表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/192

第36話 Spoiled

 

「あー、えと……わたし、こっちだから」


 金谷先輩は違う方向を指差した。


「そうですか」


 別に何だって良いが、金谷先輩は「ごめんね、優希くん。あとは篠森さんとお二人で」と言って駆け足で離れていく。

 途中で振り返って。


「また来週ね、優希くーん、篠森さーん……!」


 金谷先輩は少し大きな声で言う。


「また来週、金谷先輩」

 

 俺は小さく手を振り、篠森は会釈をすると金谷先輩は満足そうにして帰っていった。


「なあ、篠森」


 篠森も何処かで分かれると思っていたが付いてくる。

 

「……家まで来るか?」

 

 俺が聞けば篠森が頷く。

 

「明日の事、確認しよ」

 

 別に電話でも、なんてのは言わなくて良いだろう。俺は黙って前を見る。倉世と三谷光正の姿は見失っていない。

 

「あのさ────」

「うん」

 

 話しかけられて、俺が篠森の方に顔を向ける。何かを言おうとしていたのに、篠森は躊躇う顔を見せてフイと目を伏せた。

 

「やっぱ、何でもない」

 

 どうして、止めたのか。気になっても、俺は聞かなかった。聞けなかった。問い質したいと思えなかった。

 

「……そうか」

 

 ただ、そう呟いて俺と篠森は歩く。

 

「あ」

 

 そんな素っ頓狂な声が漏れた。

 三谷光正と倉世が家に入っていくのが見えたから。生徒会室を使えなくなって、今度は倉世の家に上がり込むのか。

 ただ、余計に俺は入り込めなくなった。今、あの家には倉世と三谷光正が居る。その二人だけだ。

 

「甲斐谷……」

 

 右手が握られる。

 

「篠森」

 

 結局だ、結局。

 篠森に不安を覚えさせたんだろう。この光景がストレスになるんだと思わせたんだろう。


「ああ」


 だから、それがどうしても不甲斐ない様に思えた。ただ、篠森はこんな俺を心配してくれるのだと思うと嬉しさも感じてしまう。

 何ともみっともない。

 

「悪い」

 

 みっともないが、甘えている。

 

「大丈夫だから」

 

 篠森の優しさに今日も甘えてる。

 

「そっか……」

 

 俺の言葉に篠森は直ぐに手を離した。さっきまでの感覚に心惜しく思いながらも、言い出す事はない。

 深呼吸をして確認を一つ。

 

「息抜きだろ、明日は」

 

 三谷光正の事なんか忘れて明日の予定でも立てればいいんだ。

 

「……うん」

 

 俺は自宅の扉を開き、篠森を部屋に上げ、いつも通りにベッドに座らせて、俺は床に腰を下ろす。

 

「で、明日の事って……水族館行って、飯はどうする?」

「それは考えてなかった」

「ん、そっか。じゃあ、俺が決めて良いか?」

 

 俺も水族館に行くという事で、昼の候補は幾つか調べた。

 

「良いよ」

 

 とは言っても、俺もあんまり水族館周りについて詳しくない。適当に地図アプリを使って周囲のレストランや定食屋なんかを調べてみたのだが、まあ結局。

 

「なら、ラーメン屋とか……どうだ?」

 

 俺がそう聞いたのは女子である篠森がラーメン屋に抵抗があるかもしれないと思ったからだ。

 

「……ラーメン屋」

 

 篠森がポツリと呟き、小さく笑う。

 

「うん、わかった」

 

 問題ないようで良かった。

 

「ま、予定は決まったし……後はどうする?」

 

 もう帰れ、と言うのは違う。

 結局、明日を一緒に過ごすとしてもそれはそれ。今日は今日だ。友達とは少しでも長く居たいんだ。それで一日を費やす事になったとしても。

 と言っても、篠森をこの場に繋ぎ止める理由が出てこない。


「じゃあ、ゲームとか?」

 

 篠森の目が部屋の中のゲーム機に向いた。確かにこの家には倉世が遊びに来た時用に二人で遊べるゲームもある。


「そうだな」


 俺は立ち上がる。

 

「ゲームやるか」

 

 ゲームを起動させる。

 コントローラーを篠森に一つ渡して、起動するのを待つ。

 

「篠森は普段ゲームとかやるか?」


 俺の質問に篠森はフルフルと首を横に振った。


「あんまり」

「倉世とは?」

 

 アイツもゲームが好きだったんだ。友達なら誘われることもあったんじゃないだろうか。

 

「倉世ともやらないかな。倉世からはゲームやろうっては言わないし」

 

 まあ、そんなもんか。

 相手となれば俺が居たから、興味もないのに付き合わせては悪いと遠慮していたのかもしれない。俺だってこうして篠森に言われなければゲームをしようとは思わなかったから。

 妙に倉世の行動が納得できた。

 

「甲斐谷は、倉世とよくゲームしてたの?」

「そう、だな。まあ、良くやってたって言うんだろうな」

 

 二人の共通の趣味だったから。

 誘えば基本は断らないし、誘われたら俺も断らなかったから、自然とゲームをやっている時間も増えていた。高校生になってからは僅かに頻度が落ちた様な気はするが。

 

「私も、ゲームやろっかな……」

 

 コントローラーを握りながらそう言った篠森に俺は笑った。

 

「なら、ゲームしに来るか?」

 

 時間さえあれば別に良いし、篠森がそれで良いなら。ゲーム機がないなら買い揃えるのも大変だろうし。

 

「良いんだ?」

「おう。夏休みなら空けとくから」


 とは言っても結局の所、ほとんど予定はないし、倉世や三谷光正の事を探る日々になりそうな物だ。


「なら遊びに来ようかな。甲斐谷も寂しいだろうし」

 

 篠森が揶揄う様に笑いながら言う。

 

「ありがとな」

 

 ゲームのホーム画面が表示される。

 

「じゃ、よろしくな」

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ