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第105話 段ボール


 放課後、俺は荷物を持たずに席から立ち上がり、水戸部の方へと近づく。

 

「水戸部」

 

 水戸部は帰りの準備をしているようで、鞄の中に教科書やプリントを挟んだクリアファイルを詰め込んでいる。

 

「ん、甲斐谷くん?」

 

 詰め込み終えてから、水戸部は漸く椅子に座ったまま顔を上げた。

 

「今日は何か手伝う事あるか?」

 

 水戸部は「今日のとこは……うーん、特に無いかな」と言い、俺は自分の席に戻ろうとして。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 何かあったのか、水戸部に呼ばれて俺は振り返る。座ったまま上半身だけを俺の方に向けて捻っている。

 

「出来ればで良いんだけどさ、射的の的作る用の段ボールとかって用意できる? 一応グループの方でも呼びかけるけど」

「分かった、探してみる」

 

 家にあればそれで良いだろう。

 と言っても、実際家にあるかどうかはわからないし、どの程度の量を水戸部が求めてるのかも分からないが。

 

「よろしく」

 

 探してみるだけはしよう。

 なかった時は……申し訳ない。水戸部も流石に俺だけに任せると言うつもりも無いとは思うが。

 

「ああ」

 

 俺はそう返事をしてから、机の上に置いてあった鞄を持って廊下に出る。

 

「篠森」

 

 今日はここで待ってたのか。

 俺は篠森の方に近づく。

 

「ん、甲斐谷」

「……今週から残るんじゃなかったのか?」

 

 先週は、来週から頑張ると言っていた様な気もするが。

 

「水戸部が今日は大丈夫だって」


 何だ。


「先に聞いてたのか」

 

 もしかして廊下で待ってたのは、それが分かってたからなのだろうか。

 

「…………」

 

 今日のどこかでこの事を教えてくれればよかった、と思っても機会はまず無かったか。


「……仕方ないな」


 俺は篠森には聞こえない様な、外には響かないような声で言う。

 教室の中などというのは、倉世の目があるのだから。

 

「そうだ、篠森」

 

 学校から出る前に、下駄箱から靴を取り出し上履きから履き替える。俺は生徒玄関の扉を押さえ、篠森が出るのを待つ。

 

「うん……?」

 

 篠森が外に出たのに俺も続く。

 

「学園祭の最終確認の事なんだけどな」

 

 先週の金曜日に先輩と連絡を取ったと言う事を、篠森に伝える。

 

「その最終確認って……いつ?」

「土曜日か日曜日のつもりなんだけど……篠森は大丈夫か?」

 

 後からの確認になってしまったが。

 

「うん」

 

 篠森も特に予定は入っていないのか、日付は問題ないらしい。

 

「ああ、それで篠森……どこか行きたい所とかあるか?」

「え……?」

 

 俺の突然の質問に篠森が驚いたのか、疑問の声を零す。

 

「……先輩に言われたんだよ。俺たちも考えとけって」

 

 とは言っても直ぐには考えつかないのは、俺と同じらしい。

 

「行きたい所……」

 

 何処かあるか、考えているのだろうか。

 

「まあ、遠出は出来ないし、バッティングセンターって訳にも行かないけどな」

 

 話し合いをするのだから近場で落ち着ける場所で良いとは思う。例えばファミレスとかでも。

 

「そう、だね」

 

 俺はそこまで答えを急いでいるわけでもない。

 

「……別に今日、直ぐじゃなくて良いからな?」


 金曜日になっても問題ないだろう。

 泊まりがけという訳でもないだろうから。


「あ、うん」

 

 篠森の頷きが聞こえて、俺は顔を前に向ける。土曜日か日曜日だ。まだ時間はあるのだし、問題はない。木曜日か金曜日あたりに決まればいい。

 

「……そう言えば」

 

 篠森が小声で。

 

「どうした?」

 

 何が気になるんだろうか。

 

「あのさ、甲斐谷」

 

 俺は篠森の方に顔を向け直す。

 

「最終確認って、何を確認するの?」

 

 そう言われて、特に何を確認するかと言えば作戦についてだとか。後は。

 

「いつやるか……とか、か」

 

 学園祭は二日間に渡って開催される。

 その内のどこで作戦を実行するかをすり合わせる必要もある。

 

「ほら、学園祭二日あるだろ?」

 

 篠森は「あ、確かに」と納得した様子で呟く。

 

「細かくはもっと近づいてからじゃないと分からないけどな」

 

 でも、大凡は決められるだろう。決めておいた方が後の事も対応はしやすくなる筈だ。

 

「金谷先輩の当日の仕事とか」

 

 未だ確定してない事もある。

 当日のクラス出展での割り振りも。俺は無理矢理にでも抜け出すのだが。

 

「倉世の事、任せても良いんだよな……?」

 

 先輩の作戦に篠森の存在は確実に必要で、俺は改めての確認をする。

 

「……うん」

 

 小さな返事が響いた。

 

「篠森、ありがとな」

 

 篠森は頷くだけだ。

 後の事は先輩と一緒に確認して、作戦を実行に移せるように整えていく。

 

「じゃあね、甲斐谷」

 

 今日の所はここまでだ。

 俺は一人になってからスマホを見る。既に水戸部からグループチャットにメッセージが送信されている。内容は俺に言った通り『出展で段ボール使うから、ある人は持ってきてください』と。

 

「段ボール……父さんに聞けば分かるか」

 

 父さんが家に帰ってきたら聞いてみるか。

 俺はスマホをズボンの右ポケットに戻す。明日か、明後日か。どれだけの段ボールが集まるのだろうか。どれだけがこのメッセージを見て動き出すのだろうか。


「俺は出来る限り」


 やれる事をしなければならないのだ。

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