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第34話 付き合い

 

 

 午後二時過ぎ。

 シックな机と椅子に、室内に流れてるのはジャズミュージックだろうか。俺としては慣れない空間で、どうしてこんな所にいるのだろうかと思うが、目の前に座る金谷先輩が理由だ。

 

「ねえ」

 

 テーブルにはコーヒーが置かれてる。先輩の分と、俺の分。俺は喫茶店と言うものをあまり知らないから先輩と同じものを頼んだ。

 

「優希くん」

 

 溜飲を下げるためか先輩は一口コーヒーを口に含んでテーブルに置き直す。

 

「何で帰ったの?」

 

 金谷先輩はむすっとした顔をしてる。

 

「居ても、出来ることはないと思ったので。それに『後はお願いします』って言ったじゃないですか」

 

 俺は金谷先輩とのチャットを見せる。

 

「帰るとは思わなかったよ……」

「すみません」


 俺が謝罪すると金谷先輩は頬を緩めた。


「いやー。こっちもごめんね、優希くんってば家に居たのに」

「…………」

 

 『喫茶店に来て』と有無を言わせぬ様なチャットを送ってきたと言うのに悪びれるとはどう言ったつもりなのか。

 

「まあまあ。分かったよ。君はそうやって帰る人なんだなぁって」

 

 金谷先輩はクスクスと笑う。

 怒っていると言うわけではないのか。ジョークみたいな感覚だ。

 

「バッチリ引き摺るじゃないですか……」

 

 俺を薄情者とでも言いたいのか。

 

「冗談だって」

 

 分かってる。

 俺は自分のコーヒーを飲む。

 笑っていた先輩がまた口を開く。

 

「まあ、それは良いとして。生徒会室でのことだけど」

 

 俺はピクリと反応する。

 

「特に何もなかったよ。わたしが見ている内は、ね」

 

 金谷先輩はそう言ってコーヒーカップを持ち上げて縁に口付けた。

 

「そうですか」

 

 なら俺の思った通りに行った筈だ。閉じられた空間内に他の者が居れば何か出来るわけがない。それは阻止できた様に思う。

 

「それでついさっき二人とも帰っちゃったの」

 

 だから金谷先輩も俺に連絡してきたのだ。そして、この人の息抜きに今日も付き合わされた。

 

「……その、俺の勝手なお願い聞いてくれてありがとうございました」

「良いよ良いよ、全然」

 

 何もなかったから。

 と、金谷先輩は少しだけ申し訳なさそうに付け加える。

 

「優希くんはちょっとガッカリしたかな?」

「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」

 

 寧ろ、それで助かった様にも思える。だから金谷先輩が言うようなガッカリというのはない。

 

「そう? なら良いんだけど」

 

 先輩はコーヒーを啜る。

 

「ほら、優希くん。早く飲み終わりなよ」

 

 先輩はコーヒーを飲み終えたのか、俺にそう言う。俺の方はまだ半分も残ってる。

 

「流石に勉強のことも気になります?」

 

 これだけ急かすとなると、先輩の方も試験とかを意識してるんだろうか。俺が聞けば、先輩は口を一文字に結ぶ。

 

「……どうしたんですか?」

「勉強の話はしたくないなー」

「……じゃあ、何で急かすんですか?」

 

 勉強は違う。

 俺のことを気遣ってる、と言うわけでもない様な気がする。

 

「優希くん。ゲームとかやる?」

「そりゃ、好きですけど」

「じゃ、ゲームしに行こうよ」

 

 結局はこの人が息抜きをしたいだけらしい。

 

「良いんですか? と言うか、大丈夫なんですか?」

 

 明日のテストとか。

 受験対策とか。

 

「……まあ、ちょっとなら大丈夫だって」

 

 金谷先輩は微妙な笑顔を浮かべた。少し、信頼ならない表情をしてる。彼女にはこれからも頼るだろう。

 

「分かりました」

 

 出来る限り、付き合うべきか。

 

「────ああああっ!! 惜しいっ!」

 

 ゲームセンターの一角で金谷先輩の身体が崩れ落ちた。

 

「金谷先輩、惜しくないです。もう辞めましょう。お金を惜しんでください」

 

 クレーンゲーム前で絶叫する金谷先輩を宥める。既に先輩はクレーンゲームに一〇〇〇円以上を注ぎ込み、二〇〇〇円にまで行こうとしている。

 

「他のゲームやりましょ? 格ゲーなら一〇〇円でももっと遊べますし」

「わたしの! わたしの一八〇〇円がぁああ!!」

 

 ここに居させてはならない。

 元を取れないと、とどんどんと金を入れてくモンスターが誕生してしまう。

 

「金谷先輩……! 行きますよ!」

 

 先輩を無理やり引き摺ってクレーンゲームから引き剥がす。

 

「どうして、こうなったんだ……」

 

 俺としてはもう早くここから帰りたい。先輩に付き合って散財する訳にはいかない。週末には篠森と水族館に行くのだから。

 格ゲーで先輩を一通り雑に倒した後、意気消沈状態になった先輩にペットボトルの水を手渡す。

 

「あの……これ、息抜きになってます?」

「……みっともない姿を見せちゃったね」

 

 先輩はどこか諦めに満ちた様な笑みを浮かべる。燃え尽きてる、という風にも見える。

 

「でも、優希くんも居てなかなか楽しいんだよ?」

 

 俺の方を見て楽しそうに言う。

 

「よし、後半戦と────」

「金谷先輩、もう帰りますよ」

「え」

「自分で何円使ったか覚えてますか? 三〇〇〇円です、三〇〇〇円。使い過ぎです」

 

 これ以上、金谷先輩にお金を使わせる訳にもいかないだろう。俺も付き合わされて、いくらか使ってしまったし。

 これ以上の消費は本当に避けたい。

 

「帰りますよ」

 

 俺はまた金谷先輩を無理矢理引き摺り、ゲームセンターの外に向かう。


「もうちょっと。ね、優希くん……もうちょっと……ほら?」


 篠森との約束のお陰で冷静になれてる。本当に篠森には感謝ばかりだ。

 外に出る。


「ねえ、優希くん」

「…………はい?」


 どうしたんだろうか。

 まだ、ゲームセンターに戻りたいとでも言うのか。


「智世ちゃんの事、さ」


 俺は足を止める。


「何か分かるといいね」

「そう、ですね」


 空は赤く染まっていた。

 

 

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