第115話 午後三時の作戦会議
店内に入ると「いらっしゃいませ」と女性店員の爽やかな挨拶が響く。
そのまま、その店員に俺たちはケーキ屋の隅の席に案内される。
俺たちが椅子に座り、少しして水をテーブルに三人分持ってきて、また戻っていく。
「成る程、成る程。外装だけじゃなくて内装もお洒落だね」
先輩は初めて入る店という事もあってか、壁や天井なんかを見回している。俺はメニュー表を取り出し、テーブルの上に広げる。
「ほら、メニュー決めましょうよ」
昼下がり、午後三時を僅かに過ぎた現在。小腹が空いている。
「お、そうだね」
金谷先輩が開いたメニューに目を落とす。俺もメニューに目を通す。
「これとか美味しそうじゃない?」
先輩が指差したのはシャインマスカットのタルト。
「おすすめって書いてるし」
しかも手書きだ。
「それも良さげですね。ただ、こっちのレモンチーズケーキも美味しそうですし……」
先輩も「そう言われると確かに……」と悩ましげな顔をするが、シャインマスカットのタルトの横に書かれた文字を見つめ。
「やっぱこっちにする。期間限定だよ、期間限定」
「なら、俺もそれに……」
期間限定と言うのなら、俺もそれにしようか。他のメニューは食べようと思えば、また来た時に食べられるのだから。
「篠森は決まってんのか?」
俺が隣に座った篠森の方に顔を向ける。
「……うん。ちょっと迷ったけど、やっぱり」
なら、店員を呼ぶかと思ったが先輩に待ったをかけられる。
「ちょっと待ちなよ優希くん。ケーキを食べるときはコーヒーか紅茶が必要なんだよ」
それにアフタヌーンティーだしね、と先輩が言ってドリンクメニューのページを開く。そこにはコーヒーや紅茶が様々に書かれている。コーヒーにはブレンド、カフェオレ、ウインナーだとか。
紅茶も色々と。こっちも一種類だけではないらしい。アッサムだとか。
「わたしは〜、これ」
先輩が指差したのはアールグレイと言うもの。どんなのかはよく分からない。
「聞き覚えあるから」
「……なら、俺も同じので」
違いがよく分からない。
「お、優希くん。どっちも一緒じゃん」
「そうですね。俺もシャインマスカットのタルト食いたくなったんで」
俺が言うと先輩は「だよね」と頷く。
「あの、呼んでも大丈夫ですか?」
篠森の確認に俺は頷き、先輩は「オッケー」と返す。篠森がベルを鳴らすと、店員がやって来て「お決まりでしょうか?」と定型の言葉。
「いちごタルトとブレンドコーヒーと……」
篠森の注文が終わってから俺は「マスカットのタルト二つと、アールグレイ二つで」と先輩の分を一緒に注文する。
「コーヒーと紅茶はアイスかホットか選べますが……」
先輩が「二人ともアイスで良い?」と聞いてきて、俺と篠森が問題ないと答えると。
「全員、アイスで」
店員はそれを聞いて戻っていく。
「いや〜、楽しみだねケーキ」
金谷先輩、元々何の為に集まったのか覚えているのだろうか。俺は口を水で潤してから「金谷先輩」と名前を呼ぶ。
「うん?」
「今日、何のためにケーキ屋に来たのか覚えてます?」
俺が言うと「楓ちゃんが来たいって言ったからじゃないの?」とキョトンとした顔をして見せた。
「いや、それはそうですけど……」
確かにケーキ屋に来た理由はそれであってるが。もっと根本的な理由があるだろうに。
「ごめんごめんって。ほら、学園祭当日の動きの話でしょ?」
しっかりと覚えていたか。
俺は安堵の息を吐く。
「そうです」
「最終確認って言っても、大体の流れの確認しかできないけど」
それは先輩の言う通りだ。
だから俺も「細かいところは一先ずは」と前置きしてから。
「学園祭、二日間あるじゃないですか。どっちでやりますか?」
俺の確認に先輩は少し考える様な顔をしてから「二日目の方が良いんじゃないかな?」と答える。
「一日目よりも二日目の方がわたしの仕事、ちょっと緩いからさ」
「それって生徒会関係ですか?」
篠森の質問に「そうそう。そういう事」と先輩が笑う。
「出来れば楓ちゃんには智世ちゃんの事、二日目に誘ってほしいかなって感じなんだ」
先輩がお願い、と言うように両掌を合わせて篠森に頼み込む。
「分かりました。二日目ですね」
ただ篠森も倉世がどう答えるかは不安なのだろう、「断られたら、すみません」と付け足す。
「いやいや、その場合はわたしが調整するから」
俺は。
「…………」
申し訳なく思う。
この二人を振り回している様な気がして。今更にも罪悪感が湧いてくる。
だから。
「甲斐谷?」
「大丈夫、優希くん?」
俺は「すみません、ご迷惑おかけして」と頭を下げる。
「それと、ありがとうございます」
その態勢のまま感謝を告げる。
言葉だけの様にも感じてしまう様な気もしてしまう。
「良いって、良いって。優希くんと楓ちゃんには散々付き合ってもらってるし」
俺はゆっくりと顔を上げて篠森の方に顔を向ける。
「……私も、大丈夫だから」
篠森はニコリと笑った。
「お、ケーキ来たよ」
テーブルにケーキと紅茶、コーヒーが並べられる。




