第125話 少憩
的作りは順調に進んでいる……と言って良いのだろうか。
始まって直ぐに的を完成させられると言う訳でもない。今は倉世が絵を描くとして、残りのメンバーはどうするかだが。
「んー」
水戸部の唸る様な声が聞こえる。
「思ったより、暇だよね」
当の実行委員である水戸部も感じていたのか。
「何かやることあるかな……他に絵描ける人が居るなら、その人にも任せたいんだけど」
と、水戸部は教室にいる全員を見回し、答えを確かめる。
「そっか」
聞かれた全員が渋い表情を浮かべた。
「今日の所はほとんど倉世のワンオペになっちゃいそうかな」
水戸部が作業中の倉世の方に目を向ける。段ボールを的の形にカットするのも倉世の絵が描き終わってからになる。
それまでに何があるか。
「水戸部」
「どうしたの?」
男子の一人が何か思いついたらしい。
「……なあ、看板とか作んなくて良いのか?」
男子の一人が水戸部に聞くと「あー、確かに。看板も必要だね」と小声で言ってから、考える様な顔をする。
「……看板なら絵心はあまり関係ないか」
水戸部は任せても問題ないと思ったのか。
「んー。ねえ、篠森」
水戸部が倉世の近くで絵を描くのを見ていた篠森を呼ぶ。
「どうしたの?」
篠森が立ち上がり、水戸部の方に近づいてくる。倉世も一瞬、顔を上げたが直ぐに気にせずに作業に戻った。
「今から射的の看板作りたいんだってさ」
水戸部がチラリと暇そうにしている男子に目を向ける。
「どうも、暇らしくて」
再び、視線を篠森の方に戻してから「ちょっと、悪ふざけしすぎない様に見ててくれない?」と告げる。
「分かった」
篠森がコクリと頷いた。
「あのな……俺たちを信用しろよ」
水戸部と篠森の話し声は聞こえている。男子は少しばかり不服そうに声を上げるが「大丈夫だとは思うけど……一応ね」と困った様な笑みを浮かべて言う。
「まあ、普通にやるから全然良いけどな」
俺は何人かが看板作りに動き出す中で、倉世が絵を描くのを見たまま。
「あれ……? 甲斐谷くんはやらないの?」
俺が動かないことを不思議に思ったのか、水戸部が聞いてくる。
「看板作るのに、そこまで人数いらないと思ってさ」
監視役に篠森が居て、男子数人。
教室に居た女子は篠森に水戸部と倉世、後は二人程度。その二人の女子も看板作りの方に向かった。
「確かに。それもそっか」
無駄に密集しても意味がない。
道具も限られている。それに充分な人数は居る様に思えたから、と。
「じゃあ、今、何やってる?」
ただ、聞かれても俺には特に何をするべきかは分からない。今から射的台を組み立てるか。
「何やる……って」
そう言われても、だ。
「……どうしたもんか」
特にする事もない。
出来る事は倉世の絵や看板作りの進捗を確かめる為に教室を歩き回るくらいか。
「私も看板の方、篠森に任せたし……倉世の絵が出来上がるまで暇なんだけどね」
俺は少し離れた場所で看板作りに勤しむ集団と、一人黙々と作業をする倉世を眺める。
「ちょっと様子見てくる」
そう言って水戸部は倉世の方に近づいていく。俺は水戸部と倉世が話してるのを見ているだけにしておく。
暫くして、水戸部が戻ってくる。
「どうだった」
俺の質問に水戸部は「はは」と軽く笑う。
「まだ途中だったけど、やっぱ上手いね」
水戸部は腰に右手を当てながら、感心した様に言う。
「そう言えばカッター持ってきてなかったよね?」
俺は「そうだったな。今、持ってくる」と水戸部に確認せずに空き教室に向かう。カッターとガムテープの入った袋を持ってきて、俺は看板作りをしている方に近づく。
入っているカッターは。
「……三本だったな」
看板作りに一つあれば良いだろうか。
袋から新品のカッターを取り「カッター、使うか?」と差し出しながら、尋ねる。
「お、ありがとな」
俺が渡したカッターを封を開けずに近くに置いて、作業に戻る。
「何本あったっけ?」
「三本」
「で、何本渡したの?」
俺はレジ袋から二本、カッターを取り出して見せる。
「一本だけだ」
俺は袋を持ったまま水戸部に答える。
「別に二本貸しても良かったよ。まだ倉世の方、もうちょっと掛かりそうだし」
俺は袋の中身を確かめてから、足元に適当に置く。
「そうだったか」
俺はチラリと壁時計を見る。
時刻は五時少し前。今日はどれくらいの時間になるだろうか。俺は息を吐き出しながら視線を下ろす。
「暇だけど……いつもお世話なってるから」
ちょっと休憩って事で、と水戸部が床に腰を下ろす。
「ほら、甲斐谷くんも座りなって」
床を右手で叩き「立ちっぱなしも疲れるでしょ」と水戸部が言う。
促されるままに俺も床に腰を下ろす。
「よっ……と」
俺が座ったのを見て、水戸部は「何か、ちょっとサボってる感じするなぁ。皆んな頑張ってるのに……」と苦笑いを見せる。
少しばかりの罪悪感を覚えているのか。
「休憩だろ」
俺と同じで。
「そうそう、休憩」
水戸部は学園祭準備で必死に動き回っていたのだから。この程度は責められるものではない筈だ。




