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第106話 使用用途

 

 玄関の扉が開く音がする。

 俺はベッドから立ち上がる。

 

「ただいま」

 

 階下から父さんの声が聞こえた。俺は階段を下り、一階のリビングに向かう。リビングには夕飯の準備をする母さんと、帰ってきたばかりで着替えていない父さんがいる。

 

「おかえり、父さん」

 

 俺が父さんに向けて言えば、父さんは「ただいま」と。そんなやり取りを見てから、母さんは不思議そうに「どうしたの、優希? まだご飯出来てないわよ」と呟く。

 

「分かってるって」

 

 別に夕飯ができたと思って下りてきたわけではない。俺は父さんに聞きたい事があったのだ。

 

「父さん」

「ん……ちょっと待て。先に着替えてくる」

 

 俺が用件を伝える前に父さんはリビングを出て行く。階段を上っていく音が聞こえる。俺は椅子に座りテレビを点けた。

 

「優希、お父さん戻ってくるまで暇?」

「まあ、暇だけど……」

 

 そんな事を言ったって、母さんに頼まれていた風呂掃除は既に終わらせている。父さんが戻ってくるまで一〇分も掛かるか、どうか。大した事は出来そうにない。

 

「大きめのお皿取って」

 

 俺は母さんの言葉に従って皿や茶碗の準備に取り掛かる。とは言っても、そんな程度。五分と掛からずに終わる。

 

「これで良い?」

 

 俺が母さんに確認をすれば「そうね」と考える様な顔を見せる。

 

「取り敢えずは」

 

 俺は椅子に腰を下ろしてテレビを眺める。数分ほどして父さんの足音が聞こえてきた。俺はゆっくりと腰を上げる。

 

「ふぅ……」

 

 父さんが溜息を吐きながら椅子を引いて、座ろうとする。

 

「お父さん」

 

 ただ、母さんが呼び止める。

 

「ん、母さん?」

 

 父さんは左手を椅子の背もたれに掛けたまま、母さんの居る方に顔を向ける。

 

「さっき優希が何か言おうとしてたでしょ」

 

 母さんに言われて思い出したのか、左腕を下ろした。

 

「そう言えばそうだった」


 忘れてたのか。

 いや、俺は何も伝えてないから仕方ないか。


「それで何だ」

「ん、ああ。ええ、と……家に段ボールってある?」

 

 俺が父さんに聞けば「まあ、あるが」と首を傾げながら答える。

 

「何に使うんだ?」

「いや、学園祭で持ってきてくれって言われてさ」

「成る程な」

 

 父さんが腕を組んで頷く。

 

「飯食べてからにするか?」

 

 それは段ボールを取りに行くのを、という事だろう。俺は別に後でも先でも構わないのだが。

 

「今、取りに行っちゃったら? ご飯できるまでもうちょっと掛かるし。お父さん、忘れちゃうかもしれないし」

 

 母さんの言葉に父さんと俺は顔を見合わせる。

 

「そうするか」

 

 バツの悪そうな顔をして呟いた父さんに、俺は頷く。

 段ボールを置いてあるのは物置部屋らしい。開いたままでは空間を圧迫するから畳んで仕舞っているのだと。

 ただ、的を作るというのなら全く問題はないだろう。

 

「にしても学園祭か。優希のクラスは何やるんだ?」


 そういえば言ってなかったんだったか。俺は「射的」とだけ答える。


「射的で段ボールか……」

 

 父さんは射的をする上での段ボールの使用用途がわからないのだろう。

 

「的作るのに使うんだよ」

 

 水戸部はそう言っていた。

 

「的って、お菓子とか玩具じゃないのか?」

 

 父さんの疑問に俺は篠森の言葉をそのまま伝える。それじゃ一つも取れない人も出てくるだろうから、と。

 

「そう言うことか……結構良い案だな。上限も決められるし、最低一個は何か貰えるからな」

 

 小さい子供も楽しめるな、と父さんが笑う。

 

「そうだな……俺も優希のクラスの射的やりに行くか。母さんと一緒に。土曜日と日曜日だろ?」

「うん」


 別に、父さんと母さんが学園祭に来ることを俺は拒絶しない。

 

「タイミングが合えば、俺も居るかもな」

 

 別に、この程度は良いだろう。

 実際に俺が居ることは無くても、それはタイミングが悪かったって話になるのだ。

 

「ほら、段ボール。これで良いか? 数は俺には分からん」

 

 物置部屋の扉を開き、父さんは中にある畳まれた段ボールを俺に何個か渡してくる。

 

「大丈夫だと思うけど……」

 

 渡された段ボールは中々に大きい。

 

「どうやって持ってく」

「それは普通に」

 

 手で持っていくつもりなのだが。

 というか、これ以外にないだろう。

 

「こうやって」

 

 俺は段ボールを抱え込んで見せる。

 少し滑り落ちそうな感覚があり、多少、面倒くささは感じる物の仕方ない事だと割り切るしかない。

 

「……俺も母さんも仕事あるからな。運んでやるとも言えない」


 俺も、その事は分かっていたから。


「取り敢えず紐で縛るか?」

 

 紐。

 

「まあ、それは飯の後にするか」

 

 俺は父さんの後をついていきリビングに戻れば夕飯の支度を終えたのか、母さんが椅子に座りテレビを見ていた。

 

「あれ、もう良いの?」

 

 父さんは「後は食べてからだ。母さん、ビニール紐ってあるか」と確認をしていた。

 紐というのはビニール紐のことだったか。

 

「部屋にあったと思うけど」

「ん、そうか」

 

 父さんが腰を下ろす。

 母さんはそれを見てから、俺の方に顔を向けて。

 

「じゃ……優希、ご飯装ってちょうだい」

 

 今、ここで立っているのは俺だけ。

 母さんとしても丁度よかったんだろう。俺は用意されている人数分の茶碗に炊飯器から米を装っていく。

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