第32話 新たな協力者・金谷瑠璃
生徒会室で何があったかは分からない。窓の外を見て、俺が帰って来てから暫くして倉世が帰ってきたのが分かった。
昼はとっくに過ぎてる。
そこには三谷光正の姿もあった。
俺は階段を駆け降り家の外に出る。
まだそんなに遠くに行ってない。
「どこに行った……!」
倉世が居ない今、三谷光正は一人のはずだ。この辺りは住宅街。道も分かれている。今は昼という事で閑静な空間。
当たりをつけて手当たり次第に道を確かめる。俺は三谷光正の家を知らない。
「クソ……!」
今、三谷光正を見つけ出せたなら二人で話せる。倉世がいる空間では躊躇う様な話を出来る。掴みかかってでも、話させる。
「はあ、はあ……」
走り回って、探し出そうとして篠森と来た図書館の近くまで来てしまう。ここまで探しても見つからないのなら諦めるしかない。
「……居ない」
どこかで見落として、俺は追いつけなくなってる。それが分からない。ルートもわからなければ目的地も分からない。背が見えないのに、追いかけるのは不可能なんだ。
そんなのはわかってる。
それでもまだ遠くに行ってないと思った。これだけ探し回って時間を使えば見える背中はなくなってる。
「…………」
明日もテストだと言うのに。
何をしているのやら。
「……帰るか」
俺は諦めて踵を返し、走って来た道を戻ろうとして人にぶつかってしまう。
「っと……す、すみません」
「痛たた……あ、大丈夫です……」
黒髪。
同じ学校の女子制服。見覚えがある。生徒会室の前で会った人だ。
「って、あ……さっきの」
生徒会。
「……あの」
俺は運を使い果たしてない。
まだ、やれる事がある。チャンスの女神だ。目の前にいる、この人は。
「生徒会の人ですよね」
俺の質問に頷く。
「生徒会長の家って知ってます?」
そこまで行けば完璧に。
「え、個人情報」
と、思ったが不可能だった。
ああ、そうだ。
住所は当然、個人情報だ。それを誰かに教えるなどあり得てはならない。
見境がなくなってる。今に始まった話ではないが。
「……別にわたしも知らないからさ」
彼女が立ち上がってスカートについた土埃を払い落とす。
「どの道教えられないかな。えと、取り敢えず君……名前は?」
「甲斐谷、優希です」
「何年生?」
「……二年です」
「じゃあ年下だ。わたし金谷瑠璃……よろしくね、優希くん」
随分と馴れ馴れしい感じだ。
特に出会って直ぐ、名乗って直ぐに名前を呼ぶと言うあたりが余計にそう思う。
「よろしくお願いします……?」
何がよろしくだか分からない。
この人と深く関わるつもりは俺にはない。三谷光正に近づけないなら尚更に。
「で、何で会長の家知りたかったの?」
「……話したいことがあって」
俺としては話し合いのつもりだ。嘘ではない。そこから多少ズレるかもしれないが、真実だ。
「じゃああの時、生徒会室に入れば良かっ────」
「それじゃダメなんです!」
それでは。
「倉世がいるから、無理なんです……」
俺が声を荒げたのを何とも言えない様な目で見てくる。
「……すみません」
とりあえず、帰ろうか。
何も掴めないのは確定してる。取り敢えずは帰って、明日のテストに備えて。また篠森と話して。
それで少しでも気楽に。
「ちょっと待って」
「……何ですか?」
俺は呼び止められて立ち止まる。
「会長と何があったの?」
「……関係ないです」
「智世ちゃんもさ……何でか会長と付き合い始めてるし」
付き合ってる。
やっぱりだ。そりゃキスをしてたんだ。付き合ってるなんてのは当然の話だ。
他者の情報により確実な物になった。
「そんな素振りなかったのに」
「それが知りたいから……俺は」
三谷光正を探してる。
アイツと話す機会を求めてる。
「優希くん。君が智世ちゃんの幼馴染で合ってる?」
「……はい」
記憶がない倉世を幼馴染と言えるのか。けど、確かに俺は覚えている。だから、この関係は間違いない。
「──ねえ、協力してあげよっか?」
彼女は俺に真剣な顔で告げる。
「……良いんですか?」
「うん。良いよ」
生徒会での事をこの人は知ってる筈だ。
「じゃあさ」
彼女の言葉の始まりから、何かを要求されると俺は察した。交換条件の提示だろう。
「ちょっと息抜きしたいから、そこのファミレスに入って良いかな……?」
彼女が指差したのは昨日、篠森と入ったファミレスだ。
「あの、明日もテストで……」
「あーあー……聞きたくない!」
耳を塞いで言う。
「わたし三年生。受験で勉強とかテストとか大変なの。協力するから息抜きに付き合って〜……頂戴っ!」
どうにも断ることは出来ないらしい。
明日もテストだが……。
いや、テストは問題ない筈だ。篠森との勉強のお陰で不安はない。
なら、協力してくれると言うんだから付き合うべきだろう。
「──優希くん、それだけで良かったの?」
俺の分はポテト。
二日連続でファミレスに入る事になるとは思いもしなかった。二日連続で来たせいで、少し周囲が気になる。
「大丈夫です」
「じゃ、協力してほしいことあったら教えて」
ストロベリーパフェを食べながら彼女は言う。
「じゃあ、会長の家を突き止め……」
「わたしにストーカーになれと?」
「…………」
最後まで言わせてもらえなかった。
「さっきも言ったけどね。住所とか個人情報だから。法に触れるのはナシね?」
「…………じゃあ、ないですかね。今のところ」
GPS取り付けるとか、盗聴器を付けるとかが一番手っ取り早い気もするが、流石に俺にだって分別はある。そこまではやるつもりはない。
「君は法に触れるのしか思いつかないのかい……?」
「直接的で単純なのは法に触れますし」
彼女がスマートフォンに連絡先を表示して俺に差し出してくる。
「はあ〜……じゃあさ、思い付いたら連絡してね。それで直ぐだから」
俺は連絡先を登録してチャットアプリに追加された彼女に一言『よろしくお願いします』と送る。
ピロン、と聞き慣れた音がなる。サムズアップのスタンプが送られてきた。




