第30話 友人の確信
ファミレスで昼を取り終わり、また図書館に戻って勉強を続けて数時間。
ページを埋めた最後の一文字。
「ふぅー……っし」
俺は一息吐く。
握っていたシャーペンを離して、背もたれに寄りかかる。これだけ勉強に集中するのはあまり経験がなかった。
「ん」
篠森も三〇秒くらいで手を止めた。
「流石に疲れる」
それはそうだ。
こんなにぶっ通しで勉強していれば疲れるのも当然だ。
「そろそろ帰る?」
篠森の質問に頷く。
「そうだな」
時刻は時計を見れば五時を過ぎてる。
「あんまり遅くなっても心配かけるし、明日からテストだからな」
ここで疲れ果てるまでやって、テストでちゃんと出来ませんでした、ではお笑い種。そろそろ帰って休むなりしたほうが肉体的には良い筈だ。
「じゃ、帰ろ」
篠森と俺は荷物をまとめて図書館を出る。
空はすっかり赤く染まっている。中々に充実した一日になったんじゃないかと思う。
篠森はどうだったろうか、と横を見る。
篠森は大きく伸びをしていた。
「んん〜……っ」
椅子に座りっぱなしだったから疲れているのだろう。
「……一緒に帰る?」
篠森の提案に俺は考える。
「そう……だな」
別に家までの道のりが一緒って訳でもない。すぐにでも道は別れるし、そんな物。
ただ。
「送ってく」
名残惜しさという物を感じて俺はそう答えた。もう少しだけ、話していたい。一緒にいたい。テスト勉強で一日の殆どが終わったから篠森とあまり話せていない。
「……大丈夫だって、さっきの冗談だから」
俺が送っていくと答えるのを想定していなかったのか、篠森は遠慮する。
「俺がそうしたいんだよ」
「…………」
篠森は黙り込んでしまった。
「ほら、帰るぞ」
俺は篠森との時間に楽しさを感じてる。だから、もっと話したい。誰かと一緒に歩くことで少しでも、その時間を増やしたい。
そんな面倒くさい、俺の友達に対する感情。
「甲斐谷、優しいんだ」
それは俺が篠森の身を危惧しての行動と思ったのかもしれない。
「…………」
それとは違う。
優しさが主な物ではないんだ、これは。優しさなんて、そんなに綺麗な物ではない。
「お前といるのも楽しいから」
ふと俺の口から笑みが溢れた。
俺は篠森に頼ってる。少し頼りすぎてる。たった一人の友人だと思って。
「楽しい……」
「ああ。楽しい」
それは友人に向けるには少しばかり重たい物かもしれない。依存とも言える様な物かもしれない。
きっと、いや。
俺は篠森に見捨てられたら、絶対に立ち直れない。
俺は、もう二度と拒絶する事が出来ない。
彼女との交流がより深くなったから。
「そっか」
篠森は微笑んで俺の隣に立ち並ぶ。
「私も、楽しいかな」
俺の顔を見上げて言ってくる。
綺麗な笑顔だった。目を惹かれる様な、そんな笑顔。彼女の顔から、それが彼女の心からの言葉なんだと。それが分かったから、嬉しかった。
ああ、良かった。
心で繋がってる様な気がして、俺は彼女と友達であると確信を持てた気がしたから。
「明日からのテスト、頑張ろ」
「おう。篠森のお陰で不安はないし」
今まで以上に万全であると思える。
「それと。テスト超えたら息抜きだもんな」
元は彼女からの提案だった。
どんな事をするかは決めてない。ただ、ファミレスで話した時よりも俺はワクワクしてる。
「え……と。か、カラオケとか……?」
直ぐにアイデアを出してきたが、篠森も特に考えてなかったんだろう。篠森の小さな声に、俺は失笑してしまった。
「テスト終わってからで良いって」
俺がそう言って、直ぐ電車の走る音が聞こえてきて。
「そう、だな」
ふと思ったことが漏れ出た。
「……どこかに出掛けるってのも悪くないか」
俺の言葉を拾った篠森は少しだけ慌てた様な口調だ。
「で、出掛ける? ふ、たりで……?」
出掛けるのに二人は不安なのか。
「そりゃ、まあ。俺はお前以外に……居ないし」
俺は友達という言葉を口にするのを躊躇った。それを声に出してしまうのが、確認の様で嫌だった。
確認せずとも俺は篠森と通じ合えた気がしたから、それを台無しにしたく無かった。
「あ……そ、そっか」
納得したのか。
首裏に手を当てながら呟いた。
「私も、居ない」
強いて挙げれば倉世だろうが、俺がいるという関係上誘うわけにもいかないだろうし。
「今日と変わんないって。まあ、ちょっと不安はあるけどスマホあれば何とかなるだろ」
現在地だって変な場所に入り込みさえしなければGPSで分かる。電車に乗るにしても乗り換えはアプリやサイトで調べればいい。
「でも……うのは、その……だし……」
ごにょごにょと声は空気に溶けて、俺に届く前に消えてしまった。
「大丈夫だって。絶対楽しいからさ」
これだけは確信を持って言える。
友達ってのは一緒にいるだけでも楽しいはずだ。だって俺は今が面白くて仕方ない。
「────そうだね」
篠森が立ち止まってしまう。
「篠森?」
俺は篠森より二歩先に進んだところで振り返った。
彼女は深呼吸して、俺に近づいてくる。
「うん。テスト終わったらどっか行こ……!」
「お、おう」
詰め寄ってくる篠森の勢いに少し気圧されてしまった。




