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第37話 電車の中で

 

 待ち合わせ二〇分前に駅に着く。


「もう着いたか……」


 前回、篠森を待たせる結果になってしまったから……と言うのも、言えない事はないが。結局、普段行き慣れていない駅に思った以上に早く着いたと言うのが実際だ。

 目標としては一〇分前だったのだが。

 

「あ、甲斐谷」

 

 駅前で待ち合わせ。

 既に篠森は来ていたらしく俺を見つけて駆け寄ってくる。

 

「篠森、もう来てたのか」


 まだ二〇分前だと言うのに。


「甲斐谷も早いね」

 

 篠森は笑いながら言う。

 

「……もう行くか?」

 

 お互いに待つ理由は無いわけで、電車さえあれば行ける。だったらもう行ってしまった方がより楽しめるだろう。

 

「そうだね。じゃあ次の電車で行こ」

 

 そう言って篠森が先導して駅の中に入り、改札のある階に向かうために階段を上っていく。

 白い長袖、黒スカート。

 学校がある時以外に篠森の私服を何度か見たがスカートは初めてだ。制服よりも丈が若干短い。

 

「……ふむ」

 

 私服を何度か見た、と言っても数回か。その数回で服装が全部違う。俺ももう少し服装に気を配った方がいいのかもしれない。ジャージだとか、パーカーばかりだから。夏になればそれがTシャツになるくらいだ。

 今日はグレーのパーカー。

 中に黒のTシャツ。

 

「どうしたの、甲斐谷?」

 

 階段を上り切った所で篠森が振り返る。

 

「俺も服装とか気にした方が良いかと思って」

「……そう?」

「そう」

 

 篠森が首を傾げた。

 別におかしくはないんだろう。ただ、お洒落だとも言えない様な物だと思うが。

 

「お前、いつも違う服だからさ。ちょっと気にしたんだよ」

 

 お洒落をしている、とか。

 そういう人が近くに居ると、身なりに無頓着な自分が少しだけ恥ずかしく感じる。

 

「甲斐谷だって、別の服でしょ?」


 毎日同じ服ではないと言う意味合いでだろう。


「いや、そう言う事じゃなくてな?」

 

 確かに別の服ではあるが、似たような系統ばかりだ。

 

「なら、今日買いに行く?」


 確かに折角出かけるのだから、と思わないことも無い。


「…………」

 

 ただ、どうしたものか。

 服を買おうにも今の持ち合わせ的には足りない。水族館の入館料にラーメン屋、電車代。他に何かしらで使うと考えた場合、服を買うだけの金は充分ではない。

 

「ああ……悪い、それはまた今度にしてくれ」

「今度ね、今度」

 

 篠森がそう言う。


「今度、頼む」


 俺が言えば、篠森は楽しそうに笑って、俺もつられて笑う。遊ぶ約束が出来たと。それは嬉しい事だ。などと思いながら。

 

「あ、チャージしないとな」

「あ、私も」

 

 電子マネーをカードにチャージし、改札を抜ける。篠森がスマホを見て「二分後に出るのに乗るんだって」とホームに繋がる階段を降りながら言う。

 

「結構、混んでるな」


 家族連れの人や友達同士、或いは恋人か。人が溢れてる。


「休みだから」


 出勤日でなくとも土曜日が休日だと言う人は多く、こうして休日に出掛けようと考える人は少なくないんだろう。


「そりゃそうか」

 

 俺が周囲を見回していると、電車が間も無く到着すると言う案内が流れる。

 

『黄色い線の内側までお下がりください』

 

 電車の到着間際、アナウンスがホームに響く。

 

「……これで合ってるか?」

「うん」

 

 俺と篠森が電車内に乗り込み、一分ほどで扉が閉まる。席は埋まっていて座る事はできない。俺は吊革を掴み、篠森は壁に寄りかかる。

 

「座れなかったな」

「……うん」

 

 ギチギチと言うほどでもないが、中々に混んでいる。動き出した電車の中で篠森が尋ねてくる。

 

「水族館より先にお昼にする?」


 予定の確認だ。

 どこに行くかを大雑把に決めたものの、別に時間を事細かに指定した訳ではない。


「まあ、その方が水族館楽しめるだろ」

 

 腹が空いた状態で水族館に入って、満足に楽しめずにさっさと出ようとなるのは流石に嫌だろう。

 

「そうだね」

 

 篠森が失笑する。

 

「おっと……っと」

 

 電車が揺れて、俺は蹌踉めいて右足を踏み出して篠森と距離が近づく。

 

「悪い悪い……バランス崩した」

 

 俺は直ぐに距離を取る。

 

「大、丈夫……うん」

 

 篠森はスマホを右手に取り出し、画面を見る。空いた左手は首裏を撫でていた。

 

「…………」

 

 何を見ているのだろうかと気になりながらも、俺は特に何かを言うことも無く電車の扉の外を眺める。

 

「っと」

 

 また電車が揺れた。

 今度は止まったみたいだ。篠森の近くとは反対側の扉が開く。降りていく人よりも、乗ってくる人の方が多い。俺と篠森は身体の向きを変えた。

 

「悪い……ちょっと狭いな」

 

 篠森と身体が触れる。

 正直、知らない女の人じゃなくて良かったと思う。相手が篠森なら痴漢だとか騒がれる心配はない。

 

「大丈夫か?」


 とは言え、これだけ窮屈であると篠森が心配になってくる。


「……大丈夫だから」

 

 お互い横向きになって、篠森と肩が触れ合ってる。篠森の顔は窓の外を見ていた。


「これ、全然座れそうにないな」


 駅に停まる度に乗客は増えていくだろう事が予想できる。水族館に着くまでこの立ちっぱなしの状態が続きそうだ。


「……ぅん」


 俺は顔を外に向けたままの篠森を見つめる。


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