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第39話 水族館は飽きさせない

 昼食を終えて、水族館に。

 水槽の中には種々様々な魚が居て、小さな水槽の中には海老や熱帯魚。大きな水槽にはアジや岩みたいな魚がいる。

 暗がりを淡い光が照らし出す。俺は周囲を見回して、少し息を吐く。

 

「…………」

 

 篠森は普通に水族館を楽しんでいる様で何よりだと思う。

 ただ、俺としては水族館に来たのは久しぶりで子供の時は純粋に水族館と言う物を楽しめていたのに、今は客層も少しだけ気になってしまう。

 

「甲斐谷、次行こ」

「おう」

 

 篠森が一通り、この辺りを見終わったのか俺の所に来て言う。

 

「カップル、多いな」

 

 家族連れがもっと多く居ると思ってた。と言うのも、俺たちがすれ違う半分以上は男女の組み合わせで恋人同士の様に見えたから。

 

「……うん」

 

 視界には手を繋いだり、腕を組んだりと親しげに話し合う姿が映る。

 

「分からない事もない、か」

 

 俺は余り詳しくなかったが、水族館といえばデートとして定番なのかもしれない。幻想的だとか、綺麗だからとか。そんな雰囲気もあるから。


「ねえ、甲斐谷」


 歩きながら篠森が呼びかけてくる。

 エリアを繋ぐ通路を抜けた先にクラゲの入った水槽が見えた。

 

「楽しめてる?」


 篠森にそんな疑問を覚えさせたのは、さっきの俺の発言が原因なんだろうか。


「ああ、うん」

 

 篠森が楽しそうにしてるから。別に俺だって水族館を楽しんでない訳じゃない。ただ、視界の端に映る彼等の姿にも気を取られると言うだけ。


「ちゃんと楽しんでるよ」


 エリアが薄暗くなり、クラゲが発光する。

 

「──綺麗だな」

 

 部屋にはクラゲの発光と、淡い照明が浮かぶ。プラネタリウムの様な、と表現するのが近いのだろうか。プラネタリウムも本格的な物を見たことは無いから、自信がない。

 

「そうだね」

 

 篠森の顔はよく見えなかった。

 薄暗い中で、どんな顔をしているか。ただ声の感じから、そう悪い物ではないのだと思った。だから、俺はクラゲに目を戻した。

 

「篠森、イルカショーって何時からだっけ?」


 ポケットからスマホを取り出す。


「えっと……一三時から、だから……」

 

 今は一二時を回り、もう直ぐイルカショーが始まる時間だ。

 

「そろそろ行かないとな」

 

 エリアの照明が戻る。

 イルカショーが行われるエリアに向かって歩き出した。

 

「どの辺りに座る?」

 

 イルカショーは前の席と後ろの席があり、当然前の方に行けば水が掛かる事になるのは目に見えてる。

 

「後ろの方?」

「前じゃなくていいのか?」

「全体が見えた方が良くない?」

「じゃ、この辺りとかか」

 

 後ろから三列目。

 プールからは離れているが、離れすぎず全体も見れる様な席だ。

 

「うん……甲斐谷は前の方が良かった?」

「いや、ここが良いんだよ」

 

 俺は篠森を先に座らせて、その左隣に腰を下ろす。

 

「俺、こう言うの久しぶりだから」


 これからショーが行われるだろうプールを眺める。


「どの席が良いとかよく分からないんだよ」


 そう言うと、篠森は少しだけ困った様な顔をした。


「私もだよ」

「……そういえばそうだったな」

 

 篠森が久しぶりに行ってみたいって言ってたのを思い出す。

 

「まあ……篠森の言う通り、前過ぎてもよく分からないかもしれないしな」

 

 俺が言えば、篠森は「うん」と頷いて笑う。

 

『イルカショー、もう直ぐ開演です!』

 

 穏やかな音楽が流れて、主役であるイルカがプールの中に入ってくる。

 

「皆さーん! イルカショーでは────」

 

 ダイビングスーツの様な物を着た女性が数人プールの側に立ち、中央ステージに出てきた女性がイルカショーの説明を終えると、遂に開演らしくイルカが高く跳ぶ。

 

「おお」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 周囲は一斉に拍手を打ち鳴らす。

 

「ありがとうございまーす!」

 

 芸が続く。

 女性たちも交えてのイルカショーに観客たちが沸き立つ。

 

「凄……」

 

 ここまでの物だとは思わなかった。イルカショーを舐めていたのかもしれない。なんとなく、子供が見る物だと思っていたのかもしれない。

 

「…………」

 

 俺はチラリと篠森を見る。

 食い入る様に、楽しそうに。子供の様に。キラキラとした目でイルカを見ている。俺も直ぐにイルカの方に顔を向けた。

 瞬間、飛び上がったイルカが大きな水飛沫を観客達に向けて飛ばしてきた。

 俺たちの足元まで飛んでくる。

 

「うおっ……! は、ははっ」

 

 ここまで飛んでくるとは。

 俺たちが座っている辺りはずぶ濡れにならなかったが、ここより前の席の方は土砂降りにあったような物だろう。

 それでも楽しそうだ。

 

「本日はありがとうございました!」

 

 イルカショーは終わり、アナウンスによって詰まることのない様に観客達が退場する。俺と篠森も次のエリアに向かう。


「どうだった、甲斐谷?」

「いや、凄かった。凄いワクワクした。また観たいって思うくらい良かった」


 俺は子供みたいな感想を口にして、篠森が共感を示す様に頷いた。


「あ」


 俺たちが進んだ先には、イルカショーの前に見た水槽よりも大きな物が幾つもある。その中にはペンギンも居た。

 

「かわいい」

「ペンギン、好きなのか?」

 

 立ち止まりペンギンを見つめる篠森の横に立って話しかける。トテトテと歩くペンギンの姿には見入る物がある。

 

「……結構好きかも」

 

 確かに可愛い。

 頑張って歩いてる様な姿が健気に見える。それが良いんだろう。いや、別にどうして可愛いんだとかなんてのは考えなくて良いのかもしれないが。

 

「あ、転んだ」

 

 篠森が驚いた様に言って、クスクスと笑う。

 

「……ふふ。あ、次行く?」


 篠森は俺の方へと振り向き、見上げてくる。


「ん、いいのか?」


 まだ、ペンギンを見てても良いのに。


「うん。ほら、そこトンネルだって」

 

 少し行った先には大きなトンネルがあるらしい。

 

「……最近の水族館って、凄いな」

 

 俺は思わず、そう呟いた。

 前の水族館を余り覚えてないが、何となく。


「だよね。私もそう思う」


 篠森と共に水槽のトンネルの中に足を踏み入れる。まるで海の中に入ったかの様な光景。頭上を巨大な魚が通り抜けて行った。

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