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第29話 Breaktime

「ドリンクバーも頼むか?」

 

 メニュー表を見てどれにしようか悩んでいる様子の篠森に俺が尋ねる。

 

「いいんだ?」

「ああ。遠慮しないでくれ」

 

 遠慮されても困る。

 これは俺なりの気持ちという物だから。ドリンクバーでもデザートでもなんでも頼んでくれという思いだ。

 

「予算は?」


 俺は財布を確認する。


「……四〇〇〇円くらいか」

 

 ファミレスで四〇〇〇円もあれば大概の物は食えるし、満足もできると思う。メニュー表を見た所、価格的にこの認識は間違ってないと思う。篠森の注文で全てが消費される事はないだろう。

 

「じゃあ、これ」

 

 彼女が指差したのはこの店の看板メニューである鉄板焼きハンバーグ。ソースも三種類から選べるとの事。

 

「分かった」

 

 俺は席に置いてあるボタンを押して店員を呼び注文を伝える。

 

「オムライスと」

「鉄板焼きハンバーグのBセット。デミグラスソースで」

「あ、あとドリンクバー二つ」

 

 店員が俺たちの注文を繰り返し、ドリンクバーの位置を説明して戻っていく。

 

「……にしても人多いな」

 

 注文を終えて周りを見てみる。子供連れの家族が多い。久しぶりにファミレスに入った。高校生になってからは初めてかもしれない。

 

「日曜日だし」

「ああ、成る程」

 

 家族が揃うとなれば日曜日が殆どだ。子供は学校が休みで、親も日曜日の出勤は珍しい筈だ。俺は知らないからないとも言い切れないが。その日曜日に外食と言うのも理解できる。

 

「甲斐谷はあんまり来ない?」

 

 俺が店内の人の多さに対してあんな事を言ったから何となく察したのだろう。

 

「そうだな。前来たのは中学の時だから」

「その時は家族と?」


 そうだった筈だ。

 ファミレスに倉世とだけで入った覚えがないから、家族もいたと思う。


「まあ……篠森はよく来るのか?」

「いや、全然」

 

 それがどうしてかは分からない。

 恐らくは誘う相手も誘ってくれる相手も居なかったから、と言うあたりが答えに近いのかもしれない。それにファミレスに一人で入るのも……と、遠慮してしまうのもあるだろう。

 そう言う意味ではカラオケとかも同じだ。

 

「……しょ、っと」

 

 テーブルに右手をつきながら立ち上がる。

 

「ん? トイレ?」

「ドリンクバーだよ。篠森、何がいい? 取ってくるから」

「コーラ」

「了解」

 

 ドリンクバーの機械の前に立ってコーラを俺と篠森の二つ分コップに注ぐ。

 

「お待たせ」

 

 先に篠森の近くにコップを片方置いてから座る。

 

「ありがと」


 早速とばかりに俺が置いたコップを左手に持って口に持っていく。


「おう」

「んくっ……んっ」

 

 俺は篠森がコーラを飲むのをぼうっと眺める。

 

「な、何……?」

「え、うん? どうした?」


 何かおかしかったか。


「いや、ずっとこっち見てるから」

「ああ、いや別に」

 

 ただ見ていただけ。

 特に考えはない。なんとなく。

 

「……見られてると飲みにくい」

「あ、悪い」

 

 何かをしているのをまじまじと見られるのが恥ずかしいという気持ちは俺にも分かる。今回のに関しては篠森をずっと見てた俺が悪い。

 俺も正面からずっと見つめられては動きにくい。

 

「別に謝んなくてもいいけど……」

 

 怒ってる訳ではないらしい。

 

「…………」

 

 篠森がちびりと縁に口をつける。

 さっきよりも飲み方に勢いがない。さっきも物凄い勢いだった訳でもないが、俺の目を気にしてるのだろうか。

 

「ふぅ……」

 

 コップがテーブルに置かれる。

 

「あの、さ」

 

 篠森がコップを両手で包んだまま人差し指の先でコンコンと叩く。

 

「どうした?」


 篠森は何か言いたげで、二秒ほどしてから言葉を見つけたのかゆっくりと口を開いた。


「テスト終わったらだけど……どっかで息抜きしない?」

 

 どう言う理由から彼女の提案が来たか、俺には分からなかった。

 

「ほら……倉世の事とか。謹慎とか。今はテスト勉強もだし……結構ストレス溜まるじゃん」

 

 が、すぐに篠森は理由を説明する。

 つまりは彼女の気遣いってやつだろう。俺が色々と抱え込んでいると考えての事だ。

 

「それで……この前みたいになったら」

 

 この前……というのは、倉世を襲おうとした男を殴りつけた時の事か。あの時はストレスを抑えられなくなって、捌け口だと認識して吐き出してしまったから。

 

「ほら……あの」


 あれは酷かったと思う。

 冷静じゃいられなかったから。篠森が止めてくれなければ、あれ以上にやり過ぎてしまう所だった。


「そう、だな」

 

 篠森の言う通りだ。

 篠森に頼れるという事で大分、心は軽くなってるが息抜きがあった方がストレス発散にはより良いかもしれない。

 また、あんな風になるよりは。

 

「────お待たせ致しました」

 

 俺が答える前に料理が運ばれてきた。

 テーブルの上に並べられていく。「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか」と定型文の質問に首肯する。

 店員が戻って行った。

 

「篠森、さっきの話なんだが。テスト終わったら……」

 

 息抜き、するか。

 

 俺はそう言って、コーラを口の中に流し込む。


「うん」


 篠森がまたコップを持ち上げてチビチビと飲む。そして俺と同時にテーブルにコップを置いた。

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