第25話 作戦会議
「ポテトちょうだい」
俺の方に篠森が手を伸ばしてくる。向き合って座る席。客がチラホラといる。学校から少し離れた場所のバーガーショップ。
ポテトと飲み物だけだ。
「ほら」
俺はポテトを篠森の方に向ける。
買ったのはLサイズのポテトで、互いに分け合って食べれば良いと言う篠森の言葉に従った結果だ。
家に帰れば夕飯を食べる訳だし、腹一杯まで食べる必要はない。
「勉強、どんな感じ?」
「まあまあだな。そっちは?」
「こっちも」
などと適当に話しているだけ。
テスト勉強期間だからどれだけ試験対策しているかなど色々と気になるが、俺は本題を切り出した。
「……なあ、篠森」
篠森がポテトをお互いに取りやすい位置に置いた。
「ん?」
篠森がポテトを一本、齧る。
「お前、今度倉世と勉強するって言ったろ?」
「ああ、うん」
「それっていつ?」
「土曜日だけど」
「どこでやるとかあるか?」
「別に決まってないけど。このままなら倉世の家かな」
今の倉世は篠森の家を知らないからだろう。そもそも、記憶を失う前から遊ぶのは倉世の家だったかもしれない。
まあ、なんにせよだ。
「頼みたいことがあるんだが……ちょっと倉世を家から引き離せないか?」
篠森は紙カップを持ち上げて、ストローを咥えた。
「…………?」
そして、そのまま首を傾げる。
「何で?」
コーラの入った紙カップをテーブルに置いて篠森は理由を尋ねてくる。
「ちょっと、オバさん……ああ、倉世の母さんに聞きたいことがあって」
「聞きたいこと……」
俺は彼女の繰り返す言葉に「そう」と頷きを返す。
「ほら、倉世いると俺も色々気不味いから」
嫌われ者だと理解しながら、倉世がいる家の中に入るのは遠慮したい。
「……別に良いけど。どこに行って欲しいとかってある?」
「別にそんなんはないって。場所は自由でいいし、勉強すんだろ?」
俺の指定した場所に連れてくって必要はないし、家から離れさせてくれれば文句はない。
「じゃあ、図書館とか?」
「悪いな」
わざわざ、他の場所に行かせる事になって。どこかに行くっていうのは労力が掛かるだろう。
「良いよ。別にどこでも」
ただ、篠森は特に気にした様には見えない。
「甲斐谷」
篠森が俺から視線を外した。
「……倉世と勉強するの土曜日だから」
「うん」
それ、さっきも聞いたな。
「…………」
篠森は無言でポテトを食べ進める。
「……あー、篠森。……俺、謹慎中の所であやふやな所あるから日曜日空いてたら会えるか? ちょっと教えて欲しいんだけど」
土曜日だから、日曜日は空いてる。
篠森がそう言ってる様に思った。
倉世との勉強が土曜日だから、と言ったのは俺が寂しいと思っての事か。
「分かった」
篠森が仕方ないと言うように息を吐いて、笑う。
篠森の優しさに甘える事にしよう。
「場所は?」
「図書館でいいか」
「二日連続ね」
「……いや、悪いな。本当に」
篠森には迷惑をかけるし、感謝しかない。
「良いって、別に。これくらい全然」
頼って良いと言われたものの、頼りすぎて負担になって欲しくはない。
「…………」
何かしら、篠森には礼を考える必要があるかもしれない。日曜日に昼を奢るとか。そんくらいしかできないが、ないよりはマシだ。
俺はポテトに手を伸ばす。
量は篠森が少しずつ食べ進めていたからか、減ってはいるが全てなくなるまで時間がかかりそうだ。
「これ、多くない?」
篠森がポテトを一本右手の指先で持ちながら聞いてくる。俺もそう思ってた。
「ああ。これ……Mで良かったな」
ポテトは油も多いから余計に重たいんだろう。俺は数本を一口に放り込む。
「後あげよっか?」
「……Lって言ったのお前だろ」
とはいえ、サイズ感については俺もあまり詳しくなかったから何も言わなかったし、二人で分け合うならLで良いとその時は思った訳だ。
「それは……ほら、甲斐谷が男だから」
食えないことはないが夕食に差し支える。
「気遣いどうも」
食べるけど。
流石に残す訳にも行かない。持ち帰ると食べない可能性もある。それにこう言うのは出来立てが良いのだから。
「ん」
「大丈夫か?」
まだ食べるのか確認。
「あとちょっとだけなら」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、これ言っていいのか」
少し悩むが篠森が身を乗り出してきた物で、催促されている様に感じて俺も口を開いた。
「女子って油分とかカロリーとか気にすると思ってたから……なんて」
「……じゃ、あとあげる」
篠森がズイと俺にポテトを押し付けてくる。
「……はい」
言わなくて良いことだった。
言わなければ篠森はもう少し食べてくれたかもしれないのに。俺がポテトを食べるのを眺めて、篠森は笑ってる。
「本当に後いいのか?」
もう少し食べてくれてもいいんだが。
そんな風に期待しながら言えば、彼女は唇を尖らせて答える。
「いいよ、別に。太るし」
「いや……本当に、ごめん」
配慮に欠けていた。
俺が謝れば、彼女はくすくすと笑う。
「……ふふ。いや、別に気にしてないけど、本当は」
結局残りは俺が食べて店を出て、篠森とは途中まで一緒に帰る。
「じゃあ、またね」
そうやっていつも通りに。
篠森は俺に言って別れる。俺も家に向かって進む。




