第38話 Lunchtime
「ぶはっ……!」
目的の駅に着き、押し出される様にして俺たちは電車から外に出る。
「やっと、着いたか」
先に出た篠森を見る。
「はぁ……はぁっ……っ、ふぅ」
篠森も相当に疲れたらしく、顔が赤い。しかし、ここでゆっくりしよう……とは言えない。駅のホームだ、人が多い。立ち止まっては迷惑になるだろう。ここで一息吐いてる間はない。
「……っし、行こうぜ、篠森」
駅を出ないことにはスマホの地図アプリも碌に機能しない。まずは出口を目指すべきか。俺は上り階段を見つけて歩き始める。後ろにしっかりと篠森が付いてきているのを確認しながら。
「篠森」
階段を上り終えた所で名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
声にチラリと振り返るとしっかりと篠森は俺の後ろに立っていた。
「……いや、ちゃんといるか気になった」
心配は必要なかったらしい。ホームから出ると篠森は俺の隣に来る。
「迷子、ならないから」
呆れた様な声だ。
はぐれてしまったとしてもスマホで連絡を取れるのだから、問題はないだろうか。
「私だってもう高二だし」
ほとんど大人の様なものだ、と言いたいのだろう。十代後半にもなれば流石に、か。
「……甲斐谷の方こそ大丈夫なの?」
「大丈夫、だと思いたいな」
スマホさえあれば、何とかなるだろう。
自信を持って、絶対に大丈夫である等とは言えないが。
「ま……ほらラーメン屋行こうか」
改札を抜ける。
スマホで目的地にラーメン屋を設定して、階段を降り駅の外に出る。空は少し重たげな灰色をしている。
「……」
駅の中も人が多かったが、外も中々に混雑している。
「篠森」
俺は隣を振り向く。
「何?」
度々の確認。
篠森はコテンと小首を傾げた。彼女はちゃんと隣にいる。
「あ、悪い悪い」
別に頻繁に居なくなると言う訳でもないのに、不安になってる。何となく、そんな俺の気持ちを察したのか。
「手、繋ごっか……?」
篠森がいつもの様に首裏に手を当てながら俺に提案してくる。
「大丈夫だって」
俺は笑って答える。
流石にそこまでしてもらう程、俺だって子供のつもりもない。
「そ」
篠森は伸ばした右手をゆっくりと引っ込めた。
「ほら、駅から離れて人混みも無くなってきたしな」
心配する必要はなくなった筈だ。ラーメン屋ももうそろそろだ。それから数分歩いてラーメン屋を見つける。列が外にまで続いてる。
「……あー、どうする?」
俺は隣の篠森にラーメン屋に並ぶ行列を指差しながら確認する。
「どうするって……?」
「いや、結構待ちそうだからさ」
並んでるよりも、別の店に入ってしまった方が何倍も早そうだ。そうした方がより長く水族館に居られるだろうし。
「別の店に行かないか?」
並びたいという気持ちは余りない。
「でも……良いの?」
来たかった店ではないのか、と言う事だろうか。
「今日は、ほら。水族館に行くのが一番だろ?」
だから、別に無理をしてでもこのラーメン屋でなければならない理由はない。
「篠森は何か食べたい物あるか?」
別の店、などと言っておきながら俺は特に代替案があった訳でもない。
「……あ、あそことかどう?」
篠森の視線の先を追いかける。
ラーメン屋近くの比較的、入りやすそうな定食屋。店の外に人の列は見えない。見た感じでは長い間待たされる事もなさそうだ。
「悪いな、楽しみにしてたのに」
ラーメン屋の予定は変わって、定食屋に。篠森もラーメン屋に入るつもりで来ていただろうに。
「大丈夫だってば」
俺を見て篠森が笑った。
「ほら、行こ」
先に進み始めた篠森の背を追いかける。
店の扉を開いて中に入ると、好きな席に座る様に言われ、俺は篠森と向き合う様にテーブルを挟んで座る。
「メニューは……」
テーブルにメニュー表はなく、カウンターの上部に細長い紙が貼られてる。それがメニューだろう。
「甲斐谷、決まった?」
「……いや、どれにしようかと」
豚キムチ、唐揚げ、青椒肉絲。ハンバーグに、モツ煮。色々とある。ジャンルは特に関係なさそうだ。
「篠森は決まったのか?」
「私、唐揚げ定食」
俺は。
「青椒肉絲にするか」
店員を呼んで注文すると、確認して直ぐカウンターの奥に戻って行った。
「……篠森」
「うん?」
「楽しみだな」
水族館の事。
「うん。息抜き、できそう?」
それは当然だ。こうして篠森と遊びに来れている。なら、この時点で既に充分息抜きとして機能している。
「ああ」
「……良かった」
「なあ……篠森は、楽しめそうか?」
俺の事ばかり気にかけても仕方ないだろう。
「うん。だって……今日は絶対楽しいから」
俺は思わず笑ってしまう。
篠森も笑う。
それは俺が言ったんだった。今日は楽しい筈だと。友達同士なら、絶対に。篠森だってそう思ってくれてるのだ。
「良かったよ」
篠森と今日、こうしてここに来れて。友達になれて。
「お待たせしました」
テーブルに篠森のメニューが先に来る。
「じゃあ、お先」
いただきます、と丁寧に手を合わせて挨拶してから、篠森は始めに味噌汁を啜る。俺も空腹をより強く感じ始める。
「美味いか?」
「うん、美味しい……」
篠森の箸が唐揚げを持ち上げた。




