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第24話 変わり、慣れ始め

 俺の周囲は変わったように思う。

 変わって行くのは当然だった。少しだけ、今のこの状況に、倉世の記憶のない事に慣れてきて、そして倉世に嫌われているのが当たり前の様に思えてきた。

 

「…………」

 

 今に完全に慣れきってしまってはおしまいだ。

 この現状を受け入れるのは、倉世の記憶について匙を投げる事を意味する。倉世の隣を三谷光正に譲る事になる。

 

「……別に」

 

 もうそれでも良いんじゃないか。

 受け入れてしまっても構わないんじゃないか。

 そんな思考が過って、自分に対して嫌悪感が募った。馬鹿な事を考えるな。

 何を考えているんだ。俺は倉世を奪われたままに納得するのか。


「良くないだろ……!」


 それに、これは俺一人の話じゃない。俺だけの問題で済む範囲じゃない。

 篠森にも、倉世の家族にも関わってくる事だ。

 

「甲斐谷」

「ん、篠森。どうした?」

 

 席で休み時間を過ごそうとしていた俺に篠森が話しかけてきて、俺は顔を上げた。

 

「倉世と一緒に勉強することになった」

「…………」

 

 最初、何で俺にと思った。

 そして直ぐに思い出す。

 

「あ」

 

 そうだ。

 ずっと篠森は倉世と友達に戻ろうとしていたんだ。それできっかけが出来た。その事をわざわざ俺に報告に来たのだ。

 というのも、俺と篠森は倉世の記憶について探っている関係だ。篠森のお陰で一歩前進したと思っていいだろう。

 

「そっか、良かったな」

 

 なら、俺はどうするべきかを考える。

 篠森と倉世が友達に戻るために、迷惑をかけないようにするにはどうするか。

 倉世が嫌いな奴と交流があるとなれば、それはやはり何か感じるんではないだろうか。

 

「……じゃ、俺も篠森との付き合い方考えないとな」


 距離を置くべきかもしれない。


「今まで通りで良いんじゃないの?」

「こうやって教室で話すのは良くないだろ」

 

 俺は倉世に目を向けて直ぐに逸らす。

 少なくとも、教室は倉世の目につく可能性が高い。避けるのがいいだろう。

 

「…………」

 

 見つめられても、困る。

 別にどうにも出来ないし。そうした方が良いんじゃないかって話だ。

 少なくとも俺はそう思ってる。

 

「教室じゃなきゃ良いの?」

「まあ、倉世が居なけりゃ……大丈夫なんじゃないか」

 

 それ以外の奴らが気にする様な事でもない様に思う。俺との関わりを気にするのなんて倉世くらいか。実際はどうかなんて分からないが、俺との関わりを出来る限りない様に見せるのは保険みたいな物だ。

 

「友達は選べよ」

 

 俺みたいな奴と連んでると倉世とは友達に戻れないかもしれないし。

 

「選んでるって、ちゃんと」

 

 篠森が俺の目を見つめてくる。

 

「甲斐谷、寂しかったら言ってよ」

 

 友達が居ないと思われているのか。

 いや、確かに居ないけど。倉世の事を優先してきた余り友達を作る事が出来ていない。

 

「はいはい」

 

 だから今、頼れる友達というのは篠森くらいしか思い当たらない。

 テスト期間までもう少し。今はテスト前という事で自宅学習に力を入れる者が多い。

 普段は部活があって、休みになった事で遊び呆ける者もいるらしいが。

 そんな事はどうでもいいんだ。

 兎に角、この内に倉世と篠森が前みたいに仲良く戻れればいい。

 

「じゃ、甲斐谷。また後で」

 

 後でって言うのは放課後の事だろう。

 流石の俺も倉世の事を毎日のように放課後に付け回す事はしていない。現状を受け入れ始めてるとかではなく、単純にそこまでしては、と理性が咎めているからだ。

 尾けている時点でかなり精神的に来るのに、それを毎日なんて出来るわけがない。

 

「ああ」

 

 勉強を一緒にする事になったと言っていたが、今日は違うらしい。

 

「また後でな」

 

 俺が篠森にそう返せば彼女は小さく右手を振って去っていき、倉世の席へ向かう。

 

「……俺も勉強しないとな」

 

 赤点を取れば面倒だ。

 苦手な分野を重点的に復習していこう。こんな事で手間取る訳には行かないのだ。

 

「それに、篠森が頑張ってんだ」

 

 何がこのままでいいんじゃないか、だ。

 俺が面倒になって諦めそうになっただけだ。折れてしまって、楽になりたかっただけだ。

 

「良くねぇぞ、俺」

 

 気合を入れ直せ。

 ちゃんと、倉世の記憶の事を考えろ。

 

「オバさんと約束したろ」

 

 記憶について方法を考えると言った。俺が簡単に投げ出していい事じゃない。

 

「…………」

 

 言い聞かせても、結局明確な解決方法が出てくるわけではない。

 そういえば、オバさんとオジさんの方で何か進展はあったろうか。

 それを確かめてみるのも一つアリかも知れない。

 

「そうだな。どこかで、倉世と出会(でくわ)さないで話せればいいんだけどな……」

 

 今の倉世と会えば蔑まれるだろう。いや、案外無視されるだけかもしれない。どうだか分からないが、それでも俺にとって倉世からの拒絶を向けられるのはかなりくる。

 

「………ふむ」

 

 方法が二つ思い浮かんだ。

 一つは三谷光正と休日にデートするだろうとして、その間を狙う事。

 もう一つが、さらに手っ取り早い。

 

「……篠森に頼るか」

 

 今度の勉強会で篠森に倉世を家から連れ出してもらうと言うもの。

 俺は倉世に話しかける篠森の姿を見る。一瞬、目があって俺は何でもないと言うように目を伏せた。

 今はタイミングが悪い。

 それに俺と篠森はアイコンタクトだけで通じ合えるような特殊な訓練を受けていないし、超能力者でもない。


「放課後だな」

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