怪しげな人々
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街から少し離れた街道脇に馬車を止め、まずはリーレットさんにご挨拶しようと思い師匠にくっ付いて待ち合わせ場所に向かった。
あの人のお陰で早速街に来られたわけだし。
本当は昨日の疲れがまだ残っていたが、そんなことは言っていられない。
次またいつ来られるとも分からないのだ。このチャンスを逃す手はない。
街道を辿って港町を目指していると、入り口らしき木で出来た鳥居の様なものが見えて来た。
歩いている私達を追い抜いて続々と荷馬車がそこを目指している。
ざわざわと大勢の人の声が聞こえてくる頃、突然目の前が暗くなった。
「っ!?」
「貴女の髪色は人目を引くだろうから、街中ではそれを被っておきなさい」
そう言って師匠はオレンジの玉飾りに金のタッセルがついた耳飾りを出して自身の耳に着けていた。
何かの魔法が掛かっているアクセサリーなのかな?
師匠に言われ慌てて掛けられた、フチに金の糸で蝶の刺繍がされている黒いローブを着直してフードを被った。
そうだった。この世界では黒髪はあまりいないとパピヨンに来た人達に言われた事があったな。
このローブは首元のボタンを留めると魔法でロックされるので風などでフードが外れないで済むそうだ。
魔法はこういうところが便利だと改めて思った。
街に入るとすぐ市場のある通りがあり、活気ある人々の声があちらこちらから聞こえてくる。
待ち合わせ場所はこの通りの先で、市場の中央にある建国者カリギュラの像が立っている広場だそうだ。
この国は主に沢山の交易船や漁船とそこで扱っている品物を売る市場から成り立っている。
この地の出身者から出稼ぎに来ている者まで自由に店を出して良いが、代わりに中央組合に登録する必要がある。
登録の際に身元を保証する者、町の代表者や他の組合員などを複数人用意しなければならずその為の名貸し業も存在するらしい。
きょろきょろと並ぶ出店を見ているとオーニングの垂幕部分に布が縫い付けてある。
何だろうと思い師匠に聞いてみると、
「あれは組合番号よ。何かトラブルがあった時に中央組合に伝えれば対処してくれるわ。買い物をする時は覚えておきなさい」
組合は消費者センターのような役割もしているらしい。
紛い物を売り付けられた時や強引な勧誘などに備えて寄った店は覚えておいた方が良さそうだ。
人が沢山いた通りを抜けると広場に出た。
中央の噴水には待ち合わせをしている人がそれなりに居たが、やはり師匠の友人なだけあって見つけやすい。
艶のあるベージュ色の髪が顎下で二つ結びになっていて緑色の帽子、ライトブラウンのローブが若草色の瞳に良く似合っている。
ローブには緑のラインに金の刺繍が施されていて陽射しに当たってキラキラしている。
こちらが見付けてから数拍置いてあちらも見付けたらしく手を振ってくれた。
「アムリネ!それにレヴィ、半年ぶりね。元気にしてた?」
「リーレット、連絡ありがとう。あとアドバイス通りレヴィも連れて来たわ」
「リーレットさん、師匠にアドバイスしてくれてありがとうございます。お陰で街に来ることが出来ました」
「良いのよ〜!レヴィは私が他で見た子供達よりも聞き分けも頭も良いから、きっと大丈夫って言っただけよ」
童顔なのを気にしているリーレットさんが左目をパチリと閉じてウインクしてくれた。
2人はこのままギルドへ向かうそうなので、私も市場へ戻ってみようと踵を返したところで師匠に呼び止められた。
「レヴィ」
「はい、師匠。なんですか?」
「念の為フェローを連れて行きなさい。多分今日は遅くなるわ、先に宿に行ってて頂戴」
「分かりました」
これを渡されるのは久しぶりだ。
東の森に採取に行った際師匠とはぐれてしまい、事前に貰っていたこれを使ってフェローを呼び出して合流したことがあった。
師匠に渡されたのは宿屋の名前と場所の書かれた紙、それとフェローの召喚術式が組み込まれたフレアクリスタルの欠片で、以前実験中に割ってしまった私のグローブに入っているフレアクリスタルの元の石だ。
術式を使い、物に魔力や魔法を付与することの出来る者を魔術師という。
友人の1人から使い魔を召喚する術式を付与したクリスタルのことを聞いたのだそう。
親指の爪程の小さい物なら比較的容易に付与出来るが一回だけの使い捨てとなる。
最初は手のひらサイズのフレアクリスタルに付与しようとしたらしいのだが、失敗してしまい粉々に。
残骸から幾つか使い捨ての召喚石を作り、それに満たないサイズを私にくれたのだった。
貰った使い捨て召喚石をローブの内ポケットに仕舞って今度こそ市場へ繰り出した。
「採れたて新鮮な卵よ!」
「今朝の魚、これひとカゴで銅貨7枚!安いよ!」
「東の国の珍しい茶葉だよ!一口飲んでみない?」
通りのあちらこちらから元気な呼び子の声が聞こえる。
市場と言えば朝が一番賑やかなイメージだったが昼を過ぎても通りには常に人が絶えない。
右や左、前や後ろに首を忙しなく動かしていたのが悪かったのかも知れない。
注意散漫になっていたせいで大通りの脇にある路地裏から出て来る人影に気が付かなかった。
ドン、とそれなりに勢いよくぶつかってしまい、後ろに数歩よろけてしまった。
謝ろうと思い相手を見ると、まるで作り物の様な整い過ぎた顔に言葉が出なかった。
被っているローブ越しでも分かる真紅の眼がこちらを捉える事なくゆらゆらと揺れている。
「おや、失礼。お怪我はありませんか?」
ぶつかってしまった人とは違う方向からも声が聞こえ咄嗟に俯いた。
複数人いたのか…路地裏から出て来たし関わったらヤバい人なのかも。
それに丁寧な口調のはずなのに何だか鋭い声色だった。
「あ、だ、大丈夫…です」
咄嗟にフードを深く被り目を合わせない様に通り過ぎようとした。
しかしそうは問屋が下さないらしい。
「おい、待て」
ぶつかった人から待ったを掛けられた。
こちらは口調も声色もとても鋭かった。
こ、こわ!どうしようお金を要求されるかも…今お小遣いあるしちょっと貴重なアイテムも持ってるし!
「どういう事だ。これは…ギル?」
「っ、まさかお見えになるのですか?」
よく分からない会話をして顔を見合わせているローブの二人組。
今だ!そう思い彼らのいる方とは逆の路地裏へ突っ走る。
大通りは人が多くて紛れられそうではあるが流されたら終わりだ。
なら幻覚草の粉末もフェローもいるからむしろ人気のないところへ行った方がいい。
「ああ…おい、待て!待ってくれ!」
後ろでなんか言っているが待てと言われて待つ馬鹿はいない。
と、ここまでは良かったのだが。
「待ちなさいと言っているでしょう」
路地裏に入ってすぐのところで先程の人物に追いつかれグイッと腕を掴まれ捻りあげられた。
「痛っ!」
痛みに顔を歪めるとすぐに後ろからもう一人も近づいて来る音がした。
「丁重に扱え、ギル」
「すみません、」
主従関係でもあるのか、腕を掴んでいた男は思わずと言った様子で手を離した。
捻りあげられた腕を摩っているフリをしてポシェットから幻覚草の粉末を取り出した。
「危害は加えない、ただ聞きたいことがある。君は…、っ!!」
「グレイ!危ない!」
急に何やら話し始めたのでその隙に顔目掛けて粉末をぶち撒けた。
2人が怯んだ隙に路地の奥へ向かって走る。
「く、なんなんだこれは!」
「動かないで下さい!何を蒔かれたか分かりません。有毒な物でないか確認してからでないと…」
「あれは…母上?」
「?母君はもう亡くなられた筈では…この色に匂い、そうか!これは幻覚草です」
「幻覚?…そうか。だがこの目で再び母上を見られるとはな」
少年は懐かしそうに真紅の目を細めた。
年の近い従者はその目から次第に光がなくなっていくのを複雑な気持ちで見ていた。
完全に闇に閉ざされた視界の中、少年は先程の光景を焼き付ける様に目を閉じた。
「ギルバート、あの者を探せ。彼女こそ探していた聖女に違いない」
「御意。しかし、あそこまであからさまに拒絶されるなんて…腕を掴んだのが不味かったですかね?」
「知らん。だがあの者に触れた途端、今まで何も見えなかったはずの目が見える様になった」
「ではあの話は本当の様ですね。聖女と婚姻をした王族が…」
「眉唾だと思っていたが、実際に目の当たりにするとは。今でも信じられん」
そう言って少年は先程ぶつかった場所を触りながらフッと笑みを浮かべた。
滅多に見られない笑みに従者は瞠目したが、無理もないと頭を緩く振った。
何せ生まれながらに目が弱く陽の光をまともに見ることが出来なかった。
それに加えてここ数年は完全に盲目になってしまい得意だった剣も手に取らなくなってしまっていたのだから。
先程の人物は魔法の掛かった特殊なローブを着ていたのか、顔がよく判別出来なかった。
ローブの特徴は覚えているがもうすぐ日が暮れるので一度主人を宿へ連れて行かねばならない。
かの人が聖女ならば女性だとして、背丈は自分よりも頭一つ分半は小さかったのでまだ子供の可能性が高い。
年齢だけを考えれば主人と婚姻を結ぶのにこれ以上ない好条件だ。
「そういえばもう変装は良かったのか?」
「何を今更。貴方、最初から変装する気なんてなかったですよね」
「ちゃんとあったさ。だからこんな物まで被ったんじゃないか」
「ローブ一枚羽織っただけで変装とは恐れ入りますよ、全く」
「まぁこんなに早く見つかるとは夢にも思わなかったがな」
「僕もです。ここ数十年、我が国では報告されていませんでしたからね」
見つかってしまった彼女にはお気の毒ですが、我がガレリア帝国へお越し頂きましょうか。
まずはこの我儘な皇子を宿に置いてからですがね。
幼少期は幼馴染として共に育った為、お互いにプライベートでは仕事の絡まない話もする。
ただそれも目の悪化と共に内容は聖女や伝承など今では空想に近いものを日々探すことへと変わっていった。
これを機に少しでも為政者として前を向けると良いのだが。
聖女を探し遠路遥々この地へとやって来ていた彼らは知る由もない。
探していた人物は彼女が知らないだけで伝説級の魔女が保護者をしており、彼女達は常に過剰戦力を持ち歩いていて、非常時には躊躇せず使って来ると言うことを。
あー、怖かった。
やっぱり人が多いとああ言う人もいるんだな。
未だバクバクと痛いくらいに鳴る心臓の音を聞きながら、路地奥でしゃがみ込んでいた。
さて、随分走ったから撒けたとは思うけど、ここはどこだろう?
周囲を見回すと先程いた大通りの市場とは違い、なんだか寂れた雰囲気が漂っている気がする。
歩いてる人は疎らで店というよりは物置の様な建物が何軒も連なっている。
もしかしてここはカリギュラの住民の居住区なのかな?
表通りで商売をしていた住民というよりはやや貧民街寄りなオンボロ感があるけど。
ただガラの悪そうな人はいなさそうなので少し探索してみることにする。
幻覚草の粉末はあと一袋しかないが、最悪フェローを喚んで連れて帰ってもらおう。
少し歩くと市場の様な場所に出た。
ここは最初に見た市場よりも静かで全体的にお店に年季が感じられる。
神社の仲見世通りの様に狭い道にひしめき合っている所を見るとなんだか懐かしくなる。
興味本位で覗いていくと途中のお店に目を惹かれて立ち止まった。
そこは骨董品でも扱っているのか古い壺や紙や布の絵、人形から装飾品まで色々置いてあった。
割れて苔の生えた木のテーブルに乗っている陶器の大皿に溢れんばかりの装飾品が積まれている。
皿の下にはどれでも一つ金貨一枚と書かれた紙が挟まっていた。
そういえばこの世界の文字や言語は日本語ではなさそうなのだが、私には全て日本語に変換されている。
意思疎通に苦労しないのは助かることではあるのだが、なんだか薄気味悪くも感じてしまう。
どんな物があるのかと大皿の中を覗き込んでいると、奥から店主らしき老婆が現れて声を掛けられた。
「おや、珍しいお客さんじゃないか」
「ぁ、こんにちは」
とりあえず挨拶をしてみた。
「ここへは初めて来たのかい?」
「えぇ、まぁ」
「何かお探しで?」
「いいえ。特には…」
話し相手に飢えているのかな。
やけに積極的に話しかけられてしまい次の店へ行く機会を失ってしまった。
どうしよう。そういえば現代でもよく店頭販売員の人に話しかけられて30分位捕まってたことがあったな。
その後も何回か質問をされては答えていたら、突然老婆が店の奥へ引っ込んでいった。
この隙に行こうかとも思ったのだが彼女がちょっと待っててくれと言ったので、立ち去るのも何だか気が引けた。
そうして機会を逃しているうちに戻って来てしまった様だ。
「待たせたね。どれでも銀貨一枚だ。好きなのを持って行きな」
「え?これって…」
これはさっき見ていた大皿に盛られた装飾品と似ている。
大皿が籠になっただけで特に内容は同じに見えるのだが。
なんだろう、これキッズメニュー頼んだ時に子供が幾つかある中からオモチャを一つ貰うのと同じような感じがする。
つまり私凄い子供に見られてるってこと?そりゃあ街を歩いていても他より背が低い気はしてたけど、そんなかな?
思わず差し出された籠を困惑した顔で見つめていると、
「この中には大昔の偉人が作ったと言われる骨董品も入ってるんだよ?」
なんて怪しいんだ。よく鑑定番組で偽物を掴まされる人が売り手から聞かされる常套句じゃないか。
更に疑わしげな視線もプラスすると老婆は溜息を吐いて言った。
「疑り深い子だね。じゃあ特別だ。金貨一枚でこの杯いっぱい分やろう」
…もう買うまで離してくれなさそうだな。
まぁどうせ欲しい物も特にないし。向こうも在庫を掃かせたいのかも。
「じゃあ一回だけ」
「まいど。これが杯だよ」
受け取った杯を逆さにして籠の中へ突っ込むと、じゃりじゃりと音を鳴らして装飾品を中へ入れていく。
山盛り取ることも考えたがそんなにあっても帰りの荷物が多くなって鬱陶しいのですり切り一杯くらいで止めておいた。
「…やっぱりね。アンタ、ここへは偶然来たのかい?」
「はい。市場の裏手にこんな場所があるとは思いませんでした」
不審者に追い掛けられて必死だったのでどうやってここまで来たのかイマイチ思い出せない。
今更になって師匠と待ち合わせの宿へ行けるのか不安になってきた。
私の言葉を聞いた彼女は引き攣った笑みを浮かべ勿体ぶる様に言った。
「ここはね、表には出回らないものが置いてある所だよ」
「表?」
「最初に通って来たはずさ。地元じゃあちらは表通りでこちらが裏通り。見て分かるだろうが、ここいらは貧乏人の家ばかりで目ぼしいもんなんかない」
確かにここもお店というよりは良くて簡素な露店、悪く言うと物置小屋だった。
私の思っていることを分かっているかのように老婆は続けた。
「けどあちらじゃ扱ってない情報や品物もこちらでなら手に入ることがあるのさ」
「情報…」
師匠はこのカリギュラという国は大陸で一番物と情報が集まると言っていた。
それはこの裏通りの存在も含まれているということ?
情報というがそれは具体的にどんな情報なのだろうか。
先程まで受け流す様な相槌しかしていなかったが、表にないという話に少し興味をそそられた。
しかし老婆はそれ以上話す気はないようで、商品を入れる用の麻袋に私が掬い取った装飾品をザラっと入れると紐を軽く縛って渡して来た。
「はい。これは夜一人になってから開けるんだよ」
「え?それはどういう、」
「さあさあ今日は店仕舞いだ。もうじき日が暮れる。さっさと帰りな」
老人とは思えない力でくるりと反転させられてしまい、渡された麻袋を握り締めたまま通りに向かって背を押された。
仕方なく何歩か進んでから、そうだ表通りへの行き方を聞けば良かったと思い振り返った。
そんなに進んだつもりはなかったのだが、老婆がいたはずの店は既に無くなっていた。
店仕舞いと言っていたし片付けたのかもしれないがこの短時間にあの雑多な商品を全て仕舞ったとは考えにくい。
今になって思えば表通りの店にはオーニングに組合番号が縫い付けてあったがあの店にはそれらしい物がなかった。
あの老婆は何だったんだろう。もしかして人間じゃないとか…?なんてね。
ふと気がつくとさっき老婆の店に居た時は不思議となにも聞こえて来なかったのに、今は何処からか表通りのものらしき喧騒が微かに聞こえる。
裏通りと呼ばれていたあの場所を出てからの記憶は酷く曖昧だった。
賑やかな方へ惹かれる様にふらふらと歩き、表通りだろう場所へ出る頃にはすっかり陽は沈んでいた。
夜になっても街は人通りが多く賑やかで、店先には昼間見た生ものの加工品が新たに並べられていた。
果物はジュースになり、生魚や生肉はこんがりと焼かれていてとても美味しそうな香りがする。
輸入した雑貨を扱っている店はランプや魔法の灯りでライトアップされていて昼にはない幻想的な雰囲気が醸し出されている。
こうして朝、昼、夜とお祭りの様に色々なお店を回れると思うとあっという間に時間が過ぎてしまうだろう。
師匠が宿を取ったのはこういったものも理由の一つかもしれない。
通りを進むとベンチやテーブルが沢山置いてある広場に出た。
よく見ると待ち合わせ場所の目印にしていたカリギュラ像があるがその近くには噴水がない。
という事は最初に待ち合わせた広場とは違う所で、ここは飲食目的の人用なのだろう。
なんとか貰った紙に書かれていた宿屋を見つけることが出来た。
残念ながらまだ師匠は来ていない様なので先に部屋で休ませてもらうことにした。
備え付けのシャワーを浴びて魔法で髪を乾かし、丁度よく運ばれて来た夕食を食べてひと息吐くとベッドに横になった。
つ、疲れた…。
昨日の疲れと今日の疲れが混ぜ合わさって体が重怠くてしょうがない。
ぐったりとベッドに四肢を投げ出しそのまま眠気に従って瞼を下ろそうとした時、何となく老婆から買ったあの装飾品達が気になった。
確か、夜一人になった時に開けろと言っていたな。
今がまさにそのタイミングである。
でも体は動きそうにない。
今日はやめておこうかな…と思い瞼を閉じた。
……やっぱり気になる。
結局好奇心に逆らえずベッドからのそのそと起きてサイドテーブルに敷いてある布ナプキンと置きっぱなしにしていた麻袋を持って再びベッドへダイブした。
本来ならサイドテーブルで作業するべき所だが、いかんせん体の怠さが酷いのでちょっと見たらすぐ寝るつもりだ。
ジャラジャラ、ガチャガチャ。
金属と石の擦れる音が室内に響く。
やっぱり中はガラクタばかりみたいだ。
中にはチェーンの切れたネックレス、石の嵌まってない指輪、ひしゃげたコインや錆びた懐中時計などなど。
そのままでは使えそうにないが、魔法で修理したりすれば何かに使えるかもしれないな。
見るからにもう使い道の無いものをナプキンの端に避けていくと、幾つものチェーンが絡まった金属の塊が出て来た。
うわぁ、これ朝ネックレス着けて出掛けようとしたら他のと絡まってて引きちぎりたくなるやつだ。
うんざりしながら絡まったチェーンの塊を見つめて手のひらに乗せてみた。
すると突然、絡み付いていたチェーンの塊がずるりと剥がれ落ち、中からペンダントが出て来た。
え?
驚きのあまり眠気が一気に吹っ飛んだ。なんだ今の。
手のひらに残ったチェーンの残骸をナプキンに落とし、残ったペンダントを見つめる。
シルバーの装飾が美しい蒼い石の嵌ったペンダントトップだ。
チェーンも同色のシルバーで先程絡み付いていたのが嘘の様にしゃらりと塊から抜け出て来た。
これ、もしかして魔法が掛かってるのかな。
じゃないとこんな不思議な現象起こらないよね。
恐る恐るペンダントを観察してみる。
中にはとても美しい蒼い石が埋め込まれていた。
石は透明度が高く、光る何かが中心部に見える。
もう少しよく見ようとペンダントに顔を近付けて覗き込んだ瞬間。
私の視界は真っ暗になった。
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