第122話 組み立て
放課後、教室には普段よりも多く生徒が残っている。
「えー、まずは……ありがとうございます。みんな残ってくれて」
教壇の上に立った水戸部が黒板に背中を向けながら言う。教室に残っているのは部活が無い生徒と、元々帰宅部のメンバーだ。
「じゃあ、いきなり本題なんですが……学園祭も近づいてきてるし、そろそろ本格的に動いてもらいたいんだよね」
流石に三週間を切っている今、そろそろ焦らなくてはまずいだろう。
「なあ」
「ん?」
水戸部が声のした方に顔を向ける。
「買い出しとかは? 行かなくて良いのか?」
男子が一人、水戸部にそう聞けば「それは問題ないです、今の所は。まあ足りなくなったら、都度買いに行くけど」と返ってくる。
さっき水戸部に質問した男子は「いつの間に……」と言いたげな顔をしている様に見える。
「はい、なので今回はすでに空き教室にある射的台の組み立てと……後は時間あればデモプレイって感じで」
水戸部が「まず、みんな机寄せてくださーい」と手を叩いて催促する。射的台を組み立てるにもスペースを作らなければならない。俺は立ち上がり椅子を逆さにし、机に乗せ移動の準備を始める。
水戸部も教壇から降り、机の移動を始める。人数もあってか、数分程で十分な空間が出来上がった。
「じゃあ、男子着いてきてー」
水戸部を先頭に空き教室への移動を開始する。空き教室には昨日と変わらない光景が広がっている。
箱に入ったままの射的台に紙や、ビニール袋が一箇所に集められ、目につく様にクラス名を書いた張り紙がされている。
「とりあえず、ガムテープとかカッターが入ってるビニール袋と……その大きい箱が射的台だから」
教室に持ってきて、と告げ水戸部は先に空き教室を出てしまう。
「あー……買い出し行きたかったな」
袋を持ち上げた男子の一人がそうボヤく。さっき水戸部に質問していた奴だ。
「もう買い出し行ってるって……」
溜息を吐き出しながら、彼は空き教室の出入り口に向かう。他の男子も、それぞれに水戸部に言われた物をクラス教室に運び出す。
射的台の係は二人。俺ともう一人で箱を持ち上げ、移動を始める。
「お、ありがと〜!」
開きっぱなしの扉から通り開けた場所に射的台の箱を置く。
「もう、組み立て良いんだよな?」
俺が水戸部に確認すると「うん、甲斐谷くん。良いよ、始めちゃって」と答えが返ってくる。壊れない様に、と箱を開け部品と説明書を取り出し床に置けば人が集まってくる。
「はい、ちょっと退いた退いた」
水戸部が腕を横に広げていくと、集まっていた全員がスーっと避けていく。
「皆んなで寄って見ても意味ないでしょ」
水戸部が説明書を手に取り「代表して私が読むから、組み立ててって」と指示し、早速射的台の組み立ての順序を読み上げていく。
「ん、これか?」
水戸部の説明に部品を手に取った男子が見せる様に持ち上げる。
「そっちじゃなくて。えーと、ここは……」
水戸部が探そうとして「これ、じゃない……?」と篠森が部品を持ち上げた。
「あ、それそれ」
俺は篠森から部品を受け取る。
「で、ここだろ?」
水戸部の方に目をやるとコクコクと首を縦に振っているのが見えた。
「────おお」
人数とは偉大な物で、射的台が想像以上に早く組み上がる。完成した射的台を目にし、水戸部が感嘆の声を上げる。
「これ初めて見るけど、中々だね」
水戸部が身体を動かし、射的台を様々な角度から見る。観察するというのか、鑑賞するというのか。
満足した様に「うん」と頷き、水戸部は腕を胸の前で組む。
「じゃあ、組み立ても終わったし……デモプレイに移ろう。お疲れ、特に男子。じゃあ、ちょっと銃取ってくるから」
直ぐに組んだ腕を解き、水戸部は教室を出ようとして。
「……俺もちょっと」
俺も一言、断りを入れ水戸部に続く形で教室を抜ける。
「甲斐谷くん、どうしたの?」
廊下に出ると、俺が出てきたのが分かったのか、水戸部が顔を向けて聞いてくる。
「いや、ちょっと聞きたくてな」
「何?」
水戸部は何を聞かれるのかと不思議そうな顔をする。
「今日は倉世に残って貰わないんだなって」
「あ、あー……それね」
教室には既に倉世の姿はなかった。
絵を描くのを任せると言ったというのに。
「いやー、私もまさかとは思ったけど……まあ、でも今日は良いかなって」
水戸部としても予想外な所があったのか、困った様な笑みを浮かべた。
「今日はデモプレイまででも大丈夫でしょ」
空き教室に入り水戸部が銃を抱え「そうだ。折角着いてきてくれるならさ……段ボール、持ってくれない?」と俺に頼んでくる。
「ああ……ただ」
段ボールが置かれている場所に近づく。
「何枚持ってく?」
俺の質問に「まあ、適当に」と微妙な表現で返してくる。俺は段ボールを縛ったままのビニールを解き、数枚を手にして立ち上がる。
「あとどれくらい残ってる?」
「まだ一〇枚くらいは残ってると思うぞ」
しっかりと数えてはいないから、確かな数字では無いが。
「一〇枚くらいか」
水戸部が「的、足りるかな……?」と小声で呟いた。




