 暇じゃないのよ

 テストが終わり、一週間程が経った。

 今日で全てのテストが返却された。七〇点代が殆どで、国語が八二点。理数系の成績がいつもよりも良い。

 

「…………」

 

 赤点はないだろうとは思っていたが、こうしてテストが返却されて安心する。結果がわかると言うのは安心に繋がる。

 

「さて、と」

 

 一つの不安が晴れた所で、結局俺の心にかかった靄が晴れる訳ではない。何をするかも決められていないが、倉世の為に動かなければならない気がする。

 

「…………はあ」

 

 どうしたら良いか。

 それを考えなければ今までと変わらない。変わらなければ、前進はない。意味のある何かをしなければ。

 

「どうにもならない、か」

 

 篠森はまた、倉世と仲良くなってる。テストの点を言い合って、笑ってる。篠森が言った通りだ。結局、元々友達だっただけはあって仲良く出来てる。

 

「ん……?」

 

 スマホがポケットの中で揺れる。

 放課後、教室に残っているのはクラスの三分の一くらいだ。

 俺がスマホを取り出して、確認する直前、倉世と篠森が教室を出て行くのが確認できた。

 二人で帰るのだろうか。三谷光正はどうしたのか、と考えながらも通知の内容を確かめる。

 

「金谷先輩……?」

 

 内容はたった一言、『生徒会室に来て』との事だ。緊急の用事か、三谷光正に関わる事だろうか。

 俺は急いで生徒会室に向かう。

 

「…………」

 

 呼ばれて生徒会室に向かう為、階段を上っていく。


「何だろう……」


 扉に手をかけると鍵が開いてるのが分かった。

 

「失礼します……」

 

 ゆっくりと慎重に生徒会室の扉を開く。

 

「優希くん、元気ー?」


 扉が開く音を聞いて金谷先輩が振り返る。


「……まあ」


 俺は生徒会室全体を見回すが、先輩以外に人は居そうにない。


「あ、ほら座っていいよ」

 

 金谷先輩は真正面に座る様に促して、俺はそれに従う。

 

「あの、会長は……?」

「帰ったんじゃない?」

「は?」

 

 何かがあって生徒会室に呼んだのではないか。では何のつもりで、この人は俺をここに呼んだのか。

 

「いやね、生徒会って言ってもやる事なかったりするのも普通にあるからさ」

 

 金谷先輩が笑いながら、立ち上がり棚のある方へと移動する。

 

「そうなると帰るくらいな訳ね」


 学校に残る理由も特にないのなら、帰ってしまうのは確かに納得できる。


「会長もそうだからさ」

「なら、これって……」


 俺も理解できてしまった。


「ほら、ちょっと遊んでこうよ」

 

 また付き合わされるのだと。

 先輩はそう言って棚から箱を持ってきて机の上に置く。

 

「いつもの〜……? 例の奴って感じ?」

 

 箱の中からカードが現れる。トランプなどではない。モンスターが描かれたアニメ化もされている有名なカードゲーム。

 

「ほら、やろうよ。前まではさ、智世ちゃんが偶に相手してくれたんだけどね」

 

 用意されたデッキは二つ。

 

「……今は?」

 

 俺はデッキを片方掴む。

 

「会長とばっかりでさ、わたしとは遊んでくれないんだよね。あ、ルール分かる?」

 

 断れないから、仕方ない。


「はい、やってた事はあるので」


 お互いにカードを切る。

 

「じゃあ、優希くん」

 

 俺はふと顔を上げる。

 

「勝負!」

 

 先輩がノリノリで開始を宣言する。

 

「────また、負けたぁああああ〜〜っっ!!!!」

 

 金谷先輩は右手に持っていたカードを机に投げ出し、突っ伏す。

 

「…………」

 

 俺は先輩の分のカードも回収して箱の中に戻していく。

 

「くっそ〜……そもそも頭脳戦とかタイプじゃないんだってぇ……」


 何だその言い訳は。

 俺は机に頬をくっつける先輩の姿を見つめる。


「大丈夫ですか?」

 

 俺の声に金谷先輩は悔しそうな顔を隠さずに見せてくる。

 

「カードゲームはもう良いや」


 そう言って自分の体になっていたカードを集めて、箱の中に入れる。


「良いんですね」


 俺の確認に、先輩は投げやりな感じに答える。


「ええ。優希くんが容赦ないってのが分かりましたから。わたし、分かっちゃったんで」

「金谷先輩って……倉世には勝ててたんですか?」

 

 俺の疑問に対して先輩は明後日の方向を見つめた。その視線の先には何もない。

 

「…………ねえ、優希くん」

 

 スルーしたな、などと思っていると、先輩は俺の名前を呼び、真剣な顔をして向き直る。

 

「智世ちゃんの事、どう?」

「それは……」

 

 先輩が立ち上がり、元あった場所に箱を片付けながら尋ねてくる。

 

「その感じだと上手くいってないよね」

 

 また、席に戻ってきて腰を下ろす。

 

「わたしもさ」

 

 金谷先輩は机に両肘をつき、顔の前で両手の指を絡めながら話し始める。

 

「出来る限りの事はするよ? でも、これから忙しくなるからさ」


 忙しく。

 三年生の彼女が忙しくなる理由なんて物は一つしか思い当たらない。


「……受験ですか?」

「…………」

 

 顔を逸らした。

 本当に考えたくないのだろう。

 

「……いや、別にそれもない訳じゃないけどね? ほら学園祭だよ、学園祭」

「でも、夏休み挟んでですよね?」

「そうだけど、生徒会って学園祭は色々動かないとならないから」

 

 金谷先輩が苦笑いを浮かべた。

 

「学園祭、か……」

 

 もう直ぐ、準備に奔走する日々もやってくるのかもしれない。それまでに出来ることはないだろうか。その日に出来る事は。

 

「優希くん、今日もありがとね」

 

 金谷先輩は俺と一緒に生徒会室を出て、鍵を返しに行くと職員室に行ってしまう。もう帰っても良いらしい。俺は一人、玄関に向かった。

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