第114話 アフタヌーンティーの日程
メッセージが届いた事を知らせる音がスマホから響く。俺はスマホを確認して、先輩からの連絡なのだと理解した。
風呂上がり、しばらくぼうっとしていた所だった。メッセージは『放課後の話の続きなんだけどさ』と言う物。時刻は八時を過ぎている。
「ん……」
俺はベッドに倒れ込みながらチャットアプリを開く。瞬間、先輩の『わたしは日曜日がいいんだけど』とメッセージが続け様に届く。
「了、解です……と」
俺が送信すると、同時に篠森からも『分かりました』と届く。俺が『時間はどうしますか?』と質問をすると、すぐに既読が一つだけ付いて、途端にスマホが鳴り響く。今度のは通話だ。
俺は名前を確かめてから応答する。
「あの、もしもし……?」
俺が最初にそう言うと『お、優希くん。こんばんは〜』と金谷先輩の声が返ってくる。
「どうしたんですか」
『え? 優希くんと楓ちゃんの声を聞きたくて』
学校で会えば聞けるだろうに。
「そうですか」
『あれ……楓ちゃんは、まだかな』
グループ通話に入ってきていない事に金谷先輩は疑問に思っているらしい。
「風呂とかじゃないですかね」
風呂に入りながらスマホを弄ると言うのは篠森はしないだろう。
『お、じゃあパジャマが見れるかも』
そう言って先輩は早速、自分のスマホのカメラをオンにして待機する。先輩も風呂上がりだろうか。格好は俺と似た様なラフなTシャツスタイル。
『ほら、優希くんも』
「俺は別に……」
『見られて困る物でもあるの〜?』
「いや、ないですけど」
篠森を部屋に上げた事もある。
流石に映せない物があると言う訳でもない。無理だ無理だと絶対に断る理由もない。俺はベッドから立ち上がり、机の方に移動してからカメラをオンにする。
『お、映った……って、優希くん。わたしとほぼ同じ恰好じゃん!』
「そりゃ被りますよ」
風呂上がりのTシャツなんて誰だってやってる。別に珍しくもない。
『裸とかでも面白かったのに』
「先輩の期待に応えられなくて悪いですけど、俺は服着て寝る派です」
裸で寝ようとは思わない。
『お、わたしもだ。まあ、夏はちょっと寝苦しくて下着だけだったりもしたけど』
何の話だ。
俺は何とも言えなくなってしまう。
『う〜ん、楓ちゃんが来るまでどうしてよっか』
「どうしてよっか、って……」
今、何が出来ると言うのか。
『ふぁああ、ちょっと眠くなってきた』
「お疲れですね」
俺の言葉に「まあね」と上の空の様な声が返ってくる。
「補講、結構遅くまでやるんですか?」
『そうだね。七時ぐらいまで。三年生全員参加の。もう非効率の極みだよね』
「全員、ですか……?」
先輩が言うには、補講は受験生全てがもれなく参加義務のある制度らしい。
「そうなんですね」
『そうなんだよ。サボったら怒られるだろうし』
先輩が長い溜め息を吐き出した。
『別にそれサボったからって、勉強をサボるって話でもないのにね』
やれやれと肩を竦めて。
『まあ、勉強時間だけは多いと思うけど』
先輩としてはあまり嬉しくはない物らしい。話を聞いていれば、俺としてもよく分からないとも思う。
『ん……愚痴になっちゃったね。ごめんね、付き合わせちゃって』
「いや、俺は構いませんけど……」
ただの聞き手でも役に立ってるなら、それはそれで良いモノだ。
『優希くんも言いたいことあったら言っていいんだよ』
「……そう言われても」
無理強いとかじゃないからね、と先輩はケラケラと笑う。
『いやぁ、本当に眠い。お風呂入ったし……結構限界でさ。ごめん、ちょっとベッド行くね』
「そうですか」
俺は起きてろと強制する気もない。
先輩が眠いのなら、この通話も今日はここまでとして切ってしまっていい。
『もし寝ても、楓ちゃんと優希くんが起こしてくれるって、信じてるから』
先輩の画面が真っ暗になる。
だがカメラが切れた訳ではないらしい。直ぐに枕を抱えてうつ伏せになっている先輩の顔が映し出される。
『何か話そうよ、目が覚める良い感じの話』
「俺にそんな話のストックないんですけど」
『じゃあ、わたしオリジナルの……怖い、話……を』
既に朦朧としているのか。
ベッドに倒れた先輩はうつらうつらと舟を漕いでいる。
「金谷先輩?」
『…………』
反応が返ってこない。
俺は再度「先輩?」と呼びかける。
『あ、ごめん……一瞬、異世界に旅立ってた』
「いや、眠かったら寝て良いですって」
『楓ちゃんのパジャマを見るまでは……絶対に寝落ち、しませんっ!』
とは言うものの先輩の目蓋はゆっくりと落ちていく。
先輩の為にも早く来てやってくれ、篠森と思わずにはいられない。
それからどれほどか。カメラの向こうの先輩の欠伸が伝播して、俺も思わず大口を開けていると。
『すみません、先輩に返信してお風呂に入ってました』
と、篠森の声が響いた。
『あ、待ってたよ楓ちゃん。カメラ、オンにして〜ぇ……』
先輩のふにゃふにゃとした声が響いた。
先輩が目を擦って、さっきよりも大きく目を開く。
『おお、楓ちゃんのパジャマだ』
淡い桃色のパジャマを着た篠森が映される。風呂上がりだからか、僅かに頬が火照っている。
『あの、それで……これは何の通話ですか?』
「ああ、取り敢えず日付決まってな」
俺が日曜日に行く事になった事と、次の問題として時間はどれくらいにするかと言う話を篠森に伝える。
日曜日と言うのは篠森も問題ないらしい。時間はケーキという事で昼過ぎ、午後三時にでもしようと先輩が提案してきた。
理由は『おやつって言えば三時だし。ケーキといえばアフタヌーンティー。アフタヌーンは午後だよ?』との事。




