第112話 篠森のAnswer
いつも通りに、家を出て。
「あ、甲斐谷」
登校路を歩いていけば、見慣れた図書館の近くで篠森が呼びかけてくる。俺は「おはよう、篠森」と、いつもの調子で挨拶をすれば「うん。おはよ」と篠森も俺に挨拶を返してくる。
「あのさ」
それから話があるのか。
歩きながら篠森が切り出したのに対し「ん?」と相槌を打つ。
「……行きたい所、決まったから」
少し、驚きだった。
まだ決めかねていると思っていたから。
「決まったのか」
俺が思わず言葉を繰り返すと、篠森はコクリと小さく頷く。
「あ、あぁ……それで、行きたい所ってのは」
篠森に尋ねれば「新しくケーキ屋出来たって聞いて、そこに」と答える。
「……ケーキ屋」
「ケーキ、苦手?」
俺が首を横に振ってから「ケーキは割と好きな方だぞ」と言っても、篠森は少し不安な顔をしたままだ。
「じゃあ、先輩にも」
この事を。
行く場所の話。
後は日程だが、その辺りは先輩とも相談して、どちらかに決めよう。
「……本当にケーキ屋で良かった?」
篠森に言われても、俺には特に行きたい場所はなく。もし出てこなければ、俺が提案してたのはいつものファミレスだったろう。決まった何処かでなければならない理由も薄く、学園祭の相談こそが一番の理由なのだから。
「おう、大丈夫だよ」
ならば篠森の行きたい場所にするのが、俺にとっての最良だ。後は先輩がどう答えるかだが、そこは特に問題は無いように思う。
「……まあ多分、先輩も篠森が行きたい場所だってなら断んないだろ」
何となくではあるが、金谷先輩ならば「お、良いね」と、ケーキ屋の提案に直ぐに乗っかる様な気がする。
「そのケーキ屋ってのは、どんな店なんだ?」
一先ず、ケーキ屋に行くのは良いとして、そのケーキ屋の何が篠森の琴線に触れたのかが気になる。
「え……と、最近出来た店で」
ふと、篠森が立ち止まる。
俺も足を止める。
篠森はスマホを取り出して、画面を見ながら説明を始める。
「フルーツケーキが、ほら」
そう言って篠森がスマホの画面を見せてくる。表示されたのはいちごのタルトか。鮮やかな赤色がタルト生地の上に敷く様に置かれている。
「これは……確かに」
見栄えも良く、心惹かれる。
「それで店内飲食も出来るみたいで」
スマホを戻して画面をタップして、別の画像を表示させてから。
「ほら……コーヒーとかもあるんだって」
再び俺に見せる。
篠森の言う通り、確かにコーヒーカップが写っている。ケーキ屋だが、喫茶店としての機能も持ち合わせているらしい。
ここなら落ち着いて話しも出来るだろう。
「俺も食いたくなってきた……まあ取り敢えず、先輩にも伝えないとな」
流石に今すぐメッセージを送ったとしても先輩が目を通すかも分からない。なら、帰る時でもいいだろう。
「じゃあ、私が今日中にグループチャットに送っておく」
それに学校も近づいてきてる。
スマホはもうしまい込んでしまって、帰りにでも良いだろう。篠森はスマホの電源を切り、リュックの中に入れる。
「ん、分かった。よろしくな」
「うん、私が行きたいって言ったんだし」
まあ、それもそうか。
これは篠森に任せよう。とは言え、金谷先輩に学校で会う事があれば俺から話しても良いだろう。
「ありがとな、篠森」
一先ず、お礼を。
「ん……?」
篠森は不思議そうに首を傾げる。
「場所、探してくれて」
ただ、篠森は首を横に振り「言ったじゃん」と微笑んで。
「私が行きたいんだって。甲斐谷にも金谷さんにも付き合ってもらうだけだから」
だとしても。
などと思っていれば篠森は「じゃあ、また放課後」と先に校門を越えて、校舎の中に入って行ってしまう。
「……また放課後」
聞こえてないだろうが、告げる。
俺もゆっくりと生徒玄関に向かい、扉を開く。そして鷹揚と靴を履き替える。廊下に出れば既に篠森の姿がない。
先に教室に行ったのか。
「……うお、っと」
教室から飛び出してきたクラスメイトにぶつかりそうになるも、何とか避けて教室に入る。
倉世はまだ居ないのか。
いや、学校には着いてるんだろう。
「あ、甲斐谷くん」
俺が席に鞄を置いたのを見たのか、水戸部が近づいてくる。
「どうした?」
今日も学園祭の手伝いがあるんだろうかと思っていれば、水戸部の連絡は真逆で「今週はもう大丈夫だから。多分、来週から参加する人数増えると思うんだよね」との事。
そう言えば先輩も言っていた様な気がする。
「ん、そうか」
「だから、ホームルーム終わったら今週はもう、すぐに帰っていいから」
やれる事も無いからさ、と水戸部が言う。
「分かった。伝えてくれてありがとな」
「こう言う連絡は大事だからね。まあ何回も聞かれても私も大変だしさ。じゃ、そう言う事だから」
水戸部は俺の席から離れていく。
元々、いつもの様に友達と話していたらしい。篠森も聞きに行くかして、水戸部に言われるんだろう。
なら、今週は問題ない。
帰り際になるまで、篠森に伝えられなくとも大丈夫な筈だ。
と言うよりも、一緒に帰れる筈なのだ。




