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第101話 Useful

 

「お前ら、ちゃんと学園祭の準備進んでるか?」

 

 先生の言葉に実行委員の女子は悩ましげな顔をした。他のクラスメイトは実行委員の彼女から何も言われてないから、と言った感じで。

 

「ちゃんと間に合わせろよ? もう一ヶ月後だぞ」

 

 分かってると思うが、と先生は付け足して。

 

「学園祭には外部のお客さんも来るんだ。間に合いませんでした、なんて訳にもいかないからな」

 

 ホームルームの終わりを告げれば、それぞれに。運動部はいつも通りに部活に向かい、何人かが教室で話して。

 

「…………ほっ、と」

 

 教壇の上に女子が上がり、教卓の後ろに立つ。

 実行委員の。

 

「んー……結局、ほとんど残らないよね」

 

 力なく笑って、仕方ないかと溜息を吐き出す。教室に残ったのは俺と篠森に、何人かの帰宅部。男子の方の実行委員は部活に向かったらしく、教室に見当たらない。

 

「まあ、いいや。とりあえず、ここにいる人だけでも学園祭について考えていきたいと思います」

 

 手をパンパンと叩いて注目を集める。

 

「夏休み中も少し話し合いしたよね。音楽がどうとか。それはまず置いておいて、具体的な景品とかを決めようと思います」

 

 射的台と銃については夏休み中にも聞いたが、今回のは景品について何か意見はないかという話だろう。

 

「まあ、お菓子とかで良いんじゃね?」

 

 席に座ったまま男子の一人が発言すると、他の生徒も頷く。俺もその意見に同意だ。

 

「おもちゃとかはちょっと高いし」

 

 周囲の反応を確認して彼は続けた。

 

「成る程ね……確かに。じゃ、お菓子だけの方が良いかな」

 

 右手に持ったチョークを走らせ、黒板に出た意見を彼女自身で書いていく。そのお菓子はどうするか、となればスーパーで適当に買うのでも良いんじゃないか、と意見が出てくる。

 

「ありがと! じゃあ、お菓子は決定って感じで良いですか? 他に何か意見とか質問があればお願いします」

 

 俺も何か。

 

「……どうする」

 

 言わないと。

 とは言っても、どうするのが良いんだろうか。思いつかない。良いアイデアは出てこない。

 

「……あのさ、水戸部(みとべ)

「ん、篠森。どうしたの?」

 

 実行委員は首を傾げて篠森の方に目を向ける。

 

「……お菓子ってそのまま的にする?」

「そのつもりだけど……」


 実行委員の……水戸部は俺たちの方を見てくる。俺たちも水戸部と同じでそんなつもりだったから。


「一個も倒せなかったら……?」

 

 他のクラスの生徒や子供が遊ぶとして、射的で景品を取れない可能性は充分にある。夏祭りの屋台は商売としての側面も大きいが、学園祭では毛色が違う。

  

「あ」

 

 水戸部も篠森の言葉によって気づいたのか。

 

「……うーん、確かに。どうしよ」

 

 俺たちのクラスの射的は値段設定も、難易度も未だに決まってない。水戸部は暫く腕を組んで唸る。

 

「あっ!」

 

 何か思いついたのか水戸部は大きな声を出す。

 

「なら、的は自分たちで作って点数制にするとかは? 点数で景品が決まる様にして。それなら一個も倒せなくてもお菓子が貰えるって感じにできると思うんだけど……」

 

 水戸部の意見は篠森の指摘に応えられている。それならば景品が一つももらえないと言う事にはならない筈だ。

 

「それなら、どうかな?」

「多分、大丈夫だと思う」


 水戸部の確認に篠森が短く答える。


「ありがとね、篠森」

「私は別に……ちょっと聞いただけで」

「いやいや、本当にありがと。そう言う疑問も大事なんだって」


 水戸部は篠森の方に落としていた視線を上げる。


「取り敢えず今日はこれで解散かな。他の人にも確認しないといけないし。じゃあ皆んな、放課後にごめんね? お疲れ様でした」

 

 少しは、前に進んだのか。

 俺は結局何も出来ていないと言うのに。何だかんだと、話は前に進むらしい。解散という声に残っていた全員が帰り始める。

 俺も立ち上がって、教壇の方に向かう。

 

「……なあ」

 

 黒板に書かれた文字を消しているところに俺は呼び掛ける。

 

「甲斐谷くん、どしたの?」

 

 水戸部は上げていた右腕を下ろして、俺の方に振り向く。

 

「いや……役立たずで申し訳ないと思ってな」

「おおっ。いきなり自虐ネタかます?」

 

 驚いた様な顔をしてから、水戸部はヘラヘラと笑って「まあ、そんな気にしないでよ」と言う。

 

「それにこっから頑張ってもらうからさ、景品のお菓子の買い出しとか、的作るのとか。あ……後、台の組み立てとかも。だから覚悟しといてね」

 

 水戸部の言葉に少しホッとした。

 

「俺に出来ることなら、いくらでも」

 

 何となく、使われる事で少なくとも役に立たない自分ではなくなる様な気がするから。

 

「言質取ったから」

 

 水戸部がしたり顔を浮かべる。

 

「そういえば、甲斐谷くんって思ったより、こう言う学校行事に力入れるタイプ?」

「どうした……?」

 

 何でそんな質問を。

 

「いや、ちょっとそんな風に思っただけだからさ」

 

 別に真剣な話じゃないよ、と水戸部は言う。

 

「そう、か」

 

 俺はただ、自分の都合でそうしたいだけ。少しでも罪悪感を薄れさせたいだけだ。

 クラスに貢献したような気分になって。


「甲斐谷くん、今日もありがとう」


 黒板に書かれた文字を消し終えた水戸部は、俺に振り返って「じゃ、また明日ね」と言ってくる。


「おう、また明日」


 俺は教室を出る。

 廊下にはいつも通りに篠森が立っている。他には誰もいない。


「水戸部と何話してたの?」

「ああ……学園祭の話。こき使ってくれって」


 ニュアンスとしてはそんな感じだ。間違ってないだろう。


「忙しくなりそうだね」


 隣を歩く篠森に今朝の顔を思い出す。ただ、あれは朝に終わった話だと俺は口を噤んだ。

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