帝国皇子付きの憂鬱5
閲覧ありがとうございます。
試験終了後、休憩所に戻った僕達を待っていたのはこれから試験を受ける人々の熱視線だった。
クラレス以外はその視線は気にならないようで、テントに入るとまたレヴィの鮮やかな魔法捌きで淹れたお茶を飲みながら英雄を待つことになった。
クロノバレド諸国側から見たクロヴィアの砦の戦いについて聞きながら、ヴィアラクテア王国について考えを巡らせた。
あの国がクロノバレドの土地を諦めたとは考え難い。
この10年侵略戦争を行わなかったのは何か理由があるはずだ。
それこそ先程の大使の様子からして入試で優秀な人材を引き抜こうとしているのは明白であるし、戦争の準備を怠ってはいないと見ていいだろう。
ガレリア帝国への侵略もいつまた始まるか分からない。
過去の歴史ではクロノバレドの次にガレリア、次にカリギュラがその土地を狙われて来た。
アルテナス神興国が攻められた記録はガレリアにはないがそれは人類史が記録され始めた頃からの話で、それ以前の1000年以上前ではあったかも知れない。
現在の地理ではヴィアラクテア王国からサウスポティエの森を挟んでガレリア帝国があり、そこから更に街道や山を越えてアルテナス神興国がある。
ヴィアラクテアがもしアルテナス神興国を攻めるとなればまずガレリア帝国を落としてから行く方が効率が良い。
そのためガレリア帝国とアルテナス神興国が親密になるのは当然の流れとして、それをさせないようにヴィアラクテアは自国の貴族を送り込んだりして牽制して来ているのである。
そしてマチピロス大陸では珍しい海路の貿易手段を持ち、それがギルドの主な収入源となっている海洋貿易国家カリギュラ。
あの国は立地がかなり良くヴィアラクテアも領土の一部が海に面しているが港として機能する環境ではない為、やむなく陸路での貿易がメインとなっている。
南側の土地というのは作物の実りがよく気候も温暖で人々にとって暮らし易い場所だが、それは魔物にとっても同じことであるらしい。
北のダンジョン程の強個体は少ないものの、とにかく南のダンジョンは魔物の数が多いことで有名だ。
ヴィアラクテアが港として使えるだろう海に面した土地の周辺には大きなダンジョンが幾つも存在し、港の工事をしたり大きな船を停泊させるにはそこから湧き出す魔物をどうにかしなくてはならない。
しかし前述の通り南のダンジョンは魔物の個体数が兎に角多い為、1つのダンジョンの魔物を討伐するだけでもかなり大規模な軍隊を編成する必要がある。
他国へ攻める機会の多い大国だが、もし兵を送り込んでしまえば日頃攻め込まれているクロノバレドから報復を受けるのは必至。
そして仮に港周辺の魔物を一掃し開港に漕ぎ着けたとしてもそれを維持するコストが掛かるし何より交易路が安定していなければ意味がない。
クロノバレド諸国と海洋貿易国家カリギュラはヴィアラクテア王国周辺のダンジョンを大きく迂回して通る海路を採用しており、そこは貿易路以外にヴィアラクテアから手を出されない抜け道としても利用されている。
あの国からすれば抜け道の存在を知りつつも立地的に手を出せないところなので、カリギュラへはサウスポティエの森からガレリア帝国を足掛かりに攻めるのが定石となっている。
テントへやって来たジョウ・シュトロイゼンがニーナ達魔人へ謝罪をしてそのまま雑談に入り親交を深めていくのを傍目に見ながら、別会場となった主人はどうなっているのだろうかとふと思った。
恐らく試験方式は同じであろうから上手く相手を見つけているとは思うが、感知魔法は周囲を把握出来てもどんな人物かは見抜くことが出来ないので変なのに捕まっていないことを祈るばかりだ。
彼が変なのに捕まったりすると大抵尻拭いはこちらがやる羽目になるので、出来れば試験会場が同じの方が色々事前に片付けられたので有り難かった。
まぁ今回に限って言えば珍しい魔法使い達を見られたので損はなかったと言えるが。
ジョシュと呼んで欲しいと言った彼はレヴィが相当お気に召したようで、よく話し掛けていた。
何やら試験中に勝ったら願いを聞くとか言う宣言をしていたらしい。
クロノバレドの英雄に懐かれたのに彼女は興味なさげな顔であしらっていた。
そんな態度が彼には新鮮に映ったのだろうか。
実技試験2戦目はレヴィのお陰で相手が棄権したことにより、特に何をすることもなく終了した。
見覚えが無いのでガレリアの人間ではないだろう、貴族らしい言動と価値観を持った少年達が恐れ慄く様はなかなかに面白かった。
そして彼らが怯える度に何処か遠いところを見るように現実逃避しているらしいレヴィの姿も興味深かった。
在校生に今晩泊まる宿舎内へ案内してもらう、という時に別の生徒がやって来て名前を確認されるとジャスパーとは別の場所へ連れて行かれた。
あぁ、てっきりグレイだけが案内されるものと思っていたが僕も該当しているのか。
どうやら外国の高位貴族以上向けの宿泊施設へ案内されるようだ。
きっとグレイが僕を呼んだんだろう。
僕的には行軍で野宿経験もあるしどちらでも問題なかったのだが。
アルティ学院内、本塔の上階へ案内されると来賓室のような豪奢な部屋に案内された。
談話室らしい暖炉のある大きなソファに腰掛けてこちらを見たのは見慣れた金色の髪の主人だ。
「もう終わられたのですか?随分早かったですね」
「あぁ。順番が早かったんだ。お前はもっと遅くなると思っていたが」
「それがちょっとしたイベントがありまして。相手が棄権してくれたんです」
「どういうことだ?」
興味ありげな主人に話題の一つとして先程の実技試験のことを話した。
魔人と組んだことにも大変驚いていたが、何より驚いていたのは無詠唱魔法を複数使いこなすレヴィの存在だった。
.
いいね、評価などありがとうございます!
もし面白いと思われた方がいらっしゃればいいねや評価、ブックマークなど頂ければ嬉しく思います!




