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第116話 Eat cake

 先輩は右手にフォークを持ち上げる。


「そう言えばだけど」

 

 運ばれてきたケーキにそのフォークを通しながら金谷先輩が呟く。

 

「どうしました?」

 

 俺はフォークを持ったままの状態で手を止め、顔を先輩の方に向ける。篠森はカップの持ち手に伸ばしかけていた右手を引っ込めた。

 

「いや、優希くんに前にジャック・オ・ランタンの……て言うか、カボチャの被り物見せた時あったじゃん」


 覚えている。

 先輩があの作戦を俺に話してくれた時のことだ。


「ああ、夏休み前ですよね」

 

 先輩の皿の方からサクッと音がする。タルト生地が切れた音だろう。

 

「そうそう。それでさ、前日でいいんだよね?」


 前日。


「……そんな話しましたね」

 

 そう言われて思い出した。


「そうだよ。そんな話したんだよ」


 先輩が作戦を話した時にカボチャの被り物を見つけ出したのだ。それを前日に、という話もした気がする。

 

「で……あれ、本当に使う?」

「クラスメイトに見つかると何かあるかもなんで……」


 俺の答えに先輩は納得したのか。


「あ〜、そっか。それもあるかもね」

 

 最悪、抜け出したことを咎められ、引き戻される可能性もある。そうなっては作戦を遂行できない。

 

「いや〜、確認しておかないと忘れるよね。ちゃんと優希くんも覚えててね」

 

 先輩は俺も覚えているのかの確認のつもりだったんだろう。先輩はそれを確認したかっただけらしく。

 

「あ〜……んっ」

 

 上に乗ったマスカットが落ちない様にとバランスを取りながら口の中に運ぶ。

 

「ん〜っ」

 

 感嘆の声をあげて「優希くん、これすっごい美味しい! ほら、早く食べなって!」と俺に急かしてくる。


「分かりましたから。そんなに急かさないでくださいって」


 俺も言われるままにフォークで区切り、一口分。


「いただきます、と」


 口内に入れる。二度、三度と噛み締めて口の中に広がるマスカットの味に感動を覚える。

 

「これ……美味しい、ですね」

 

 俺が自然と感想を漏らすと、先輩は頷いて。

 

「だよね! ね、ね。楓ちゃんのはどう?」

 

 今度は違うメニューを頼んだ篠森に関心が移ったらしい。先輩の視線が手元から篠森の方へと向く。

 

「美味しいですよ……?」

 

 一口分食べられた跡のある、いちごタルトに先輩の目は吸い込まれる様に。

 

「一口、食べます?」

 

 そんな熱視線に気がついたのか。

 篠森が聞くと「良いの?」と金谷先輩は尋ね返す。首を傾げ、篠森の顔を覗き込む様に。

 

「はい」

「じゃあ、貰おっかな……お返しに、こっちのも、どうぞ〜」

 

 先輩は先に自分の皿から一口分を取り、いちごタルトの乗った皿に移す。

 

「あ……ありがとうございます」

 

 篠森も自分でケーキを一口だけ分けて、先輩の方へと渡す。

 

「ありがとね」

 

 先輩は早速と分けてもらった、いちごタルトを食べて「これも美味しい!」と喜びの声を上げる。

 

「篠森、どうだ?」

 

 篠森の方もマスカットのタルトを食べたのを見ていた。俺が味の感想を尋ねれば「これも美味しい……」と一言。

 

「優希くんもいちごの方食べたくならない?」


 若干、思わない事もないが。


「だとしても……それ、篠森が損するだけじゃないですか」

 

 一口だけならまだしも。

 二口も俺と先輩で食べてしまって、代わりにマスカットのタルトを貰ったとしてもだ。

 

「確かに。わたしと優希くんの同じのだもんね」

 

 先輩がヘラヘラと。


「紅茶もだよね」


 一度フォークを置いて、今度は紅茶を飲む。

 

「……ふむふむ」

 

 種類は色々あったが、俺と先輩が頼んだのはアールグレイ。

 

「どうですか?」


 先に飲んだ先輩に一度、味を聞いてみる。


「わたし、あまり紅茶分かんないんだよね。アールグレイって言っても、他のも分からないからさ」

 

 味の違いを語りようもないのだと。

 先輩が困った様に眉を落としながら言うのを聞きながら、俺もティーカップを手に取り、縁に口をつける。

 

「どう?」


 尋ねられても、だ。


「俺もわからないです。紅茶って感じです」

 

 だから、紅茶も先輩と同じ物にしたのだ。

 

「そっかそっか」

 

 先輩が微笑む。

 先輩は紅茶をチビチビと飲みながらタルトを食べ進める。篠森の方も俺が先輩と少し話している間にも食べ進めていたらしい。

 皿に残っている量が一番多いのは俺だ。

 

「それにしても色々気になるメニューあったよね」

 

 最後の一口、と言う所まで来て先輩が言う。

 

「ほら、え〜と……レモンのレアチーズとか」

 

 俺はタルトを食べ終えて、ゆっくりと紅茶を口に入れて飲み込む。

 

「そうだなぁ。クリスマスケーキ、ここにしよっかな」

 

 先輩がそう言った。

 

「クリスマス、ですか」

 

 俺が先輩の発言を繰り返し、篠森を一瞬経由してから、先輩と目を合わせる。

 そうしたのは、ただ少し気になったから。篠森が少し前、夏休みが明けて直ぐの頃に言っていた事を思い出したのだ。

 

「だってここのケーキ美味しいからさ」

 

 先輩が最後の一口を放り込む。

 

「ん、美味しかった〜。今日はありがとね、楓ちゃん」


 空になった皿を前にして、先輩は告げる。


「私もここに来れて良かったです」

 

 残ったのはカップに残るコーヒーと紅茶。


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