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第102話 運搬

 学園祭の方針が決まり、数日が経った。

 水戸部がクラスの全員に連絡し、ただ今の所は大きな動きが見られない。

 

「あ、甲斐谷くん! 待って待って」

 

 登校して靴を履き替えていると後ろから水戸部に声を掛けられる。俺は上履きにしっかりと履き替えてから、振り返り「おはよう」と返すと「おはよー。あのさ、早速仕事お願いして良いかな」と言ってくる。

 

「どうした?」

 

 まずは仕事内容を聞いてみることにして。

 いや、断る気はないが。

 

「あー……えーと、さ。射的の台と銃が今日の放課後に学校に来るんだって。それ教室に運ぶの手伝って貰って良いかな?」

「了解」

 

 俺が短く返せば、水戸部は頬を緩めて「本当? 助かる〜」と安心した様な吐息混じりの声で言う。

 

「台って言うくらいだし、それなりに重いだろうしさ。階段上るってなったら」

 

 男手が欲しいよね、と。

 水戸部は左足で片足立ちになり、右の上履きの踵を指先で引っ張り上げた。

 

「まあ、これで人員は確保できたし良かったよ。じゃあ放課後よろしくね」

 

 そう言って水戸部が廊下を駆けていく。俺も下駄箱を抜けて教室に向かう。

 

「……どこに置いとくんだろうな」

 

 流石に教室に置いておくわけにもいかないだろうに。いくら学園祭の準備があるとは言え、授業はそれまで普段通りに進むのだから。

 

「後で水戸部に確認すれば良いか」

 

 別に俺が気にすることでもない。

 その辺りの事なら実行委員の水戸部が知ってるんだろうし。

 

「っと」

 

 俺は階段を上り切った所で長く息を吐く。何となく、階段を上って疲れた様にも見えるだろうか。

 いや、どうでも良いか。

 取り敢えず教室に行こう。

 

「…………」

 

 俺は後ろ側の扉を開いて教室に入り、自分の席の椅子に腰を下ろす。教室に篠森は居るが、どうにも倉世は居ないらしい。

 暫くしてホームルーム開始の五分前くらいになってから教室に倉世が入ってきた。既に学校には着いていたみたいだ。

 

「何話してんだか」

 

 篠森と倉世が話しているのを何秒か見つめて呟く。それから、さっと目を逸らし、ホームルームの開始を待つ。

 

「────よし、おはよう……全員居るな。ホームルーム始めんぞ」

 

 先生が入ってきて教壇に乗り、そう告げる。教室は静かになり、その様子に何を言うでもなく淡々と先生は特筆する様な事のない連絡事項を話し「じゃ、終わり」と言って、直ぐに教室を出て行く。

 俺は授業の準備を始め。

 

「一限は……」

 

 それからいつも通りに授業が、一日が進み、あっという間に放課後になる。

 

「……ふぅ」

 

 ホームルームも終わり、俺が立ちあがろうとすると名前を呼ばれた。

 

「甲斐谷くん」

「ん、水戸部……?」

 

 水戸部が俺の机の前に、両手を腰に当てながら立っている。

 

「忘れてないよね?」

 

 と言うのは、朝に言われた台を教室に運ぶと言う事だろう。俺も今、その事を聞きに行こうとしていたんだ。

 

「勿論、覚えてる。そんな直ぐに忘れないからな」

「じゃあ、取り敢えず玄関まで付いてきて」

 

 水戸部に言われて俺も椅子から腰を上げる。

 

「他には居ないのか」


 俺以外の誰かは。


「あー、声かけるの忘れてさ。まあ、二人居れば大丈夫でしょ」

 

 居ないのか。

 それで結局、俺と水戸部だけという訳か。そう思って教室を出れば廊下には変わらずに篠森が立っている。今日も一緒に帰るつもりだったんだろう。

 俺は申し訳なく思いながら首を小さく横に振ると、篠森は頷いて俺たちとは別方向に歩いて行った。

 

「もしかしたら、二回往復しなきゃだけど」

 

 階段を降りながら水戸部が苦笑いする。

 

「でも、こき使って良いって言われたし」

 

 当然、手伝うんでしょ。

 水戸部から、そんな風に言われている様な気がする。

 

「まあ、俺が言った事だしな」

 

 それを今更無しにするつもりもない。

 運ばれてきた荷物を俺と水戸部で持って教室に運ぶ。

 

「よいしょっと……」

 

 教室まで運んだ、組み立て前の箱に入ったままの射的台を置き、また銃を持ってくるために来た道を戻る。先程よりも時間は掛からずに運び終えて、教室の床に並べる。

 

「お疲れ、甲斐谷くん」

「ん……おう」

 

 一先ず、教室に運んだは良いが。

 

「これ、ここに置いてていいのか?」

「だよねー……」

 

 別にあったとしても俺は良いが、他のところに置いた方が邪魔だとは言われないだろう。

 

「じゃあ、空き教室に持ってく? それに張り紙しとけば良いでしょ。あと一踏ん張りお願い、甲斐谷くん」

 

 俺と水戸部でまた射的台を空き教室まで運ぶ。

 

「銃の方は私だけでも出来るし、甲斐谷くん。後は大丈夫だからさ」

 

 空き教室の隅に置いて、水戸部は俺の方に顔を向ける。

 

「もう帰って大丈夫だよ」

「そうか」


 水戸部が言うなら、良いんだろうか。


「まあ、居ても今日はもう頼める仕事無いからさ」

 

 確かに組み立てた所で的は無い。

 デモプレイも満足にできないだろう。なら、これ以上残る理由もないという事だ。

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらって。お先に」

 

 俺は断りを入れてから、空き教室を出る。

 

「……って、荷物取りに戻るんじゃん」

 

 俺の後ろから、ひょっこりと出てきて隣に並び水戸部が言う。銃も荷物も教室にあるのだから、これはまあ当然で。

 俺も水戸部と同様、微妙な笑みを浮かべる。

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