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第104話 夜電話

 俺は着替え終えて風呂場から出て、リビングにいる父さんに一言告げる。

 

「父さん、上がったよ」

 

 チラリと、俺の方を一度見て「分かった」と答えたのを聞き、階段を上る。部屋に入る前に母さんにも同じ様に伝えてから自室の扉を開く。

 俺は真っ直ぐにベッドに向かい、どかりと腰を下ろす。

 そのまま、俺は「はあ……」と溜息をこぼしながら仰向けに背中から倒れ込んだ。


「…………」


 夕食も終え部屋の中。充電器につなげたスマホを見て、一つ思い出す。まだ先輩と連絡を取ってない。

 

「…………あ、そうだ」

 

 俺は先輩にメッセージを送る為にスマホに繋がった充電器のコードを右手で引き、手繰り寄せる。

 体は天井を向いたまま、スマホを右手で持ち上げて金谷先輩に送る文面を考える。

 

「学園祭の最終確認がしたいんですが……と、これで良いか」

 

 慣れた手つきで文字を打ち込み、特に見返す事もせずに俺がメッセージを送信する。一分も待たずに先輩から『わかった』と『良いよ』という返信と、いつも通りのサムズアップのスタンプが続く。

 『来週の土曜日か、日曜日に』と、俺がまた送れば、直ぐに既読がつき『了解』と返ってくる。

 

「早いな」

 

 これだけ返信が早いという事は、先輩は暇だったのかもしれない。なんて思っていれば右手に握るスマホから着信音が鳴り響く。突然の音に驚き右手が緩んだ。スマホが俺の顔面に重力に従って落下してくる。

 顔面中央にスマホがぶつかる。

 

「痛ったぁ……」

 

 鼻を撫で、少し涙が両眼に滲むのを感じながら、ベッドの上に転がるスマホを手探りで探す。拾いあげ名前を確認してから、俺は応答のために画面に表示される電話のマークをスワイプする。

 

「はい、もしもし……?」

 

 痛みに耐えながらの震える声で先輩からの電話に応答する。

 上体を起こし、スマホに繋がっている充電器を外す。

 

『あ、もしもし? わたしわたし』

 

 この対応。

 直ぐに名前を名乗らないあたりに詐欺犯と似たような怪しさもあるが、相手はわかっているのだから問題ない。

 

「金谷先輩」

 

 名前を口にすると先輩が『こんばんは、優希くん』と返してくる。

 

『あ、さっきの話の事なんだけど……』

 

 俺が送ったメッセージのことだろう。俺が「はい」と相槌を打てば、先輩は続きを口にする。

 

『土曜日か日曜日に何処かに行くってので良いんでしょ?』

「はい」

 

 俺が言いたいのはそれで合っている。思い返してみれば、言葉が少なかった様な気がしてくる。

 

『それって、楓ちゃんも来るんでしょ?』

「そのはずです」

 

 篠森も頷いていたから了承は得たはずだ。

 何より、作戦には篠森も関わってくるのだから。

 

『優希くんは何処に行きたいとかある?』

「いや、特には……ただちゃんと話して確認したいので、流石にバッティングセンターとかは」

 

 遠慮したいという旨を告げれば、先輩も『分かってるって〜』と言う。

 

『わたしも考えるけどね? 行きたいとこ優希くんも楓ちゃんと考えといてよ、来週までに』

「分かりました」

 

 俺が取り敢えず了承を返せば先輩は『そう言えば、別の話になるけどね』と先輩が呟く。

 

『こっちの話も大事だけど、クラスの出展の方はどんな感じ?』

 

 質問に対して、俺は曖昧に答える。

 

「それは、まあ……」

『順調?』

「いや、順調かどうかは……」

 

 俺もよく分かっていない。

 今日でどれほど進んだのかも。全体でどの程度の物なのかも。

 

『そっか〜……まあ、他のクラスのも連絡上がってこないし』

 

 進捗は何処も似たような物らしい。

 

『学園祭の準備は再来週からが段々本格化してく感じだね』

「そうなんですか……」

 

 俺には三年生の事だとかはよく分からないが。

 今は補講で放課後の予定が埋まってしまっている三年生も学園祭となれば、一時的とは言え準備に奔走するのか。

 どの道、忙しいと言うのに変わりは無いんだろう。

 

『そうなんだよ〜。まあ色々あるけど、お互い頑張ろうね』

「そうですね、お互いに」


 色々と。

 作戦を共有している者同士。


『じゃあ、そろそろ切るね』


 俺は電話が切られる前に最後に一つ、気になったことを聞く事にした。


「あの、金谷先輩」

『うん?』

「そういえば……何で電話を?」

 

 別にチャットでも出来たろうに、なんて思って尋ねれば『こうして話した方が早いと思ってさ〜』と返ってくる。


「確かに」


 話した方が言葉のニュアンスだとかを誤解なく伝えられる。


『後は大丈夫かな、優希くん?』

「はい、大丈夫です」


 先輩が良いと言うのなら、俺にも引き延ばす理由もないから。

 

『おやすみ、優希くん。今日は楽しかったよ、また来週〜』

「はい、おやすみなさい」

 

 そうして先輩との通話が切れる。

 俺はスマホの画面を数秒ほど見つめてから長く息を吐いて、電源を落としてベッドの上に投げる。

 

「あとは……」

 

 俺が今日にやらなきゃいけない事はない。それに明日は休日なのだから。緊急性の高い事は無いはずだ。

 

「もう寝るか」

 

 電気を消して、瞼を落とす。

 階段を降りていく音が聞こえる。多分、下りて行ったのは母さんだ。父さんが上ってくる音は聞こえなかったから。

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