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第31話 生徒会室の逢瀬

 

 テストは午前で終わり、これがあと四日間続く。午後になる前に学校は終わり。後は家に帰っても良い。

 一日目最後のテストを終えてシャーペンと消しゴムを片付ける。

 

「終わったな」

 

 まあ、何とかなっただろう。手応えとしては悪くない。赤点は無いと思う。答案用紙を持って試験監督の先生が出て行った。瞬間に周囲の物とどうだったかを確認し始めたのが見える。

 

「…………」

 

 教室内での接触は良くないからと、篠森と話すこともない。俺は一瞬運んだ目を直ぐに逸らそうとした物の篠森とバッチリと目が合ってしまう。

 

「はっ……」

 

 思わず笑ってしまう。

 そして互いにまた後でと言うように顔を逸らした。席から立ち上がって出席番号の順の場所から元の席に戻る。

 担任の先生が教室に入って来てホームルームが始まり、「明日もテストだ、気抜くなよ。まだ一日目だ」と言う。

 

「で、後言う事はないな。じゃ、気をつけて帰れよ」

 

 先生がそう締めてホームルームが終わる。全員がさっさと行動し始めて、その中には倉世の姿もある。

 どこに向かうんだろうかと俺は倉世の事を目で追いかける。

 

「…………」

 

 急いで。

 待ち望んでいた様に。その先に誰が居るのかと、そんな疑問が沸いてきて。分かりきっていた答えを俺は出した。

 

「……三谷光正か」

 

 倉世が会いたいと願う相手はそれくらいだろう。彼女の中に俺は必要ない。会いたくもないのだ。

 

「甲斐谷。テストどうだった?」

 

 話しかけて来たのは篠森で、俺は目を見開いて少し呆れた様に笑う。

 

「……教室じゃ話さないって」

「倉世いないじゃん」

 

 確かにその通りだ。

 居ないんだから、気にする必要がない。

 

「まあ、悪くないと思う。いや、普通に良かった」

「良かった」


 俺の手応えを聞いて、篠森も安心した様だ。


「で、篠森はもう帰るのか?」

「……甲斐谷は?」

「俺は、ちょっと……」

 

 別に先生に呼ばれたとかでもなく。ただ、倉世の動向も三谷光正の事も気になる。ここ最近では中々倉世の事も三谷光正の事も探れずにいたから。

 俺が階段を上ると、篠森も付いてくる。

 

「どこ行くの?」

「……生徒会室、行ってみようかなと」

 

 二人が会う場所として考えられるのは生徒会室の気がする。だから、そこに行けば何かがあるのかもしれないと思った。二人の事を知れるのかもと。

 

「それ、大丈夫なの?」

「大丈夫って……別に、生徒が生徒会室に行くのなんて」

 

 大した問題にもならない筈だ。

 

「そう言う事じゃなくてさ」

 

 ああ、違うのか、篠森が言いたいのは。

 

「……何かあったら、またストレスになるじゃん」

 

 そういう心配だったらしい。

 確かに彼女の言う通りで、俺は悉く倉世と三谷光正の関係でストレスを溜めて、何度も篠森に救われてる。

 

「…………」

 

 大丈夫だと言うのも今までの事を考えると軽々しく言えないような気がした。

 

「私も一緒に行くから」

 

 篠森の右手が俺の制服の裾を掴む。

 

「それなら、ちょっとは……良いでしょ」

 

 一人で居るよりは。

 と、篠森は俺を見上げて言う。

 

「篠森」

 

 振り払う事は出来ない。

 篠森が俺を心配してくれてるのだ。俺は篠森にしっかりと向き合う。

 

「……悪いな。付いて来てくれ」

 

 俺の言葉に頷いて隣を歩き始める。

 廊下を真っ直ぐに行った先に生徒会室があるという所まで来て、距離感がおかしくなる。近い様な、遠い様な。

 それは俺が本当は倉世たちの事を知りたくないと拒否してしまっているからかもしれない。

 

「甲斐谷、大丈夫?」

「ん、いや……問題ないけど」

 

 緊張がある。

 不安もある。

 呼吸が少し乱れてる。

 今更な不安をどうしてこうも感じているのか。きっと生徒会室と言う俺の知らない場所での出来事を考えてしまうからだ。そこは通学路ではない。彼女たちに与えられた閉じられた場所。

 俺の知らない、閉じられた所で。

 

「篠森……行こう」

 

 何をしているのか。

 静かな廊下。

 生徒は居ない。帰ってしまったのだろう。カツンと俺たちの足音が小さく響く。

 生徒会室に近づく。

 ドクンドクンと心臓が煩いほどに鳴り響く。

 あと、どれくらいだ。

 

「──甲斐谷」

 

 ひんやりとした感覚が俺の左手に伝わる。

 

「篠、森」

 

 彼女の手が俺の手を掴んでる。

 

「ああ……悪い」

 

 少しだけ落ち着いた。

 手に感じる柔らかな篠森の手が俺は今一人ではないのだと理解させてくる。

 

「手汗凄いよ」

「……」

 

 俺は空いた右手を見る。

 確かにびっしょりと濡れてる。

 

「汚いだろ……悪いな」

「……大丈夫だから」

 

 それは気にしないという意味だったのか。俺を落ち着けるための言葉だったのか。

 

「私も居るから」

 

 離しても良いと言外に告げたつもりが、彼女は両手で俺の手を包み込む。

 

「ああ……もう、本当……」

 

 何と言えば良いか。

 俺は右手の汗をズボンに拭う。左手は振り解けない。彼女が掴んでいるから。

 

「……ありがとな」

 

 俺は思わず彼女の手を握り締め返す。

 

「う、うん……」

 

 篠森が目を逸らした。

 

「悪い。もう大丈夫だから」

 

 俺が手を離して生徒会室に近づく。さっきよりも落ち着いてる。

 

「…………ぃ────」

「…………」

 

 生徒会室の中から響いてくる小さな声。声は確かに倉世の物と、もう一つ。恐らく三谷光正だ。俺にはこの二人が何を話しているのか聞こえない。

 何をしているかも分からない。緊張していたのが馬鹿らしいと思えるほど。

 扉を開ける訳にもいかない。

 

「何も分かんないね」

 

 篠森の声に俺も頷く。

 

「…………」

 

 もう少し続けていれば少しは何かが分かるかもしれない。知りたいならもう少しだけでも続ける価値はあるだろう。

 

「──あれ、生徒会室に用事?」

 

 後ろから来た誰かに声を掛けられて俺たちは振り返る。立っていたのは黒髪の女子生徒。

 

「ああ、いや。特に用事という訳では……その、失礼します。行くぞ、篠森」


 俺は篠森の手首を握って走った。


「う、うん」

 

 生徒会室の前から逃げる様に。

 

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