散策1
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洗浄魔法で洗ってあった洋服に袖を通し、ベルを鳴らすとテーブルに敷いてあるランチョンマットの上に魔力リングが出現し朝食が現れる。
初めて見るタイプの魔法にとても興味を惹かれたので、ランチョンマットを詳しく見てみることにした。
上に置かれたティーセットとスープ皿、ゆで卵の入ったココット、ミニサラダボウルと焼きたてのスコーンやサンドイッチ、トーストの乗ったプレートとカトラリーをマットから退かす。
朝から随分と豪華だと思ったが、今までの遠征でも師匠が予約する宿は大体ランクの高い所だったので今回もきっとそうなのだろう。
一体どこからそんな予算が出て来るのかはよく分からないが、研究をしたり魔法薬を作ったり色々なことをして稼いでいるとリーレットさん達は言っていた。
全てずらしてマットを取ると畳んでテーブルの端に置いた。
お腹が空いたのでまずは朝食だ。
マットは汚れたりしないように退かしたが、代わりに紙ナプキンをテーブルに敷くことにした。
まずはフォークを手に取りサラダを口に運んだ。
シャキシャキとみずみずしい歯応えが心地よく、泥臭さもない。
サンドイッチはチーズとハム、それとよく知らない白身魚のフライが挟まったものの2種類がありトーストもハーフカットが2種類とジャムが幾つか添えてあった。
スープはサイコロ状の野菜が沢山入っていて食べ応えがある。
紅茶は3種類から選べ、茶葉を入れるだけで勝手に淹れてくれる魔法ポットが付いていた。
西の大陸原産の紅茶を選んでポットへ入れて蓋を閉じた。
これだけで美味しい紅茶が飲めるのはとても便利だと思う。
サンドイッチをつまみながら先程のマットを調べる。
今はマナーに煩いラリューヌさんはいないのでお行儀悪く食べながら作業してしまおう。
ラリューヌさんは術式を使い魔力を他の物に付与する魔術師で師匠に召喚術式を教えた人だ。
藍色の髪に紫色の眼が綺麗な美女でどこかの国の貴族なのだと言っていた。
そのためか来るたびにマナーを教えてくれるのだが有難い反面、口煩いとも思ってしまうのである。
師匠の友人はリーレットさん、ラリューヌさんとあと一人男性がいる。
私の勘ではその男性と師匠は良い仲だと思う。
師匠には内緒だけどね!
気を取り直してまじまじとマットの模様や縫い目をくまなく見る。
どうやらこのマットには糸に魔力が込められているらしい。
カラーはシンプルなオレンジ地に白と赤の花模様に金色の糸で花弁を縁取ってある。
なんか、この糸見たことあるな?
うーん、と何回か唸ったが答えが見つかることはなかった。
食べ終わったらマットに使い終えた食器を乗せておくよう指示の書かれた紙が入っていたのでその通りにテーブルにセットしておいた。
その後、食後の紅茶とスコーンまでしっかりと楽しんで現在9時。
主に他の生鮮食品や漁船が漁獲した物を売る朝市は10時頃まで。
それ以降は交易船が行き交い船員が休憩を取るので市場はランチタイムに差し掛かる。
昨日は14時ごろに到着したから朝市もランチタイムも終わっていたし、生鮮食品も品薄で加工品が主だった。
調合や魔法関連の商品は中央組合が管理している区画で登録された物しか販売出来ないので今日はそこへ行きたいな。
そこまで考えてふと思った。
…ん?あのお婆さんから買ったペンダントは恐らく魔道具に分類されるわけだけど、組合から認可されてるの?
も、もしかして無許可の店舗から買っちゃった?
詳しいことは分からないけど買うのもきっとダメだよね…。
よし!このペンダントのことは黙っておこう。
幸いローブを着てるしブラウスの中にしまっちゃえば見えないから大丈夫でしょ!
そう結論すると早速身支度を整えて意気揚々と宿屋を飛び出した。
市場では昨日より歩いてる人の見た目が全然違った。
やはり交易船が到着している関係か船乗り然とした大男や、中には魔物の血が入っているだろう体の一部が獣化している人もいた。
きっと彼等は大陸の東にある魔物と人が共存する国の国民だろう。
ここカリギュラは貿易の拠点となっているのもあり比較的人間以外の種族に寛容だが他の、特に南にある王国は貴族を中心に差別意識が根強いので入国すら許されない。
そのせいか南と東の国はずっと昔から争いが絶えないという。
国民性を大まかに纏めると南は基本的に寛容だが傲慢で豪快な気質の人が多い。
因みに海洋貿易国家カリギュラも地理的には南にあたる。
カリギュラからとても大きな森を挟んで北側にガレリア帝国という国がある。
東は伝統を守る慣習があり、女神信仰とはまた違う信仰対象があるらしい。
保守的だが色んな種族が出入りする関係で文化は豊かだそうだ。
西はファルファーラを含む森や砂漠が殆どで街や国はあまりない。
その代わり人が立ち入らない未開の地があるので冒険者や研究者がよくやって来る。
北は殆ど分からない。
地図を見ても他よりも小さな国が一つあるだけでそれ以外は黒く塗りつぶされているのだ。
塗り潰されたその下にただ一言、閉ざされた北の大地と書かれていた。
因みにファンタジーらしくダンジョンは大陸の各地にあり、大陸以外の大地はほぼダンジョンらしい。
地球だと丸くなっているので真っ直ぐ進むと最後は元の場所に戻るが、その辺りどうなっているのか気になるところではある。
『それは私も気になるワ』
「ひょえあ!?」
突然聞こえた声に驚いて思わず変な声を上げてしまった。
お店の人や通り掛かりの人達の視線が痛い。
そして何よりとてつもなく恥ずかしかった。
フードを深く被って俯きながら頭の中に話しかけてきた女神様に苦言を呈した。
「急に話し掛けないでよ。びっくりしたんだけど」
『あら、それは悪かったワね』
女神様は悪びれた様子を欠片も感じさせない楽しそうな声で言った。
「どうやって話し掛けてるの?」
『昨夜も一心同体だって言ったでしょ。声に出さなくても念じれば通じるワ』
ね、念じる…。イマジナリーフレンド的な?
実在してるみたいだからイマジナリーじゃないけど。
さすがに現代の様にイヤホンもないのに独り言をずっと喋っていると不審に思われてしまうので、早速実践してみる。
ーねぇ、今って私の声は聞こえてるの?
『もちろん。貴女の方から話し掛けるにはちゃんと呼びかける必要があるから気をつけるのよ』
ー呼びかける?どんな風にやればいいの?
『名前を呼んだりして私が話掛けられていると認識すれば出てこられるワ』
ー分かった。
そんな縛り的なものがあるのか。
話す時はちゃんと女神様を呼ぶ、ね。覚えておかないと。
確かに関係ない会話の度に女神様に出て来られたら訳分からなくなりそうだしその方が助かるかも。
ーでも一心同体の割に体の主導権は私にある気がするけど…
『あぁ、それね。本当はいつでも入れ替われるワよ』
な、
「なんですと!!?」
思わず心の中で収まり切らずに口から出てきてしまった。
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