入試対策2
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「み、南の国ですか?、げほ」
「そうよ。あくまで予定だけどね」
しばらく咳き込んでやっと話せるようになってきた。
咽せたせいで痰が絡んできたので話しながら慎重にお茶を口に含んだ。
南の国と言うと入国審査が厳しく人種と階級差別の激しい国と聞いたが、大丈夫なのだろうか。
私の考えていることが分かったのか、師匠は続けて言った。
「行くのは王都ではないから大丈夫よ。幾つか作る予定だけど、まずはサウスポティエとの境界辺りに目星を付けてるの」
「サウスポティエ……」
「ここから近いところだと西の端の方ね。何度か採取に行ったでしょう?」
「はい。相当広い森ですよね」
「一つの森と言うには大き過ぎるくらいの規模だけど、原住民がいるからか誰も手出しできないのよね。ある意味では国と言っても差し支えないんじゃない?」
あぁ、だからそこなのか。
ヴィアラクテアが手を出せないということはそうせざるを得ない″何か″がそこにあるんだろう。
あれだけ大きな国が今まで侵略していないとなると、原住民が相当強いとか?もしくは何処かが後ろ盾になっているのかな?
師匠にとって拠点とする為の必要な項目はクリアしているようだし、あの森は魔法薬の材料も豊富だから良い環境だろうなぁ。
ちょっと良いなと思ったけど、ならこのパピヨンはどうするんだろう?と疑問が浮上した。
「ここはどうするんですか?」
「貴女がアルティ学院に通っている間もここは稼働させておくわ。長期休暇や実習で必要になるだろうし。万が一落ちたらここで私の代わりに魔法薬の受注をしてもらおうかしら」
「ゲッ……受かるように頑張ります」
あんな納品日近くなると徹夜を強いられる量の受注なんて絶対に受けたくないんだけど!
これは絶対に入試通らないと今世の青春が終わるな。
師匠のことだから魔法薬の納品だけでお茶の加工はまた別に受注させられるに決まってる!
つまり業務量は最低でも5割増しだ。鬼かな?
嫌な顔をする私を咎めることもなく、師匠はパウンドケーキに舌鼓を打ちながら使い魔たちの今後についても話し始めた。
「使い魔たちのことだけど、ポチとクイーンは連れて行く予定よ」
「フェローはどうするんですか?」
「あの子は機動力があるから何年かは貴女のところの方が動くのに良いでしょう。サウスポティエは原住民がいるから私が受け入れられるまでフェロー1匹で自由に走らせてあげられないもの」
何でもない顔でそう言った師匠だが、理由は果たしてそれだけなのだろうか。
フェローは他の使い魔とは違い拡張魔法の掛かった棲家からよく出る子なので間違ったことは言っていない。
でもあの子はとても頭が良いので言えば分かると思うんだけどな。
因みにフェローはその気になれば平時のライオンくらいのサイズからさらに二回り以上体を大きくすることができる。
これは近縁種の魔物の特徴で、様々な種族と交われるように体のサイズをある程度変えられるのだ。
東の国にはヒト型になれる魔物もいるとセルージュさんが言っていた。
現在私は9歳で入試まではあと3年と少し時間があるわけだがどうやら師匠はそれよりも早く、おそらくは入試以後も見据えて勉強させたいようだった。
気持ちは有難いが、言い出したのはあの師匠である。
果たして勉強だけで済むのか今から不安しか感じないんだが。
あれから数日。
今日はラリューヌさんが美容特化の魔法薬を回収に来ることになっている。
そして私のアルティ学院入学に向けての勉強という名の修行が始まる日でもあった。
「あの、遠いところをありがとうございます。ラリューヌさん」
「気にしないで。私も魔法薬を取りに来る用事があったもの」
藍色の長い髪を後ろで一本の三つ編みに結った紫色の瞳を持つ彼女は、藍色の刺繍を施した白いローブを身に着けていた。
優しくもはっきりとした口調のリーレットさんとはまた違う、酷くおっとりとした穏やかな話し方のラリューヌさん。
しかしこの話し方に騙されてはいけない。
「ではレヴィ、私の屋敷へ着いたらすぐにレッスンを始めましょうね」
「ゔ、はい」
「ダメよ。受け答えははっきりと。吃ってはいけないわ」
「はい。ラリューヌさん」
こんな感じで何をするにもマナーと格式を重んじる貴族然とした受け答えを求められる。
あの、私庶民なんで……お手柔らかにお願いしたいです!なんて意見は師匠が指導を依頼した時点で通るはずもなく。
「よろしい。では参りましょうか。荷物はもう準備出来ている?」
「はい」
「私の馬車に乗せてしまうわね」
「お願いします」
彼女が人差し指をひと振りすると玄関に積んであった私の荷物がパッと姿を消した。
そして納品した魔法薬の入った木箱を白いローブから取り出したシルクの布袋に入れていく。
シルクの袋には拡張魔法が掛けられているようで、袋の容積よりも明らかに大きな木箱がするりと入っていった。
木箱が仕舞われた布袋を大事そうにローブの内ポケットへ入れると玄関扉を開けて外で待機する使い魔と御者に指示を出した。
馬車は師匠の持つものとは全く違い、白い革張りの貴族らしい豪奢な造りで扉には大きな家紋の様なデザインが施されている。
所々に宝石のようなキラキラした石が埋め込まれていて、見た目からお金が掛かっているのがよく分かった。
御者は中年の男性で燕尾服の上にマントを羽織っており、どうやら屋敷に仕えている執事がやっているらしい。
私がじろじろ見ていることに気が付いたラリューヌさんが移動中に世間話程度に教えてくれた。
陸路では通常の御者でも問題ないが、空路となると馬車を引く魔物に慣れた者でないと難しいのだそうだ。
陸よりも不安定な足場で最悪野生の魔物や襲撃者と戦うことになるのでその点も考慮されて彼が選ばれたようだ。
そしてラリューヌさんにはグロウというワイバーンの使い魔がいて毎回馬車を引いて飛んでくるのだが、今回も彼が頑張って引いてくれているらしい。
以前クイーンに色目を使って番いのアンペルに消され掛けたからか、以来パピヨンから少し離れたところにいて待つ様になり馬車から離れなくなったそうだ。
ラリューヌさん的には呼び戻す手間が省けて楽だそうだが、果たしてそれで良いのだろうか。
少しだけグロウに同情した。
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