第124話 Lightな脅迫
今日も学園祭準備があると言う事で教室には昨日と同じ様に生徒が残っている。
「あれ、残ったの?」
その中に一人、普段であれば教室に残っていない様な男子が残っていた。俺が水戸部に今日の確認に向かったところだった。彼に水戸部が物珍しそうな顔をして問いかける。
教室、窓側の席。
「…………」
水戸部の質問に据わりの悪い様な顔をして視線を彷徨わせる。
「部活はどうしたの?」
普段ならば部活に向かっているはずだ。今日は部活は休みだったのか。
「……学園祭準備があるからって」
どうにも部活自体はあるらしい。
「いや、確かに今日もあるけどさ。いつも居ないから、今日も居ないもんだと思ってたんだよね」
少しばかり棘のあるように感じる言葉に、身を縮こまらせているのか。
「買い出しあるなら、買い出しお願いしようと思ったけど……お菓子買うのはもうちょっとしてからでも良いし」
今日は部活行って良いよ、と水戸部は溜め息を吐き出しながら告げる。
「…………」
そうは言われても、と言いたげに。
「いや、本当に大丈夫だから」
「でも、休むって……」
もう伝えてるし、と尻すぼみに声が消えていく。
「別に監督とかには大丈夫だったって言えば問題ないでしょ? ほら、今日は良いからさ。大丈夫だって」
水戸部は諭す様に良い、視線を合わせる。彼も渋々と言った様子で立ち上がり荷物を纏めて教室を出て行った。
「良かったのか……?」
そんな実行委員二人のやり取りを近くで見ていた俺が確認を取れば「ん? ああ、全然全然」と笑いながら言う。
「良いの、良いの」
どうして、彼が教室に残り、学園祭の準備を手伝おうとしたのか。俺には測れないが、きっと何かしら思うところがあったのかもしれない。
「……取り敢えず」
水戸部が手を叩く。
「ま、今日は倉世にも残ってもらってるし。まず紙取りに行かないとね」
「…………」
扉の方に数歩向かって歩いた水戸部が俺の方に向き「ほら、着いてきて」と手を叩く。
「俺、必要か?」
教室を出て扉を閉めながら聞けば、水戸部は「必要、必要」と適当な返事をする。
「さっきの事なんだけどね」
突然に水戸部が切り出す
「友達に話すのもさ……ちょっと憚られてね」
何の話だろうか。
「私って、学園祭実行委員じゃん。そしたらクラスの出展とか色々あるんだよ」
外部からも来客があるのならば、それは実行委員の心持ちとして自然な物だと思える。
「で、男子の方の……山邉くんって準備とかあんまり手伝ってくれないしさ」
「…………」
水戸部が「若干ね、思うところあって……まあ、あんな感じになっちゃった訳だ」と反省はしているのか、苦笑い。
「そこで、さっきの友達に話すのが憚られるって話に戻るけど」
俺は一瞬、水戸部から目を離し。
「ん、おう」
空き教室の扉を開いてから向き直る。
扉を開けっぱなしにしたまま中に入っていく。
「ほら、友達も部活で学園祭準備とかに全然来れなくてさ」
「……そう言う事か」
ここまで来れば、何となく推測出来る。
もし、これで水戸部が友達に男子の実行委員が手伝ってくれないと愚痴を溢そうものなら関係が悪化してしまうかもしれない。そんな心配が勝ってか、特に誰かに吐ける様な事は無かったらしい。
ただ。
「それ、俺には言って良いのか?」
二秒ほどの沈黙。
「そう、だね……」
水戸部がゆっくりと歩き、射的用の銃が並べられている場所まで移動し。
「よっ、と」
今は使う予定の無い筈の銃を腰を曲げ拾い上げ、水戸部はその銃口を俺に向けてくる。俺は突然の水戸部の行動に「どうした」と問い、確かめる。
「甲斐谷くん。他言無用ね」
今のは脅しのつもりだったのか。
「……誰かに言うつもりはサラサラない」
俺が首を軽く横に振りながら答えれば「まあ、強制なんて出来ないけど。そこは信用してるから」と微笑みながら銃を下ろす。
「っていうのも、いつも手伝ってくれてるし、甲斐谷くんなら愚痴言っても分かってくれるかな〜……って思っただけなんだけどね」
水戸部は銃を元の位置にゆっくりと置き「それよりも紙だよ、紙。あ……あと、段ボール」と言う。俺も言われるままに段ボールを皿にして紙を持ち、水戸部がペンを右手に持ち上げる。
「ごめんね、甲斐谷くん。いつも手伝って貰った上でこんな愚痴にも付き合わせて」
水戸部の謝罪に「俺は全然問題ないから気にしないでくれ」と。
「…………問題ないって言われてもなぁ」
水戸部が考え込む素振りを見せる。既に教室は近づいていて、俺は扉に右手を掛ける。
「取り敢えず、ありがとね」
俺が扉を開けば水戸部が先に入っていく。
「一旦、全部教壇のとこに置いておこっか。机寄せた方がやり易いし」
水戸部と俺は教壇に向かい、邪魔にならない様な場所に持ってきた物を纏めて置く。
「じゃ、取り敢えず昨日のデモプレイの結果から大体の的の大きさを決めて……倉世にどれくらいで絵描くか決めてもらうから」
取り敢えず、と始め。
「机、寄せてください」
水戸部の言葉に従い、教室に残っていた全員が動き出す。




