消えた竜種1
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今回は番外編となります。
アスマリアと初めて出会い、交流を始めて少ししたある晴れた日のこと。
私は彼女と運命的な出会いをした。
いや、ある意味では必然の出会いだったのかも知れない。
それは師匠が数日の留守から帰って来た朝のことだった。
何処かへ行っていた師匠は帰ってくるなりぐったりとリビングのソファへ倒れ込んだあとぴくりとも動かなくなった。
徹夜で何かの作業をしたあとは大体こんな感じだが、外出から帰って来てこの状態は珍しい。
確か出て行く時も終電に乗り遅れそうな人の様に慌ただしかったと記憶している。
あの時は急ぎの用がある、数日は留守にすると言い残して杖を振って何かの魔法を使用して出て行った。
師匠がソファに倒れ込む前に手放した荷物がリビングと直結している玄関前のマットに散らばっている。
こういうところがガサツなんだよなぁ。
そう思いながらクローゼットから取り出したブランケットを師匠に掛け、溜め息混じりに玄関に放置された荷物の回収に行く。
パピヨンのファンシーな見た目にそぐわない古い木の床に敷かれたウェルカムマットを中心にして放り出されたローブや鞄とその中身を回収する。
ローブは見たところ余所行きではなく採取などで使うタイプの物だったので鞄に入れるつもりで手に持っておく。
そしてマットのそばに落ちている鞄に手に持ったローブと薬瓶やよく分からない装置?、見たことがない石を入れていく。
薬瓶はパピヨンで使っている瓶のようだが、中身が入っていないのでなんの薬だったのかは不明だ。
装置はティッシュ箱のような物にホースっぽいのが貫通していてホースの両端にはこれまたよく分からない四角の小さなケースが繋がっていて、中には鉱石が入っている。
こんなものパピヨンにあったっけ?
今までこの家を何回も大掃除して来たし師匠の実験や研究開発にも大なり小なり携わって来たけど、一度もこんな物を見たことがない。
一体これは何のために用意したものなのか。
これまで見たことがないということは、私に見せたくなかった又は知られたくなかったのではないか。
もしかしてもう″必要なくなった″からここに放り出してあるということかな?
一瞬、触ってもいいものか考えたがそこら辺に無造作にほっぽり出している時点でお察しである。
うん。完全に師匠が悪いな!
既に何かあったら師匠のせい!と責任転嫁した私は迷うことなく落とし物を回収していく。
バスタオルまである……本当に何しに行ったんだろう?
旅行というにはスキンケアとかの必需品がないし、実験や研究には荷物が足りない。
いつもの採取とかなら大量の瓶と保存液を拡張魔法を上掛けして詰め込んでいくのに。
バスタオルを回収したその下にハンドタオルサイズの布切れを見つけた。
裏返すと何処かの転移魔法陣が描かれている。
これが行き先なのかな?
特に何も考えずに布切れを仕舞おうと手に取った。
すると突然、魔法陣が淡く光り出した。
え、魔力込めてないけど!?
通常魔法陣を使う時は使用者が魔力を流し込まなければいけない。
今、私は魔力を使用していなかったのだが!?
驚きの余り布切れを床に落としてしまったが、発動した魔法陣は光を強くして行った。
『面白そうだワ!ちょっと行って見ましょうよ!』
ーえ、女神様勝手に
魔法陣がより強く光るとともに転移先に飛ばされてしまったため、その先の言葉は続かなかった。
光が収まると、草と土の香りが鼻腔に広がった。
目を開けて周囲を見回すとどうやら森の中に飛ばされたらしい。
空を見上げて位置を何となく把握する。
パピヨンから大分西に飛ばされたみたいだ。
周りの景色が完全に森だからきっとファルファーラの森だとは思うんだけど、如何せん自生している草花を見る限り入ったことがないエリアっぽい。
今の持ち物は玄関で拾った師匠の荷物だけである。
女神様主導で来てしまったので自身の転移魔法で帰れるとは思えなかった。
だってこの女神、絶対邪魔するに決まってる。
驚いて魔法陣は置いて来ちゃったから師匠が気付いて迎えに来てくれることを祈るしかない。
迎えを待つためにもこの場からあんまり動かない方が良さそうだ。
ここが師匠の目的地だったとしたら、一体何があるのかな?
女神様が勝手に魔力を流し込んでしまったハプニングはあったけど、正直気にはなってた。
ただあの師匠がぐったりするぐらいの何かがあるなら、気を付けないとマズい。下手したら命に関わる気がする。
それから今回勝手をした女神様にはちゃんと釘を刺しておかないと。
ー急にやるの止めてよね女神様!
『えー、良いじゃない!どうせ事前に言ったら貴女、許可しなかったワよね?』
ー……時と場合による。
『なら私も今回はやった方が良い気がしたからやったワ!』
この悪びれない感じ、誰かに似て来たな。
以前より気安い女神様に嬉しさを感じたらいいのか溜め息を吐いたら良いのか分からず複雑な気持ちになった。
女神様の説得は意味が無さそうなので早々に諦めて、改めて周りをもう一度見回すといつものエリアとは大分違うのがよく分かった。
パピヨン周辺の森は比較的陽射しのよく入る見通しの良いところだったが、ここは木々が密集していて昼間にも関わらず薄暗い。
それからいかにも毒性の強そうな草花があちこちに生えているので、これは触れたらヤバそうだ。
師匠の鞄を漁り何か使えそうな物がないか探すと、手袋やゴーグル、外套が出て来たので装着する。
この手袋と外套は採取用で無毒化の魔法を込めた糸が縫い付けられている。
布地も私の持つワイバーンの革より柔らかいアシッドグリズリーの革を使っている。
爪に魔法で毒を付与する彼らは攻撃の際に誤って自分の身体に傷を付けても良いように耐毒と耐斬撃に優れた伸縮性のある皮膚を持っているのだ。
他にも様々な素材の手袋があるのだが、これをチョイスしたなら毒性のある植物の多い場所へ行くのだと想像がつく。
今いる所は周辺を軽く焼いてあるので師匠が作ったに違いない。
屋外なら障害物や足場を確保するために転移魔法陣の周りを整備するのが基本だから。
『ねぇねぇ、せっかくだから奥へ進んでみましょうよ!』
ー私の思考が分かるなら、絶対ここを動かないって分かってるよね?
『だからよ!貴女が動かないなら私が動かすことも出来るワよ?』
ー後で師匠に怒られるのは私なんだけど……はあ。
大きく溜め息を吐いて仕方なく師匠の鞄を抱える。
この手袋や装備からしてきっともっと毒草の密集している場所へ行こうとしていた。
なら右より左のより薄暗くなっているところへ行くべきだろう。
今この女神に体を乗っ取らせるのは絶対嫌だ。
何かあって魔法をぶっ放されても嫌だしそのあとの説明も大変だし、何よりこの女神には毒の知識がないからすぐ死にそうだ。
結局いつも通り流されて仕方なく安全圏を出て行く羽目になった。
師匠、早く迎えに来てくれないかなぁ。
まだパピヨンで眠りこけているだろう緋色の魔女に向かって念じてみたが、しばらく無理な気がした。
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